【最終回】ACE × 華井和代|エシカルでフェアなバッテリーをつくる
「顔が見える」価値の効果は十分にわかってきたが、遠いアフリカの地での顔が見える化は可能なのか。横並びを好む社会の風潮を、これだけSDGsやESGが浸透してきている中、誰が突破してくれるのか。みんでん代表の大石と長島も参加した配信トークはおのずと、中身の濃いものとなった。
全4回の記事を通じて、公開勉強会とQ&Aというかたちで、まずは問題を身近に、そして平易にしようと試みてきたENECT。ここで得た基礎知識をベースに、ここから先は一つ一つ取り組みを積み重ね、伝えていく行為の繰り返しなのだろう。
知らない問題を噛み砕いて講義してくださった華井先生、チョコレートから鉱物へ、世界が必要な取り組みを続けられているACE・近藤さん、岩附さん、ありがとうございました。
多岐に渡る上に深く複雑な問題を、時間内で的確にまわし、聞き手にわかりやすいように展開させてくださったのは、司会のACE・及川さん(右上)
華井先生の仰るように、日本企業は横並びでいることをすごく意識するのと、「消費者が知らないことをわざわざ伝える」ということに恐れを持たれています。それはカカオの児童労働の場合でもそうでした。
カカオのケースでは、ACEがまず森永製菓さんとパートナーシップを結びました。
それはつまり、一企業が「児童労働がありますよ」ということを言っている団体と組み、その後現地のサプライチェーンの仕組みを把握して、「トレーサブルでクリーンなカカオを持って来ます」という確信を持って実現したことで、状況が変わっていったんです。
それが今や、大手のチョコレート企業には、毎年バレンタインの頃には電話で「この製品は児童労働とは関係ないですよね?」という問い合わせが入るようになりました。たぶんそれは、我々がずっと言い続けてきて、本を出し、映画もつくって、若者たちに問題そのものを知っていただけたことが繋がったんだと思います。
それは企業さんにとっても、消費者がそういう関心を持っているということが、社内で取り組みを後押しする力になっていたはずです。ですので、時間はかかるのですが、わかりやすく「こういう問題が存在する」という事実を周知させるという、それは「NGOの役割としてあるかな」と思います。
企業さんにしても、消費者へのチャンネルをたくさん持っているわけで、ある程度意識が高まることでできることも増えるんじゃないかと思います。
それも、さっきの横並び精神だってある一定を超えると、いい方向に機能し出すといいますか、、つまり、逆に「みんなやってるからやらなきゃ」という反応も起き始めます。そうして今、チョコレート企業さんは、とてもいい社会貢献の取り組みをされるようになりました。
ですので、まずは先行事例をつくる。そしてそれを前に進めて、同時に社会的な知識のベースを底上げできると、動きが加速していくのだと思います。
ただ問題は、チョコレートの場合はスーパーでどっちのメーカーの商品を買うか選べるのですが、コバルトで電気自動車となると、「このメーカーのバッテリーは紛争フリーじゃないからあっちを買おう」とは、ならないのです。パソコンにしても、製品の機能が重視されてしまうので、「フェアだから買う」とはなりにくい。飛行機の場合だとさらに、「この重工の機体には乗りません」というようにはなりにくいわけです。
ですので、私たちはもう一段階、直接消費者が何を買うかというだけではない、企業と消費者の間に何かを挟むようなことをすべきなのかもしれません。もっと消費者の力が企業の力になっていくような、今私にはそれがどんな仕組みなのかははっきりわからないのですが、「もう一段階必要だな」ということを考えています。
その上で、ウガンダとルワンダはとても権威主義的な政権なので、いろいろな意味で市民社会活動がやりにくいというお話がありました。ガーナがそれなりに成功した要因は、その2国と比べて民主的な国だったということ。そこには、そういった原料を輸入して最終製品をつくっている国の民主主義の度合いということも、関わってくるのかなと思います。
例えばカカオに、中国はほとんど関わっていません。一人当たりの消費量が多いのはヨーロッパやアメリカ、日本といった国々で、私たちの取り組みに対して政府レベルでの嫌がらせみたいなこともありません。それが、相手が中国となると、そのあたりも難しくなってくるのかなと思いました。
まず、「全体の構造を変えないで児童労働だけをなくすのは難しいのでは?」という質問がきています。そして、続けて「コバルトの手掘り鉱山における生産性を上げ、そこで大人が働くのは難しいのでしょうか?」と。とはいえ、それが難しいからこそ、企業が入りにくいのだろうという風に思います。
そこで、華井先生の報告を起点に「ボイコットが住民の収入に逆効果とすれば、どんな改善方法があるでしょうか?」というのが最後の質問でした。
ルワンダ政府は今、ルワンダから輸出している3Tに関して「100%紛争フリーである」と宣言しています。ルワンダは世界の24%くらいのタンタルを輸出しており、そのすべてに認証を発行しています。
ただ、私はそれが事実ではないと思っています。
彼らは基準を満たさない鉱山は閉めてしまうという施策を打っていますが、実際には閉まっていない可能性があります。政府としてすごく積極的なのは確かですが、とても疑わしい状況であると思います。
ですので、電子タグそのものは高度かもしれませんが、実際にやっていることはまったく高度ではありませんでした。
先ほど問題解決のためにクリアせねばいけない障壁として、中国やウガンダといった国の名前が出ました。そこで国連のような、もっとグローバルな枠組みで何らかの取り組みは進んでいないのでしょうか?
例えば昨年のレポートで印象的だったのは、トラックのタイヤの内側にタンタルをギッシリ入れて密輸するケースが発見され、写真付きの報告があがってきていました。ウガンダ、ルワンダへの密輸が行われていることや、武装勢力の兵士のリクルートに両国が関与していることは、名指しで指摘されています。
ですがウガンダ、ルワンダは国連の中でも非常に特殊な立ち位置で、イギリスやアメリカ、フランスもその2国に対して必要以上のプレッシャーをかけられないという、政治力学が働いています。そういったせめぎ合いの中で、国連のレポートにおいてあそこまで明確に名指しで批判されていてもスルーできるというのは、すごい状態だなと改めて思います。
今日はこのような機会をいただき、ありがとうございました。
みんな電力さんと、ACEさんのこれまでの取り組みの蓄積があって、その上でコバルトの問題に一緒に取り組めたら、本当に大きなムーヴメントになるのではないか。そんなお力をいただけました。
私たちの再生可能エネルギーを選んでくださっている方々は、そういう製品を「買いたい」と言っていただける方々ですし、企業さまとの連合においても横の繋がりで、皆さんすごく協力的に、この問題を広げてくださると思います。
問題が難しくて根深いのはよくわかりましたので、自分も勉強しながら、一歩でも二歩でも進めていきたいなと思います。今日はありがとうございました。
わかりやすいプレゼンテーションで課題が改めてわかり、問題の難しさを痛感しながら、我々がこれまでやってきたプロジェクトの諸条件とはだいぶ異なる外部環境の中で、「何ができるのか」。そこは、ACEとみんな電力さんの大きなチャレンジだなと思いました。
新しいイノベーションが待たれている部分もあるでしょうし、華井先生のお話にあった「紙に書き写している」というのは結構な衝撃で(笑)、それこそブロックチェーンで何かできないか、そんなことを思ったりもしました。
一緒にどんなことができるか模索しながら、プロジェクトを前に進めていければと思います。
ありがとうございました。
岩附 由香
認定NPO法人ACE代表。1997年大学院在籍時にACEを創業。
上智大学文学部、大阪大学大学院国際公共政策研究科修了後、NGO職員、会社員、国際機関職員、フリー通訳等を経て、現在はACEの活動に注力。
人権・労働面の国際規格SA8000社会監査人コース修了、CSRに関する知見を持ち、これまで大手上場企業のステークホルダーエンゲージメントに参画。
児童労働ネットワーク事務局長、エシカル推進協議会理事。
2019 年「G20 市民社会プラットフォーム」共同代表、2019 年 C20(Civil20)議長
華井 和代
東京大学 未来ビジョン研究センター 講師/NPO法人RITA-Congo共同代表。
筑波大学人文学類卒(歴史学)、同大学院教育研究科修士課程修了(教育学修士)。
成城学園中学校高等学校での教師を経て、東京大学公共政策大学院専門職学位課程修了(国際公共政策学修士)、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了(国際協力学博士)。東京大学公共政策大学院特任助教を経て2018年4月より現職。コンゴの紛争資源問題と日本の消費者市民社会のつながりを研究。同時に、元高校教師の経験を生かして平和教育教材を開発・実践している。
主著は『資源問題の正義―コンゴの紛争資源問題と消費者の責任』(東信堂、2016年)。
(撮影:今村拓馬)
私たちが日常的に使うスマホやパソコンの裏側に迫るお話、いかがでしたか?みんな電力が掲げる「顔が見える」価値、
国境を越えてアフリカの地でも、社会をアップデートさせていくことに活用できればと願います。次回記事も楽しみに!