【第1回】「世界一貧しい大統領」ホセ・ムヒカさんに聞いた 今、世界、福島とエネルギー|ENECT プラチナム連載 Vol.1
”エネ”ルギーをセレ”クト”してコネ”クト”する新時代のソーシャルサイト「ENECT(エネクト)」のテーマは「選ぶ」。これまで私たちには電気を「選ぶ」権限はなく、与えられるままに生活をしてきました。
選択には少なからず責任がつきまとい、今までよりちょっと多めの手間と知識、時には一握りの勇気も必要かもしれません。そこでENECTは、国内外で「選ぶ」ことを続け、道なき道を切り拓いてきた達人たちにお話を伺うことにしました。
記念すべき第一回目にはウルグアイより、「世界で最も貧しい大統領」としてその名が世界を駆け巡った、ホセ・ムヒカ前大統領が登場。地球のちょうど裏側から、示唆に富むインタビューをお届けします。
今はただ、富の蓄積だけを追及しているようにさえ見えます。人類はこれだけの進歩を遂げたというのに、いくらたくさんの知識、技術、資源そして能力を得ても、必ずしも幸福ではありません。
そこに矛盾を感じている人たちが、実際には大勢いるということだと思います。
我々はこれまで、欧州の状況にばかり目を向けてきました。今もそれぞれが一国単位で、対アメリカ、対欧州、対中国と貿易をしています。
南米の国同士が統合しないと、世界の力のある国々に圧倒されてしまいます。
現に米国は、日本を含むTPPを推進していますし、アジアでも中国やインドといった国が力を増しています。欧州だってEUとして機能しているのに対し、南米では小さな国々が別々に行動をしているだけで、全体にまとまりがありません。もちろん、団結は簡単なことではないのですが。
名前を挙げられたカストロ氏も含め、皆私の良き友人です。
もっと平等な社会を目指す、このようなリーダーが各地に育っていって欲しいと思います。私は、社会における経済的な豊かさよりも、一般市民が幸せに生活できる環境が大切だと思っています。
一つだけ言えることがあるとすれば、私は当選したからといって、周囲に合わせたり、都合のいいように振る舞うということはしてきませんでした。
やってきたことは、自分に正直に、自分自身の信念を貫いてきただけです。一国を代表する指導者として、あえて無理をして公邸に住み、必要のない使用人を雇い、少数派の生活を装うこともありません。
それが、「私のポリシー」と呼べるものなのかもしれませんね。
例えば私は、毎朝マテ茶を飲みます。マテを飲むことから一日が始まります。マテは目を覚ましてくれるだけでなく、私たちウルグアイ人は日常的に牛肉を沢山食べますから、その消化も助けてくれます。ウルグアイには、野菜を食べる習慣があまりないのです。
我々はここウルグアイで、もう50年近く前の今とはまったく異なる時代に、民族解放運動をはじめました。その時にトゥパク・アマルに因み、運動を「トゥパマロス」と称したのです。
もし私が人間の命と自然環境を大切にするのであれば、仮にそれが多少コスト高であったとしても、原発以外のエネルギー源を使用すべきだと考えています。
科学によっていくら安全性が証明されていても、人間の行いには過ちがいつしか生じます。だから、事故も起きます。原子力の使用によって、そのリスクを冒す価値はあるのでしょうか?
日本には優れた人材があります。技術力もあり、経済力もあります。それなのに、いまだに原子力を取り入れたエネルギー政策を続け、代わりとなるエネルギーの開発に消極的な事実に驚かされます。
ドイツは思い切った決断をしました。ましてや原爆投下を被り、広島と長崎の悲劇を経験した日本が、経済的な要素を重視し、国民の想いを考慮しないエネルギー政策を進めていることは、信じられないことです。
また、海洋エネルギーや波力発電など、他のエネルギー資源も開発すべきですね。
トルコ、コロンビアの長期外遊から帰国し、お疲れ、そして多忙極まりない中受けていただいた、約1時間の貴重なインタビュー。80歳とは思えぬ活力で、間にマテ茶を飲みながら穏やかに、しかし経験に裏打ちされた、説得力あるお話でした。
ENECTプラチナム連載、ムヒカさんのお話はあと2回の更新、全3回です。