【第3回】「世界一貧しい大統領」ホセ・ムヒカさんに聞いた 今、世界、福島とエネルギー|ENECT プラチナム連載 Vol.3
E. クストリッツァ監督による自伝映画の世界公開が待たれ、ここ日本でもTV出演が続き、人々の心をうったスピーチが子ども用にまとめられた絵本は15万部以上も売れた、ムヒカさん。
近所に住んでいた日本人移民から花の栽培を学び、勤勉な働きぶりに感銘を受け、その想いもあってか、ムヒカさん来日の話が聞こえてきます。腕利きの農家さんと美味しい農作物、そして未来の人類の教訓も溢れる福島へ、お誘いしました。
自然の力は偉大です。それは、良くも悪くもなります。一定の期間が経過したチェルノブイリについてもっと知ることで、それが福島の良い教訓になればと思います。究極的には自然の力が解決へ導いてくれるものと信じています。
福島の人々に、どうかよろしくお伝えください。
日本は、私にとってわりと身近な国なのです。それは若い頃、ウルグアイに移住してきた日本の皆さんと、一緒に花作りの仕事をした経験からきています。日本人はとても勤勉で、皆から尊敬されていました。今でも、「もっと大勢の日本人がウルグアイに移住すればいいのに」と、思っています。
一番の大きな問題は、密売人の取り締まりです。大麻使用者は、彼らの被害者です。麻薬使用者は、重い病気を患っている人たちだと言えます。だから、それは病気として対応する必要があります。つまりは、麻薬の密売人が国を滅ぼさせているのです。
その阻止にはまず、大麻使用者が密売人に頼ることなく、正規ルートで大麻を入手できる道筋をつくる必要がありました。そして重度な麻薬の依存症者には、治療が必要なのです。
何ごとも、程度の問題でしょう?
たばこやお酒だって、もともと体には良くないものです。でもウイスキーの1、2杯ぐらいでは、誰も「いけない」とは言いません。しかし1リットルも呑んでしまえば、病院のお世話になってしまいます。
つまり最終的な目的は、大麻の合法化によって「密売人の活動を制御しよう」ということです。
しかし、現代社会は信仰さえも必要としない、無宗教な傾向にあります。加えて人間の欲は無限で、自分の利益しか考えようとしません。今の世の中には、「金銭的な利益を増やすことこそが幸せ」という価値観が蔓延しています。
ものを沢山つくり、自然環境を破壊する、その連鎖を見直さなければなりません。それが地球のためになることです。
政治の世界はそう簡単ではありません。また、一人の努力だけでは何もできないものです。まずはいい仲間、それは例えば賢い人、確かな情報を持っている人を仲間として持つことが大事です。そしてもちろん、自分自身も模範的な行動をしなければなりません。
例えば、ある国に資源が沢山あり、社会がいくら経済的に豊かであったとしても、そこに心に伝わる芸術がなければ「充実した社会」とはいえないでしょう。
あなたが音楽愛好家であるならば、ステレオで良質な音楽を聞き、コンサートへ行くことがいいでしょう。スポーツが好きであれば、好みのチームの試合に行って、精一杯の応援をして、幸せな時間を過ごすことでしょう。
豪華な車やお屋敷はいりません。そんなことは無駄遣いです。
だから私は、家からすぐ近くに農業学校をつくりました。今はその学校を軌道に乗せることが、目下私にとっての大きな目標になっています。
首都のモンテビデオから国道を北へ向かうと、高さ108メートルの巨大タービン群が視界に入ってきます。山の少ないウルグアイですが、平均時速8マイルの風が安定して吹く“草原”を資源として、エネルギーを産んでいました。
彼の国は、昨年末パリで開催されたCOP21にて、09〜13年までと比較して、「17年までに二酸化炭素の排出量を88%削減する」と宣言しました。
未来を先取りするウルグアイから、目が離せません。