【第1回】“土から力を引き出す”デザイナー・梅原真 「地域の力はどこ?デザイン的思考の源流を辿る」|ENECT プラチナム連載 Vol.4
読みもの|4.12 Tue

 

 自然エネルギーの発電方法には、風力、太陽光、小水力、揚水、地熱、バイオマス等々があり、それぞれのポテンシャルは、地域地域の風土と共にあります。
 梅原さんが訪れていた福島にも当然、彼の地こその風土がある。しかし、望まずして起きた原発災害は国外まで広く、風土の魅力を超えてネガティブな印象を、福島につけてしまいました。
 そこで、唐突に降りかかった災害から土地を守るべく立ち上がったのは「土から価値を生み出す」農家さん。美味しいことは大前提で、行政よりも研究者よりも早くから土壌測定を開始し、自らのつくる果物の安全性を追求してきた、「ふくしま土壌ネットワーク」でした。
 梅原さんが福島にいる理由は、そんな農家さんたちと始めている取り組みにあるようです。


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「地域の力」はどこにある?
——梅原さんを語る時「第一次産業」、「地方」、「地域」といった言葉がキーワードとして出てきます。もしかしたら、「ご自身には別の感覚がある?」と思ったのですが、少し詳しく説明願えますか?
 土地の力を引き出して、新しい価値を産み出していくことによって、その土地の個性が出てくるんじゃないかと。
 そのことがあまりにされていなくて、僕の仕事は「デザイン」というスキルをもって、この「デザインのスキル」とは何も「最先端のもの」をつくるんじゃなくて、むしろ農業の部分に「デザイン的な考え方」がなかったんじゃないかと。
 高知には美味しい「文旦みかん」があるけれども、そのものを美味しくするダンボール箱ってあるわけでしょう?それが化粧品くさかったり、よくでき過ぎててオシャレなデザインって、なんかこう嫌な感じですよね?それはその、「土佐文旦」というものに対して。
「じゃあ、どの辺のデザインがいいのかな」って考えると、やはり「土地の力を感じるようなデザイン」がいいんじゃないかと。
 だから、「土地の力を引き出す仕事をしている」と。

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 それは別に一次産業だけじゃないんだけど、高知にある産業はほぼ漁業、林業、農業なので、必然的に入っていくエリアは一次産業になっちゃった。高知の製造品出荷額は日本最低47番目で、産業がないから、そんなところで無理してやるんじゃなくて、むしろ「一次産業がいいんじゃないか」と。
「土地の力を引き出すこと」を自分は、「デザイン的思考」と呼んでいますが、「デザイン」って言った時にわからないじゃないですか。ファッションなのかインテリアなのか、そこを僕は、「『デザイン的に考える』ことが『デザイン』」と定義しています。そう思えば、大量のメッセージを発することができるんではないかと。
例えば「タタキ、美味しいよね」と言えば「1」しかないのが、それを別の言葉で言えばもっと状況が伝わる。それもデザインの一部ですから、そういう力をつかって、高知で生まれて高知に住み、高知のことがよく伝わるメッセージをつくり出す仕事をたまたましてるので、それが「高知の風土には一次産業だった」ということです。

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——今仰られたこと、過去の発言をみても「そのとおり」と膝を打つ感覚があります。そして、むしろ「なぜ、他のデザイナーはそういうことをやってこなかったのか?」とも思います。
 分析すると、地方のデザイナーはコンプレックスを抱えていて、「東京並みのことができることを一番良し」として、「どうだ、オレのデザインは東京がつくったみたいだろう」と。
 それは「原研哉みたいだろう?」とか、「佐藤卓にも負けてないだろう?」でもいいんですが、そのスタンスにいて、フォントの使い方、行間、字間の使い方とか、コピーやイラストレーション一つとっても、「どうだ、東京にそっくりじゃないか!」と言ってるのを見て、「アホか」と。
 僕は「高知にいてんのに、高知のことせえよ」という居直りをしているようなところがあって。「お前らな、高知に住んでそんなもんするためにJAGDAとか入ってんのかい」みたいな、「ほんなん、関係ないやろう」と。
 「もっと高知の力を引き出さんかい」という、そんな感じでしょうか。
だから、そもそも視点が間違ってるし、コンプレックスを感じてる地方の人間がほとんどで、デザイナーもそうであり、しかし本質は「東京並みになることに、何の意味もない」ということですね。
——そこに気付かれるきっかけはあったんでしょうか?
 ありますね。高知の街のど真ん中に鏡川という川があって、小学生の時、学校から帰ってきたらそこでドボンと泳いでいたんですよ。
 ランドセルをポーンと放って、川へボーンみたいに泳ぐ時間は、ただの「勉強しなさい」の時間じゃなくて、今考えても「あの時間が自分にかかってるな」と、思います。自分が頭半分水の中にいて、下には魚がいる。上は青空である、山である、街であるというのは、「すべてのことを知らせてくれる場面だったんやないかな」と。 それは龍馬がそうだったんですね。

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 龍馬もその川で泳いでいたんですけど、雨の日に龍馬が泳ぎに行くのを見てね、「おまん、どこいきゅうが」と言ったら、「川へ泳ぎにいきゅうが」と言って、「こんな雨の日に、どうして行くがなや」と言ったらね、「川の中やぎ、一緒やが。濡れるぎ」と、そんな話がある(笑)。
ほんの一週間前、東京海上火災というところの社長にお会いしたんです。本社に行って、彼のプロフィールを見てびっくりしました。高知出身で、プロフィールのど真ん中に「小学校の時に鏡川で泳いでいた」って書いてあるんですよ。「ええ、これ一緒ですやん」って。
 これは帰ってから思ったことですが、要するに「小学校の時に鏡川で泳いで、すべての宇宙を知ったんじゃないか」と思うような、それは、話を聞いてると、彼はバランスがいいんです。「バランスがいいって何?」と思うと、プロフィールの「鏡川で泳いでいた」ところが一緒で、彼は頭がいいかもしれないけど、オレは頭が悪いかもしれない(笑)。
 だから、「『教えられる』ということは、そういうことちゃうのかな」と。その起点が、「高知のキラキラと鏡のような美しい川」を、小学校の時に見てしまったことちゃうのかなと。

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——それは「地域に育てられた」という感覚でしょうか?
 大アリですね。高知でなかったら、こうなってはいませんよね。
——その可能性は、どんな地域、「田舎」と呼ばれているところにも、ある?
 あると思うし、それがなくなっちゃって、すべてが均一化してきた日本がつまらない。
 全部一緒で、要するに経済指標が中心になって、「バイパスつくらなあかんよね」、「そこにマクドナルドできなあかんよね」、焼肉屋さん、うどん屋さんも、「チェーン店来るよね」というのを、日本の発展と思い込んできた。
 でもそれが日本をフラット化、均一化している要素だと言うことを、僕は知ってたけど、皆知らなかった。
 均一化した日本では青森に行ったって、空港から県庁まで行く間「え、これ高知かしら」と思ってしまうよね。「あ、雪降ってるから違うか」みたいな、自然が個性を醸し出すものであって、人間の営みは全部フラット化しちゃって、それで日本がこんなになってるってことじゃないですか。
 だから、それぞれの土地の個性を引き出すのは、デザイナーなんかが、仙台だったら仙台のデザインがあって、「うわぁ」みたいなね。
——訪れる方としてみれば、それを求めています。
 そうでしょう?でもそれが一緒になっちゃってる。特にデザイナーが中央から来て、「やってあげる」ってやると全然売れないという、それは何回も経験しています。そこにどういうメカニズムが働いて、超一流の方にやっていただいたのにも関わらず売れないということは、そこがどうして売れないか、見てきています。
——突き詰めれば、その土地を肌で知らないとできない。
 あなたはその土地の力を知らないのに、「こんなんじゃダメじゃん」。「オレがやってあげるよ」とやると、「余計ダメじゃん」みたいなね。

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福島の個性、畑の個性
——福島に来て、ここには他の地方と同じようなバイパスもありつつ、その中で土地の魅力は何だと思いますか?
 一番にその風土があるでしょう。温度、平野がどう、日当りがどう。それと同じところに、「農家のスキル」があって、どう枝を剪定するのか、そこは僕はその農家、今回の場合はそれこそ高橋さんの性格なんかを見ているわけですね。
——そこに個性がある。
 もう、畑を見たらわかる。その作業自体が、福島の人に向いてるっちゅうか、もしかしたら「農業が福島の人の風土をつくった」のかもしれないけど、その丁寧さ、真っ当さみたいなものが、恐らく果実の味に乗り移ってるんじゃないですかね。土のところから、剪定に受粉、収穫から、地道に丁寧に、コツコツと育つところにね。
 そういう丁寧なところは、福島の人たちの身体の動き、畑から、農家から、感じるね。それが、「美味しいものをつくってんじゃないのかな」と思います。

 

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 インタビューは福島市、JA福島中央会の最上階にて行われました。
 高知出身の梅原氏が、なぜ福島にいるのか。福島に何を見て、何をしようとしているか。
 全3回の、第2回目はそこに迫っていこうと思います。

 

(写真:赤間政昭/聞き手:平井有太)
2016.04.12 Tue.
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