【第1回】“土から力を引き出す”デザイナー・梅原真 「地域の力はどこ?デザイン的思考の源流を辿る」|ENECT プラチナム連載 Vol.4
自然エネルギーの発電方法には、風力、太陽光、小水力、揚水、地熱、バイオマス等々があり、それぞれのポテンシャルは、地域地域の風土と共にあります。
梅原さんが訪れていた福島にも当然、彼の地こその風土がある。しかし、望まずして起きた原発災害は国外まで広く、風土の魅力を超えてネガティブな印象を、福島につけてしまいました。
そこで、唐突に降りかかった災害から土地を守るべく立ち上がったのは「土から価値を生み出す」農家さん。美味しいことは大前提で、行政よりも研究者よりも早くから土壌測定を開始し、自らのつくる果物の安全性を追求してきた、「ふくしま土壌ネットワーク」でした。
梅原さんが福島にいる理由は、そんな農家さんたちと始めている取り組みにあるようです。
そのことがあまりにされていなくて、僕の仕事は「デザイン」というスキルをもって、この「デザインのスキル」とは何も「最先端のもの」をつくるんじゃなくて、むしろ農業の部分に「デザイン的な考え方」がなかったんじゃないかと。
高知には美味しい「文旦みかん」があるけれども、そのものを美味しくするダンボール箱ってあるわけでしょう?それが化粧品くさかったり、よくでき過ぎててオシャレなデザインって、なんかこう嫌な感じですよね?それはその、「土佐文旦」というものに対して。
「じゃあ、どの辺のデザインがいいのかな」って考えると、やはり「土地の力を感じるようなデザイン」がいいんじゃないかと。
だから、「土地の力を引き出す仕事をしている」と。
「土地の力を引き出すこと」を自分は、「デザイン的思考」と呼んでいますが、「デザイン」って言った時にわからないじゃないですか。ファッションなのかインテリアなのか、そこを僕は、「『デザイン的に考える』ことが『デザイン』」と定義しています。そう思えば、大量のメッセージを発することができるんではないかと。
例えば「タタキ、美味しいよね」と言えば「1」しかないのが、それを別の言葉で言えばもっと状況が伝わる。それもデザインの一部ですから、そういう力をつかって、高知で生まれて高知に住み、高知のことがよく伝わるメッセージをつくり出す仕事をたまたましてるので、それが「高知の風土には一次産業だった」ということです。
それは「原研哉みたいだろう?」とか、「佐藤卓にも負けてないだろう?」でもいいんですが、そのスタンスにいて、フォントの使い方、行間、字間の使い方とか、コピーやイラストレーション一つとっても、「どうだ、東京にそっくりじゃないか!」と言ってるのを見て、「アホか」と。
僕は「高知にいてんのに、高知のことせえよ」という居直りをしているようなところがあって。「お前らな、高知に住んでそんなもんするためにJAGDAとか入ってんのかい」みたいな、「ほんなん、関係ないやろう」と。
「もっと高知の力を引き出さんかい」という、そんな感じでしょうか。
だから、そもそも視点が間違ってるし、コンプレックスを感じてる地方の人間がほとんどで、デザイナーもそうであり、しかし本質は「東京並みになることに、何の意味もない」ということですね。
ランドセルをポーンと放って、川へボーンみたいに泳ぐ時間は、ただの「勉強しなさい」の時間じゃなくて、今考えても「あの時間が自分にかかってるな」と、思います。自分が頭半分水の中にいて、下には魚がいる。上は青空である、山である、街であるというのは、「すべてのことを知らせてくれる場面だったんやないかな」と。 それは龍馬がそうだったんですね。
ほんの一週間前、東京海上火災というところの社長にお会いしたんです。本社に行って、彼のプロフィールを見てびっくりしました。高知出身で、プロフィールのど真ん中に「小学校の時に鏡川で泳いでいた」って書いてあるんですよ。「ええ、これ一緒ですやん」って。
これは帰ってから思ったことですが、要するに「小学校の時に鏡川で泳いで、すべての宇宙を知ったんじゃないか」と思うような、それは、話を聞いてると、彼はバランスがいいんです。「バランスがいいって何?」と思うと、プロフィールの「鏡川で泳いでいた」ところが一緒で、彼は頭がいいかもしれないけど、オレは頭が悪いかもしれない(笑)。
だから、「『教えられる』ということは、そういうことちゃうのかな」と。その起点が、「高知のキラキラと鏡のような美しい川」を、小学校の時に見てしまったことちゃうのかなと。
全部一緒で、要するに経済指標が中心になって、「バイパスつくらなあかんよね」、「そこにマクドナルドできなあかんよね」、焼肉屋さん、うどん屋さんも、「チェーン店来るよね」というのを、日本の発展と思い込んできた。
でもそれが日本をフラット化、均一化している要素だと言うことを、僕は知ってたけど、皆知らなかった。
均一化した日本では青森に行ったって、空港から県庁まで行く間「え、これ高知かしら」と思ってしまうよね。「あ、雪降ってるから違うか」みたいな、自然が個性を醸し出すものであって、人間の営みは全部フラット化しちゃって、それで日本がこんなになってるってことじゃないですか。
だから、それぞれの土地の個性を引き出すのは、デザイナーなんかが、仙台だったら仙台のデザインがあって、「うわぁ」みたいなね。
そういう丁寧なところは、福島の人たちの身体の動き、畑から、農家から、感じるね。それが、「美味しいものをつくってんじゃないのかな」と思います。
インタビューは福島市、JA福島中央会の最上階にて行われました。
高知出身の梅原氏が、なぜ福島にいるのか。福島に何を見て、何をしようとしているか。
全3回の、第2回目はそこに迫っていこうと思います。