【第2回】“土から力を引き出す”デザイナー・梅原真 「地域の力はどこ?デザイン的思考の源流を辿る」|ENECT プラチナム連載 Vol.5
読みもの|4.19 Tue

 

 自然エネルギーの発電方法には、風力、太陽光、小水力、揚水、地熱、バイオマス等々があり、それぞれのポテンシャルは、地域地域の風土と共にあります。

 梅原さんが訪れていた福島にも当然、彼の地こその風土がある。しかし、望まずして起きた原発災害は国外まで広く、風土の魅力を超えてネガティブな印象を、福島につけてしまいました。

 そこで、唐突に降りかかった災害から土地を守るべく立ち上がったのは「土から価値を生み出す」農家さん。美味しいことは大前提で、行政よりも研究者よりも早くから土壌測定を開始し、自らのつくる果物の安全性を追求してきた、「ふくしま土壌ネットワーク」でした。

 梅原さんが福島にいる理由は、そんな農家さんたちと始めている取り組みにあるようです。


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——逆に、予想を裏切られたところもありますか?
 これは、いつもの私としては「どうなのか」と思うところでもあるけれども、ダメージを受けてるところに一定のお金を出して「応援しましょう」という事業では、それをいただくのも悪くないですよね。
 でもそれは、やっぱり「人の金」ですから。人の金は結局どうでもいいんです。僕は、補助金を使って成功したケースは、あんまり見ない。それが何かと言うと、やってもやらなくても「人の金」ですよ。最終的なアウトプットの緊張感は、自分の金で、「これで失敗したらあかん」という強烈なエネルギーが詰まってないとあかんですよ。
 そこの出口が緩いから、「なんぼいりますか」じゃなくて、「なんぼでもいります」と。そこに全部エネルギーを入れて、「やりたいこと全部やりましょう」という話は、そういう意味です。

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 要するに、「とことんやることなんじゃないですか」と。けれども農家なので、製品をつくるには限界がある。「桃でこうやってくれへんか」って言うて、出てきたもの食べて「あかんな」みたいな(笑)。その部分、農家って製造業じゃないから、そこは農家の美味しい状態のものを、「新しい価値を産むため、どういう商品にするか」という。
 やっぱり、メインはもちろん桃です。そこからメッセージを出して、何とか自分たちの桃から、2次的な桃の商品をつくりたい意欲が逆に桃の方にも反映されたら、それは製品で「美味しいな」と思ったところで、「今日この桃はあるけど、次は来年にならないと出てこない」という。
 それがそのままメッセージになるじゃないですか。
 「これ美味しいから、生の桃も食べてみたいね」という風に繋げていければいいなと。だから製造品にうんと力を入れるんではないけど、そういうものの農家らしい加工を少しすることによって、例えば、新幹線の中でみんなが食べてるようなものになりえる可能性がある。
 それを今回抽出する要素としてはいくつか構えて、3点ほどやろうということで、やっています。
 僕が製造するんではないので、高橋さんのチャンネルの場面で、試食もしながら、しかもそれは「農家らしく」ないとダメ。きれいな、キューピーマヨネーズみたいなものじゃダメなんですよ。
 そこは「どこを狙って、どうやった時にこれは売れるんだろう?」という研究をしながら、その製品もつくっていこうと。今回はそれを売るための、触媒のような製品もつくっていますよね。

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——頻繁に、「農家らしく」という言葉が出てきます。「農家」とは何でしょう?
 やはり「土から価値を生み出す人」でしょうね。それに対して、僕は「引き出す人」。言ってみたら、お米は一つの籾から芽が出て、それが100を軽く超える数の粒になるわけで、それって100倍以上じゃないですか。すごい価値を生み出していますよね。
 そういう風な、土地を使って、新しい価値を100倍以上にするような、一番の原点で言えば米ですね。その米、水田をさらに果物という、それも「桃源郷」と言うくらいの、桃がいっぱいなっているところ。そしてそれも、簡単にできるものではない。デザイナーにスキルがいるように、農家にもスキルがいるわけです。
 それを感じる、「土から新しい価値を生み出す人」ですね。
——梅原さんはお仕事もよく断られると聞きます。
 ほとんど断ってますね。毎朝デスクに行って、断りのFAXから仕事を始めるの、気分悪いでしょ?朝の20分、断りですよ。だから、お断りパターンをフォルダーに入れてあるので、コピペで「お断りAでいこか」みたいな(笑)。
——それが今日、福島とのプロジェクトはすすんでいて、これから講演も実現されます。
 一には、「ダメージを受けた地域だから」ということはありますよね。僕は、すでに年商50億円のところが「100億円にしたいんですけど、梅原さんお願いできませんか」というのは興味がないんですよ。

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 ほとんど、ちゅうか0以下、「マイナスをプラスにする」面白さのところにいるから、デカい会社の仕事できないんです。面白味がない。
 だから、どちらかというと「あかんのですわ」というやつにスイッチ入れたいんだけど、それにもいろいろパターンがあって、そういうやつに限って電話かけてきたりする(笑)。電話に出た女の子が困っちゃって、「梅原さん、『どうしても話したい』って言っています」という、それを断るのも気分が悪くなって、嫌でしょう?
 少しもデザインの意味がわかってないし、「わからないにもほどが過ぎるよ」と。「ロゴをつくってください」って、「『ロゴ』という言葉をどこから知った」って、それもほんの昨日の話です(笑)。
 要するに、相手にちゃんと志がないと、できない仕事ですわ。
——「ふくしま土壌ネットワーク」からは、その志を感じられた。
 そうですね。その前にはそもそものダメージ。そして高橋さんに会って、「ちゃんとやりそうやな」と感じて。
——もう少し詳しく、お聞かせください。
 土壌の線量を自分たちで測定しながら、「安全なものを」という意味で、あえて「触ってはいけないもの」も触った上で、「人生をかけてる」感じはありますよね。
 だって線量のところは、何ミリシーベルトというところに、キチッとシフトしたことをやってるわけでしょう。そこで「先手を打ってる」というかね。
 それは一つのデザインであるし、考え方でもありますよね。それもよかったですね。
——私から見て皆さんが他と違ったのは、原発事故を受けて黙って困ってるだけではなく、自ら考え、実際に動かれたということでした。そうしたのは圧倒的少数という状況で、簡単なことではなかったと思います。
 それはある程度のシステムができていて、僕も四万十の田舎に5年ほど住んでました。そこで見ていたら、農協の出荷場までの距離は2キロメートル以内になって、そこに持って行けばお金になる。その循環しか知らないからですね。

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 自分が500キロ離れたお客とダイレクトに繋がっていれば、その人のことを想うし、顔が見えているし、その人とのコミュニケーションの中で、「自分が何をつくらないといけないか」がわかるじゃないですか。
 ここははっきりと言えます。ししとうをつくった。「今日は20キロやね」と言うたら、月末に金が入る。このシステムである限り、四万十の有機の人たちに僕は「お前ら、本当に愛着のない農業してるわ」と言った、ということですね。
——皆さんの反応は?
 反発はありますね。酒呑んでる段階ですから、「そんなこと言うても」みたいな感じですよね(笑)。まあ、ケンカ腰にもなりますわね。
——逆に、梅原さんが「ちゃんとやりそうだ」と思われた高橋代表とネットワークの皆さんに、「もっとこうすれば」という要望は?
 何についても、「面白がること」が必要ですよね。今日の会でも、「どんな仕掛けかな?」って最初のプランを見ると、「梅原さんに来てもらって、最後に講演会をしようよ」じゃなくて、「どうやったらこの何時間が面白くなるのよ」という知恵がなかったんですよ。ただオレに喋らせる感じで、「ちょっとあかんのちゃうの、これ」と。「もっと自分ら面白く考えろ」と(笑)。
——自分でやることを面白がれと。
 だって人を呼んで、喋らしてお金払っておけば、どこの会場でもできますから。
 そういう意味で何かをする時、「どうやったらみんな楽しくなる?」、「どうやったらお酒が美味しくなる?」とか、そういうことを考えることが、農業で「どういう箱に入れたらいいんだろう?」、「どう販売したら売れるんだろう?」と考えるのと、イコールなんですよ。そういう「自分で考える部分」をなくしてしまったのが、まあ、ここは農協ですけれども、「農協に持ってきたらOK」みたいなね。そこしかダイレクトになくて、「2キロ先に持って行ったら金くれるで」というシステムは、効率は良かったかもしれないけど、農業をスポイルさせたんじゃないですか。
 都会の人もそれがどんどん分かってきて、ポーンと置いてあるのが嫌んですよ。例えば紀伊国屋だったら、何か「バイヤーがちゃんとしてくれてそうだから」、値段が倍でも買うと。それが他のところだと、生産者コーナーに行って買うんですよ。人の名前が書いてあって、安心そうだから。

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 高知でもスーパーでは生産者コーナーがすぐなくなる。奥のちゃんと並んでるレタスは、そういう意味では嫌々買ってますよね。農産物というものは顔が見えないと嫌なのに、農薬検査も無しで農協で「20キロ、はい3万円」というシステムが、日本の農業を悪くしたと思います。
 農協の方はそうではなくて、「そのシステムをつくったから今の農業があるんです」と思ってると思います。以前僕が講演に行った時、会の後に円卓での交流会で、そりゃあもう、キツい眼してました。オレがあまりにええこと言いへんから(笑)。皆さん物は言いませんが、「オレらも、オレらなりにやっちがうぞ」みたいな感じを無茶苦茶受けて。
——梅原さんは、その厳しい目線さえも楽しんでる気がします。
 それは、本当のことを言う方がいいじゃない?オブラートに包んでは物を言えないので、コミュニケーションを潤滑にするにはそっちの方がええんやろうけど、でも、場面によっては言うことじゃないからね。
 その時は営農指導会60周年のメインで、「梅原さんの講演を聞きたい」。「今の農協じゃダメです」って営農指導員の方が来て、「本当のこと言ってください」ということでもあったわけ。

 

 梅原さんの高知からの眼差しには、あらゆる地域に共通する問題と、エネルギーや農業といったジャンルを超えて社会が乗り超えるべき提議が、含まれています。
 自立し、状況を打破し、地域を活性化するヒント溢れるインタビュー。
 全3回の最終回へ続きます。

 

(写真:赤間政昭/聞き手:平井有太)
2016.04.19 Tue.

 

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