【最終回】谷崎テトラ|ワールドシフト・フォーラム
夢のような話を、熱を入れて語るテトラ氏の言葉に耳を傾けていると、それは当たり前に実現可能なことだと思えてくる。
しかも、実は私たちは今、未来に向けた不可逆的な分岐点に立っている真っ最中。「奪い合う世界」から「分かち合う世界」へのワールドシフトは、本当にできるのか。
「テトラ」の名前はバックミンスター・フラー氏の石板画絵本『テトラスクロール』(1985)から。同著は童話仕立てのフラーの全思索で、曰く「数学や哲学、その他何でも、自分が考え、感じたすべて」を担う谷崎テトラ氏のお話、なるべく多くの方々と共有できますよう。
その時のシナリオは23に分類され、その傾向は大きく分けて二つの未来に分岐したそうです。
一つの未来は大都市中心型で東京、大阪、名古屋みたいな都市をさらにメガシティにしていって、その間をリニアモーターカーで繋いで、すべてを集中させることで極限まで効率化させるというシナリオ。もう一つは、徹底的に地方への分散をすすめていく未来像で、出生率回復と格差縮小をもたらす。
確かに大都市集中型にすると、日本の国としての国際競争力は上がったり、株が上がったり良いこともあるでしょう。でも同時に貧富の差はものすごく開いていく。
かたや地域分散シナリオはそれはそれで問題があって、地域で頑張って都市機能を移転しようとすることで環境が破壊されることもあるし、税金や雇用のこととか、何らか問題がつきまとう。
それでその大きな2つの道への分岐点が、今から8〜10年後くらいに来るというんです(笑)。しかもそれはとてもとても大きな分岐点なんだけど、それは不可逆的らしいです。メガシティな方向でも、ローカルに進む方向でも、一度行ったらそのまま、もう元に戻ることはできない。
また環境学者のヨルゲン・ランダースは、『2052』という著作の中でコンピューターシミュレーションをしているのですが、2030〜40年の間で人口は激増し、2040年の段階、人口81億でこの文明はブレイク・ダウンするという予測をしています。今のままでは食料とか資源が100億人分には足りないんです。人口と工業生産が増える一方、気候変動の影響もあり、化石燃料をこれ以上掘ることはできなくなる。やがて工業生産量、食料生産量に頭打ちが来る可能性がある。地球規模で考えた時に、今の経済・社会の仕組みでは100億の人口を養うことはできないというのです。
ハーマン・デイリーという環境学者が『エコロジー経済学』を提唱したのは80年代ですが、今の消費と環境破壊は地球全体のキャパシティをはるかにオーバーしているんですね。
図:ヨルゲン・ランダースの著書「2052」より。ローマクラブ「成長の限界」の未来予測から40年経ち、コンピュータシミュレーションで現状をトレースしたもの。
2030年までにワールドシフト(持続可能な文明転換)が必要
例えば、世界の食料の生産量は、小麦、お米などの穀物だけでも一人あたり毎日3500キロカロリー生産されています。だから普通に考えたら、飢えて死ぬ人は世界で一人もいないはずなんです。でも実際には、今日も数万人の子どもが死んでいる。
つまり、たくさんつくって、大量廃棄されている。それをちゃんと配分できれば解決できるはず。しかしそれは共産主義でもうまくいかなかったし、資本主義もできてないし、今まで誰もできていない。奪い合うと足りなくなるけど、分け合えば余るはずなんですよね。資源が無限に存在するのであれば、問題にはなりえない。しかし地球は有限なんです。
文明の崩壊は「飢え」という状態よりも、その前に紛争というかたちで現れます。我々がこの先20年の間に100億の人類が調和していく世界観をつくれたら、我々は「人類が引き起こした人類との闘い」に勝利できる。人口は100億で安定すると言われていますし、その後20、30、40世紀とやっていけるようになる。
気候変動と資源枯渇、食料と水問題。その最適解が必要です。中でも「化石燃料社会」から、「再生可能エネルギー社会」へのシフトはとても重要です。
しかし化石燃料が完全に枯渇してしまったら風力発電の風車がつくれない、太陽光パネルを運べない、そもそもパネルもつくれないということが発生する。だからシフトのためには最適化のためのリソースも重要になっていく、民主的な合意形成のプロセスも大切です。
そこのゲームがまさに行われているのが、今の状況です。
だから「奪い合う世界」から、「共有する世界」へ。
エネルギーが電力の話だけではなくて、大きな価値観のシフトの一つであるということをわかっていただけたらと思います。
以前、デンマークの自然エネルギーを取材に行ったんですね。ご存知のロラン島はデンマークの中でも先進地であり、100%自然エネで生活しているし、余剰は首都コペンハーゲンなんかに送っています。
ロラン島にはもともと原発を建設する計画がありました。デンマークには自前のエネルギーがなく、実はそもそも、日本と環境条件の似ている国なんです。オイルショックが70年代にあって「石油は枯渇する」ということが突きつけられ、「転換しなければいけない」と目覚めた。
日本はそれで原発立国になっていくわけですが、かたやロラン島は住民投票で原発をやめ、自然エネルギーを選びました。それを聞いて僕たちは、じゃあ「地元では誰がどうリーダーシップを発揮したのか」と思ったんですが、取材をすすめると「見せたいものがある」と言われ、森に連れて行かれたんです。そこで見たのは「森のようちえん」でした。
そして「僕たちは子どもの頃、ここで育ったんです」と言うわけです。「森のようちえん」は今、日本でも広がってきているのですが、園舎がなく自然の中で自由に子供たちを育てているんですね。そして「森の中で育った子どもたちが成長して、当たり前のように自然エネルギーを選んだ」というんです。
本当の自然との関わりかたというのは、自然そのものの見方や「植物や昆虫を愛する」という目線の持っていき方です。だからこそ「センス・オブ・ワンダー」を育む教育が大事です。そういったマインドセットを起こしていかないとならない。
つまり自然エネルギーのシフトはエネルギーの問題ではなく、教育の問題、子供の育て方、自然との触れ合い方の違いによってつくられた価値観によってなされたのだというんです。そしてデンマークの子どもたちは「与えられたものを覚える教育」ではなく、「自発的に考え、工夫する学び」の中で成長します。みんなが活発に議論をしながら育ち、そういった教育の結果、社会にきっちり参加して、自分たちの考えが社会にしっかり反映されている実感を持っている。自分たちで未来をつくることが、彼らには当たり前なんです。
デンマークの人は、自分の国をとても愛しています。そして自分たちが社会を作っているという意識もとても高い。投票率は80%以上、幸福度は世界トップクラス。幸せは「与えられる」ものではなくて、「自分たちでつくる」ものだということを知っています。経済的にも一人当たりのGDPははるかに日本を凌ぐ。
ですので、再生可能エネルギーを考える時、単純に政治の制度や税金の使い道もあるんだけど、もっと根源の価値観をつくっていくという部分では教育もメディアも必要だし、一つのことを実現させるためには様々なパーツが必要だと感じています。
だからこそ「ワールドシフト」なんです。
谷崎氏がロラン島で撮ってきた写真
ワールドシフトはそれぞれの個人が世界のより良い方向へのシフトをヴィジョンし、それぞれができることを「宣言することで繋がる」ムーブメントです。それぞれの仕事や行動を通じて、「世界をシフトさせる」。ぜひ皆さんもそれぞれの一歩を「宣言」してもらえたらと思います。
2月4日は京都造形芸術大学でワールドシフト京都フォーラムを開催します。それぞれのシフトを「学び」、「繋がり」、「動く」ための集まりです。こちらも是非ご参加ください。「世の中まだまだ捨てたものではない」と、勇気と元気がもらえるはずです。
次週、新記事公開です。
また、来たる2月4日、京都造形芸術大学春秋座にて「ワールドシフト京都フォーラム」が開催されます。詳しくは「ワールドシフト京都フォーラム」の文字をクリック!
そして、ENECTでは「ワールドシフト京都フォーラム」に皆さまをご招待します。
ご希望の方は1月31日までに、こちらからお申し込みをお願いいたします。
谷崎テトラ
京都造形芸術大学創造学習センター教授、放送作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。 1964年、静岡生まれ。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&キュレーターとして活動中。国連 地球サミット(RIO+20)など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。リバースプロジェクトCGL研究員。現在、伊勢谷友介とInter FM 「KAI Presents アースラジオ」(毎月第4土曜21時〜)に出演中