【最終回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
(TOP写真について)エレンマッカーサー財団が提示するCIRCULAR ECONOMYの3原則。経済・産業活動をこの原則に適合させてRETHINK、REDESIGNしていく
サーキュラーエコノミーの伝道師、中石和良さんに伺ってきたお話も遂に最終回。
コロナがきっかけとなって加速してくれた、新しくも、すでに私たちは持っていたし実践していたこともあるという意味で普遍的な価値観を、では改めて、どのように社会に伝えていくか。
国境や世代を超え、この地球上に生きる、すべての人にとって考えるきっかけとなる記事になりました。多くの人々に届きますように。
例えば今、歩行者用の歩道は狭いですよね。自転車用の道もない。じゃあ、車用の道路を狭くして、人が歩いたり自転車が走る道を広くするというのは、まさに今回コロナのきっかけで始まるんじゃないでしょうか。
今ヨーロッパの各都市やNY、メキシコシティなんかがやっていることがそれです。歩行者、自転車を優先して道を広げていますが、日本は道路自体が広くないということはあります。また、自動車の交通量をどう減らすかという施策も同時に必要です。
ですから、「都市をどうするか」という中で車用の道路のこと。あとは食料システムもまた、環境に大きな負荷を与えている領域です。
森林を開墾して農地に切り替え、大量の農薬と化学肥料を使って土地を痩せさせて作物を栽培する。そして、食品廃棄をサプライチェーンの様々な場所で生み出し、しかもできたものが「人間の健康にいいものなのか?」という問題がつきまといます。
そういった食のシステムのサプライチェーンを変えていかないといけない。しかも、食べる人の健康を向上させる食品をつくらないといけない。そこを手掛けることが、サーキュラーエコノミーの概念で次に出てきたアプローチです。
再エネ、プラスチック、ファッション産業、都市、食品システムといった流れでトレンドをつくろうとしています。
CIRCULAR ECONOMY JAPAN法人会員と外部連携機関(サステナビリティ特化メディア、アカデミア、欧州情報が豊富な情報発信機関等)
一方で大企業の方々と話していると、そこはまだ「社会を変えていくためのビジョンをつくろう。全社一丸となってやろう」ということがトップダウンで動き出しているかというと、まだまだ少ないと思います。
いわゆるESGの概念で、「ESG投資に対応するESG経営をどうしていくか」とは言いつつ、そこはしかし「サステナビリティ報告書や統合報告書をつくるためにやってきたんじゃないの?」ということも多々あります。
とはいえ、企業内でも特に若手の方々はすごく危機意識を持たれていて、たくさん問い合わせがきます。一緒に概念を共有しながら、それを「経営層に伝えて取り組みたい」というところまではいくんですが、それを社内でプレゼンすると止まってしまうということがよくあります(笑)。
それでも、4、50歳代の中間管理職とか経営層の中にしっかり長期的な思考でビジョンを描こうとしている人もいて、従来型の発想しかできない人たちとの、大きな差が生まれています。
一番大きなポイントは、今回のコロナ・パンデミックを契機に、今言ったような欧米の政策立案者やグローバル企業は、気候変動政策やESG経営をむしろ加速しようとしています。かたや日本には、これをきっかけに元に戻ろうとする企業もいらっしゃるように見受けられます。
けれども、それでも日本において、これをきっかけに新しい持続可能な繁栄をしようという人たちも出てきています。じゃあ、そういった皆さんと一緒に何とかリーダーシップをとっていって、「方向性を変えていきたい」というのが現状です。
今僕たちが期待している一つは、東京都が去年の12月27日に公開した「ゼロエミッション戦略」です。2050年までに東京都をCO2、GHG=温室効果ガスの排出を実質ゼロにしようとしています。そのビジョンに対して、様々なセクターでのロードマップが明示されています。それらと連動しながら、「東京都と一緒に循環型の新しい経済システムを生み出せたら」とは思っています。
でも日本の政策や企業の長期戦略というものは、絵は描いても「こうなったらいいね」という期待をしているだけで、具体的に「こうやって結果を出していく」というところまでは落とし込めません。それを実現させる力技が必要です。ですから我々も、その腕力の部分で何かできないか、考えています。
サーキュラーエコノミーはリサイクリング・エコノミーの延長線上では無いということが重要なポイント。思考をガラリと切り替えないといけない
つまり、欧米を中心として世界は、(日本を除いて)一気にそちら側に動き出しています。じゃあこれをきっかけに、持続可能でレジリエントな社会経済をつくっていく。「景気対策や経済復興を支援する公共資金は、気候変動の解決に活用する」ということで、日本でも環境省もその方針を出してはいます。
EUやカナダは、復興のための景気刺激策の企業向け投資や補助金は、基本的には気候変動対策にひも付けています。「復興のためのお金を使う時は、毎年気候変動に対してどういう取り組みをするかという報告書を出せ」とか、「この資金は持続可能性に向かう開発に使う」ということが明確でないと、そもそも支援を受けられないケースが多くなっています。
そういった動きにおいては、「無差別に景気を回復させよう」という発想ではありません。
大事なのは、長期の明確なビジョンです。日本はまず、例えば「2050年にどういう国になるべきなのか」という明確なビジョンを描いて、その上で官民が同じ方向に向かえるようなリーダーシップをとっていただきたい。日本は世界においてどんなポジションをとって、今後どう新しく幸せな経済成長を生み出していけるのか。いくら単発的に「デジタルトランスフォーメンションだ」、「気候変動だ」と言っていたところで、明確なビジョン設定とロードマップがなければ方向性が定まりません。
あとは、どう欧州の倫理的な枠組みに寄り添いながら、中国やアメリカとは違うデジタルの仕組みを日本がつくり込めるかという点も、重要になってきます。
まずはそこに気づく人がいるか。そういった商品には「これはサーキュラーエコノミーの実現をコンセプトにしています」とか、パッケージを循環型にすることで「サーキュラーエコノミーに貢献します」といったことが書いてあります。でも気づいても、それをリサイクルと勘違いしたり、時にメーカー側もそれくらいの理解でしかないことがあります。
認知が増していることは確かで、それはもちろんいいことです。ですから、「正しいサーキュラーエコノミーの概念を知っていただくために、どう発信するか」。そこがポイントになってきます。
Sustainable JapanやIDEAS FOR GOODといったサステナビリティのメディアは、ちゃんとしたサーキュラーエコノミーの概念の発信をしてくれています。では「一般の方々が、そういったメディアを見ているか?」。もちろん素晴らしい発信ではあるんだけど、「まだまだ足りないんだろうな」ということは考えています。
もともと僕たちはライフスタイル提案からスタートしました。銀座LOFTの一角で売り場をプロデュースをしたり、ギフトショーという展示会のゾーンプロデュースによりサーキュラーエコノミーのコンセプトの製品をバイヤーさん、消費者の皆さんに発信しながら、正しい理解を伝えていくことはコツコツと続けています。今後も、企業と一緒にこの価値観を感じられる商品をつくって、それを誰もが手に取れる状態をつくっていくしかないと思っています。
サーキュラーエコノミーのコンセプトの元になる「デカップリング」。ヒューマン・ウェルビーイング&経済成長と、資源使用、環境負荷を切り離す
世界では、サーキュラーエコノミーへの移行が一気に加速していますが、日本ではまだまだこれからです。
日本にも素晴らしい持続可能性文化があるのに、それを戦後の高度成長で捨ててしまったという流れもあります。でも、だからといって江戸時代に「環境を守る」とか「自然への配慮」という意識があったわけでもなく、純粋に「もったいないから循環させよう」という姿勢だったわけです。
数ある日本の伝統工芸や美的感覚の中で、特に欧米の人たちが見て素晴らしさを感じるのは「金継ぎ」です。あの「補修をすることでその商品の価値を高める」という行為こそ、日本の宝だと思います。日本人の根底に流れているああいった伝統的な美的感覚は、サーキュラーエコノミーを考える上でもすごく役立つはずです。
だからこそ、「循環させること=サーキュラーエコノミー」のブランディングをしっかりしないといけないと思っています。今の日本の消費者の方々は、再生材を使用することを嫌って「新しい素材のものがいい」という意見が大半とのこと。それも、企業が循環型に移行できない大きな要因になっています。
ということは、当然日本でもそれができると思っています。
→【初回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
→【第2回】サーキュラーエコノミー|第一人者・中石和良さんに聞く
中石 和良
松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画部業務に携わる。
その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システム及び持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。
2018年、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンを共同創設。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。
ということで、「循環」は常に生活の中で意識していきましょう。次回木曜日の公開記事は、また新たなテーマで展開します