【第3回】自由の森学園が、電力をみんな電力に切り替えた 理由 ( わけ )
大事な判断や運営を他人に任せ、文句を言うだけの態度は、自由の森学園にはない。「誰かが動いてくれる」という、人に頼る姿勢はよくないとの理由から、これまで生徒会はつくられておらず、自発性を重んじる校風の中で、子どもたちは育てられていく。
電力にまつわる状況と重なる部分も多い教育のお話には、私たちが生活の中で参考にできる示唆が多く含まれていた。
自由の森学園・鬼沢理事長インタビュー、最終回です。
昔ながらの写真部暗室。理事長はここの責任者でもある
ここは林業の町です。だから「里山資本主義」的観点でいくと、これだけエネルギーのある地域で、太陽光はさることながら、やっぱり「バイオマス発電を本格的にやるべき?」と僕は思っております。
煎じ詰めて言うと、「エネルギーを都会に依存している以上、地域は自立できない」という一つの説を考えるならば、この地域にバイオマス・エネルギーは無尽蔵にある。その資源を何らかのエネルギーにしていく道筋は、この地域を活性化する上で「重要なんじゃないの?」って。ある意味ここは、油田の上に浮いている感覚なわけだよね。
そのためのシステムが確立しているわけではないけれども、この前も興味を持ったグループが、フィンランドの小型バイオマス発電装置を買って、それで発電していくというプロジェクトを提案していました。そういうことを言い始める人たちがいて、小規模でも、発電ができる商品の値段まではわかっていて、買えば補助金がいくらで、いくらまで自分たちで集めれば実現できるかもわかってる。
手持ちの資金があるわけではないので、すぐにではないけれど、僕は子どもたちの教育、および地域の自立、その他いろいろ考えた時に、この学校の上に太陽光パネルを付けるのは「ありきたりかな」って。
それよりは、地域の特性を活かしたバイオマス発電のプラントが敷地内に据えられて、子どもたちが週1回は山に入って間伐材を運ぶという作業や活動とミックスさせて、「オレたちが運んだ木材燃やして、この電気あるんだぜ」ってなったら、「全然話が違うだろ?」って。そうした先で、「おまえ、どれだけ苦労したと思ってるんだ」って話になりながら、「教室の電気消せよ」となるような気がするんです。それは、私の夢ですけれど。
校内には、すでにペレットによる暖房器具が設置されているところも
さっきのフィンランド製のバイオマス発電装置の話は、「自由の森で買ってよ」と言われてるの。売電すると補助金は出ないけど、売電しないで自分で使う分には補助金が出る。そうすると全体の費用の半分くらいはなんとかなって、現実味を帯びてきて、、もちろん、木材を乾燥させる施設は必要ですけど。
森を枯らしてまで電気を得るのはおかしいと思うけれど、周辺の間伐材でまわしていければ、例えば寮の電力をそれで賄うということはできる。実は、体育館の暖房はすでにバイオマスなんですよ。ペレット燃料を使って、もともとの重油ボイラーの老朽化ということもあって、原発事故の前からすでにやってたの。
体育館の暖房設備の前で
来年度は教室を全部改装して、蛍光灯をLEDに替える予定です。あとは、この校舎は今も重油ボイラーなんですよ。なので、重油はもうやめて、みんな電力さんからの電力で動くエアコンに一本化すると。一応確認の連絡もして、それでCO2の排出はだいぶ軽減できる。だから来シーズンの11月以降は重油とおさらばです。
それで、生徒たちがみんな電力の八王子の牛舎なり、発電事業者さんのところに行ったりするのはこれからだね。でも、この前の学園祭ですでに、みんな電力からソーラーパネルを借りて何かやってたよ。だから生徒たちの意識としても、みんな電力のことはしっかりある。
あとみんな電力は、三重にバイオマス発電所をつくってるでしょう?あれも、できればスタディ・ツアーみたいのをつくって、やってみたい。たぶん、そういうのに乗ってくる子どもたちはたくさんいるんだよね。そういうことができそうだから、ウチはみんな電力にしたんだよ。
さっきの環境学でも「オフグリッドの家を見に行った」とか言ってたけど、それだけじゃなくて、「バイオマス発電所を見に行こう」でいいわけ。僕だったら、「森林が壊れるとどうなるか」ということで足尾に連れて行ってるんだけど、エネルギーについては、学園だけじゃ説明しきれない部分もあるから、どなたか話して下さる方にコーディネーターとして付いてもらって。
理事長による、「森林が壊れるとどうなるか」という栃木県の足尾へのスタディ・ツアーの様子
だから、もともとの根拠がどんどんなくなっているにも関わらず、なおかつ「原発が崩れないのはどうして?」って、それは問いなわけです。僕らもその答えを持っていないし、だから生徒と共に考える必要がある。その時に、みんな電力ってところが面白そうだから「付き合ってよ」って言ったら、「付き合ってくれる」と言ってくれた(笑)。
そもそも、電力会社の人たちと、こうやって顔を突き合わせて話をするっていうことは、あの事故前はありえなかったでしょう?この問題をきっかけに話ができるし、僕らも「こういう取り組みをしました」って発信ができる。
あとは、「消費で世の中を変えられる」ということも授業で言っています。僕らの消費活動で世の中が変わることがあるんです。
学校の電力って月百何十万円って使っているわけで、それがどこに行くのかって実は大きい。そこで「未来に責任を持つ選択を大人がする」というのが、当然のことだと思っています。
そういう意味では、必ずしも単独の少数派ではない。ただ世界は「生き残ってナンボ」でもあって、現代は学校すらも数値評価されて、競争させられています。一方が緩くなっている反面、ギュッと絞めてくるパワーも混在している。ウチは「アンチ競争・管理教育の老舗」だけれど、だからって「このままで大丈夫?」という気持ちもある。やってきたことに間違いはないんだけど。
生徒を集めるのにだって簡単なことじゃない。「自然エネルギーを使ってます」で生徒がドッと入ってくればそんなに嬉しいこともないけれど、それはそれ、これはこれ。子どもの教育は、自然エネルギー云々に関わらず「ガッチリやらなきゃ」という一般の想いは、やっぱりある。
「生き残ってナンボ」の社会は、みんな電力にしてもそうでしょう?
言いたいことがある生徒はそれぞれ自分で意見を言いにくる。そんな校長・理事長室の看板も、生徒作