2019.12.22
いとうせいこう「電力リゾート課」課長の誕生
まったく新しい方法論
匝瑳市「市民エネルギーちば」のソーラーシェアリング
みんなで、電気で、誇りを持つ
再エネを求めて、珍道中
左から、市民エネルギーちば共同代表・東光弘さん、みんな電力・大石英司社長、
そしてみんな電力電力リゾート課・いとうせいこう課長(後ろの笑顔は南兵衛さん)
*追記 2021.2.現在、「電力リゾート」の名称はコロナ禍を受け、「電力シェアランド(仮)」となって進行中です* いとうせいこうさんがみんな電力の課長に就任したのは、去る9月21日のこと。同日、新宿BEAMS JAPANでみんな電力・大石社長も加わって、新設された「電力リゾート課」について公式発表はされたものの、まだまだ「電力リゾート?何それ?」という声が大多数。 いとう課長はすでに、効果的に「電力リゾート」を匂わせるツイートを繰り返してくださっている。そして実際にぽつぽつと、課長のもとには「あれは一体何なのか?」という質問も届いている。つまり、「いとうせいこう」が抱える多様な任務に新しく加えられた「再生可能エネルギー」に、ピンときてくれている方々はいるということだ。
台風15、19号が残した傷跡は深い。
しかし、大きな自然災害を経ておのずと、「自ら発電する」「近くに発電所がある」ということの重要性の認知も広がりつつある
一言で「電力リゾート」を表現するのは難しいが、例えば「世の中を変える発想」という言い方もあるだろう。
ここまで再生可能エネルギーは、ただ「環境にいいですよ」、「子どもや孫の未来のためですよ」という美辞麗句では広がってこなかった。しかし電力リゾートは、再生可能エネルギーが初めて、市民一人一人の主体的な選択肢として選ばれるかたちで広まる原動力となる。それは遡れば、チェルノブイリの事故が起きた1986年から積み重ねられてきたいとう課長の思考に降りてきた、まったく新しい方法論である。
この日の目的地は千葉県、「読めない自治体名ランキング」があれば常にトップ争いの匝瑳(そうさ)市。ナビゲートしてくれたのは、彼の地を世界的なソーラーシェアリングのメッカにしようと尽力する「市民エネルギーちば」の皆さまだった。
ソーラーシェアリングとは、農地の上にソーラーパネルを設置することで農家の収入が倍増し、新鮮野菜だけでなく電気も地産地消でき、もちろん自家消費だってできる、最前線の発電方法のこと。そしてそこにある大切な要素は、ただ発電したり家の電気を切り替えること以上に、その「農業に活力を与える」機能と言われている。 この日僕たちは、東京のすぐ隣で現実に進行中の、本当に社会を根源から変えるポテンシャルそのものを目の当たりにして、喜んだ。また、その日そのメンバーでその場所を訪れたことが必然ともとれる、運命的な発見もあった。
いとう課長はかねがね、「電気はいつも複雑で大き過ぎて、『自分は関係ない』と思わされてきた」、「どうすると誰でもパネルを所有できるか。どうすれば電気がみんなにとって『自分ごと』になるか。オレはそこで汗をかきたい」、そして「自分が持つことで、まず自慢ができる。そして誇りを持てる。その機会をつくりたい」と仰ってきた。
市民エネルギーちばでは「誰でもソーラーパネル1枚から市民発電への参加が可能」という理念のもと、
パネル1枚3.5万円(税別)でパネルオーナーを絶賛募集中だ
この日僕たちは、市民エネルギーちばのソーラーパネルに、すでに一枚一枚に名前がつけられているものがあるのを目の当たりにした。それは「電力リゾート」を通じて課長が標榜する大きなパネルの「分割所有」が、期せずして、いち早く実証実験されていると言って差し支えないものだった。課長はそんな、示し合わせたわけではもちろんない必然的な偶然の出会いを楽しみ、視察に手応えを感じていた。
『減速して生きる ダウンシフターズ』(幻冬舎/2010)など著書多く、
地域で一緒にサステナブルで循環型な社会のため尽力する高坂勝さんの話を聞くいとう課長
大人の移動教室のようだった今回の視察、すべてがつつがなく進行したわけでもない。 スタッフの中には、過去に稲荷神社で狐に憑かれてた経験を持つ(ほんとか?)ものがいて、車内での話があまりにリアルだったため、例えばいきなり天候が崩れるとか視察に影響が出ないよう、神社は極力迂回した。他に蛙に異様に恐怖するものもいて、田んぼの視察時、ホラー映画さながらの騒ぎが起きた。 いろいろあったが最後に立ち寄ったJA直売所の品揃えが素晴らしく、見たことのない太さのゴボウに歓喜するスタッフがいて、その満面の笑みがすべてを流し去ってくれた。
ともすれば地味で巨大かつ複雑で、頑張っても誰かを敵に見立てての話にしか展開しないのが、これまでの一般的なエネルギーである。だからこそ未だに社会に広めにくく、仲間を増やしにくいとも言える。 しかし、いとう課長が提唱するそれには夢がある。皆が笑顔で関われる。理系な「自分とは関係ない話」に、カルチャーが注入される。そして、その全貌は年明けによりはっきりするし、たぶん4月頃には実際に稼働もするだろう。今言えるのは、それくらいが限界だ。しかし、間違いなくかつてない「電力リゾート」である。2020年、最も注目すべきはオリンピックではなくなるかもしれない。 ぜひ、期待しておいていただきたい。
東さんの右隣、茶色のシャツを着ているのが市民エネルギーちば、もう1人の共同代表・椿茂雄さん。
今回はお二人に案内していただき、多くの学びある視察ツアーとなった
いかがでしたでしょうか?いとう課長が牽引する「電力リゾート」については、今後も引き続き報告していきます。 また、本年もENECTをお読みいただき、ありがとうございました。新年も電気にまつわる新しい切り口の記事、準備中です。 それでは皆さま、どうか穏やかな、心温まる年末年始をお過ごしください、、!
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など https://www.facebook.com/dojo.screening Twitter @soilscreening
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