【後編】CDPのCEOが語る、「RE100」と日本
読みもの|12.22 Fri

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トップ写真、「SBT」とは「Science Based Targets=科学に基づく目標設定」。
できることを積み上げるのではなく、どれだけ減らさなければいけないか、からスタートして、応分の目標を設定すること

  再生可能エネルギーの推進には、国や政府だけでなく企業、投資家の役割が大切と語るCDPのCEO、ポール・シンプソン氏。そしてその時、私たち市民にも、生活の中でできる役割がある。
 氏の言葉を借りれば、
「生活において私たちが何かを買う時、それは実は『投票』をしています。生活における購買活動の影響力はとても大きいのです。
 私は16年間、100%再エネを供給する会社の電力を使っています。ですから私は再エネを応援していますし、投票を続けていますし、投資をしているわけです」
ということだ。
 去る11月29日(水)、環境省との共催で開催された「CDP|2℃に向けて動き出す 企業・投資家セミナー」を成功させた翌日、CDPを突き動かす理念、見据える未来について、聞いた。

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ー中国は今や世界の再エネ業界を牽引しています。
ポール・シンプソン(以下、PS) 中国政府はエネルギーの変遷と、大変真剣に向き合っています。最新の公式報告では、この先5年のプランにおいて、世界の再エネ増加の大部分を中国が担うと予想されています。
 今中国は世界最大規模のソーラーパネル生産者です。風力発電ついても、世界一です。太陽光と風力発電の設置数でも、世界のトップ。とはいえ多くの問題も現在進行形で、まだ潤沢に資源としての石炭も持っています。しかし彼らは石炭が自分たちの土地、そして市民を苦しめていることを体験している真最中ですので、それとは異なる道を進むことにとても前向きです。
ーお話を伺い、世界は大きく再エネに向かっていることを再確認しました。CDPに最終目的があるとして、今現在はその道のどれくらいのところにいるのでしょう?
PS CDPの最終目標は、繁栄する社会が人々と地球のため、永続的に続くことです。それは、本当の意味での持続可能な社会を意味しています。
ーいつかその目標が達成されると、、
PS 私たちは任務に突き動かされて活動するNPOです。そのNPOが任務を達成し、目標としている社会が実現した暁には、存在そのものが必要なくなります。そうすればスタッフは長い休暇をとることができますし、給料のもっと良い次の仕事に就いてもらえればと思います。そうなれば、誰からも文句は出ませんよね(笑)。
 最も大事なことは、今後私たちが生きる世界が安全であり、安定することです。NPOは目標に集中し、それが達成でき次第消えればいいわけですが、悲しいことに、現実社会にはまだまだやることがたくさんあります。つまり、休暇の希望よりも長く働かなければいけないようです。
 私たちCDPは2000年に始動しました。以来、「情報開示」をメインストリームに押し上げ、世界では6300の企業から賛同いただき、その点においては勝利したと言えます。しかし本当に勝利しなければいけないのは、エネルギーの転換に関しての問題です。
 理想的には2020年、現実的には2030年になるかもしれませんが、具体的なエネルギーのシフトを日本でも実現させます。2020年代には環境意識を軸とした、野心的な取り組みがビジネスとして、世界の投資家や都市にとって最重要課題となるでしょう。誰もが気候変動、再エネを念頭に生活することが当たり前の時代となるのです。
ーその状況に向かって、今はどのあたりまで達成していますか?

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PS 「情報開示」に関しては、6、70%でしょう。しかし「開示」は目標実現のための武器であって、目標そのものではありません。本当の意味での持続可能な社会に向け、現時点で320の企業がSBTに参加くださっています。これは、2020年には1000を超えるでしょう。それだけの企業が、気候上昇を2℃以内に収めるために共に力を尽くすのです。
 それが、世界を次の段階へ移行させる分岐点にやっと辿り着いたことになるかと思います。2020年を大きな節目として、全体の50%を超える世界的企業が、気候変動に真剣に取り組む状況が生まれます。
ーナオミ・クラインさんによる『これがすべてを変える』(岩波書店)という本があります。気候変動、温暖化を食い止めるには、足かせになっている資本主義を変えるしかないと提言されています。
PS 現代で私たちが持つすべては人類がつくりだしました。資本主義にしても私たちがつくったものです。そしてそれを機能させるために設定された価値が、紙幣です。社会を循環させるためにお金を使用することは、問題ないと思います。ただその時に大事なのは、「安定した気候」を明確に価値付けることです。そうすることで、市場原理をベースにしながら、気候変動と相対することが可能になります。
 また、現行のシステムが機能していないとするなら、新たなものを提示しなければなりません。人類は進化を続けてきた種です。海のバクテリアから始まって、長い年月をかけ、今現在のかたちまで辿り着きました。私たちは今加速して、私たち人類が生きるシステムを発展させなければなりません。それは現行の資本主義でも可能ですが、もっと的確な規制と個々から湧き出るリーダーシップが必要だと思います。すでにそれらが出現するための素地、勢いもあります。
ーCDPが提案する基準において、最も有効に機能しているものは何ですか?
PS 私たちはランキング・システムを持っています。「すべての企業は情報開示すべき」と言い続けてきて、情報開示や環境フレンドリーな取り組みが実現したとして、そこで注目するのはそれぞれの企業が掲げる目標です。気候変動と水、木や再エネに対して、どんな姿勢で具体的にどのような対策を打っているか。そこで生まれるビジネスが、どのように環境に還元しているかを見ています。
ーそれは国によって変わりますか?
PS CDPはグローバルな情報開示のプラットフォームを有していますので、世界のどこでも一緒です。私たちは現代においてグローバルな経済を持ち、気候変動もグローバルな問題です。また、大企業はグローバルに活動しています。もちろんそれぞれの国に違う事情、自然環境があることは大前提です。
ー世界において、日本だからこそできることは何でしょう?
PS 何より日本には、アメイジングな経済力があります。
ーそれも過去のものになりつつありますが、、
PS いえいえ、とはいえ今でも世界3位で(笑)、人口においては世界6位です。東京にある企業の数は、世界のあらゆる都市と比べて最多です。東京は世界で唯一排出量取引をしている都市でもあります。日本の企業、社会は、最先端のテクノロジーで運営されています。あらゆることが世界で起きていますが、ここはタクシーのドアが自動で開く唯一の国なのです(笑)。
 現実にTV、カメラその他たくさんの先端機器は、日本製です。ですからそういったテクノロジーを是非エネルギー業界で活用いただき、また、持っている資産は投資して技術を促進させ、お持ちのポテンシャルを十分に活かして世界に貢献してもらいたいと思います。

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セミナーのSBT/RE100パネルセッション、RE100に日本企業から初参加のRICOH・加藤氏。登壇者は同じくRE100参加の積水ハウス、ゴールドマン・サックス、環境省

ーでは逆に、日本がもっと力を入れねばならない弱点はどこでしょう?
PS 日本は私には、気候変動に対する危機感が少ないように見えます。昨晩、それがなぜか質問もしました。すると言われたのは、「8、90年代に日本は大気汚染や水の問題を経験しました。当時一応でもそれらを克服したので、国内には『もう終わった問題』という意識があるんじゃないでしょうか」ということでした。
 しかし世界は激動の最中にあります。実際にものすごい速さで変化もしています。日本はそもそも自然災害の多い国ですが、温暖化は世界中に自然災害を増やしています。グローバル経済における供給網はお互いにすべてが関連し合い、当然日本もその一員です。ですから日本も世界で起きる問題に、常に関係しているのです。
 その事実を踏まえて「日本社会には危機感が足りない」と感じていますし、その共有さえできれば、政府や投資家、そして企業が真剣に動き出す動機となるでしょう。また、公教育プログラムにおいても、気候変動について警鐘を鳴らしてもらえるようになるはずです。
 そして、だからこそ今も私はこの取材を受けているわけですが、メディアの力も重要です。
ー「無関心」は、私たちの社会における大きな問題の一つかもしれません。
PS 私は日本社会についての専門家ではないので、詳細には語れません。
 しかし確かなのは、日本には再エネに使える資源は豊かにありますが、化石燃料はないことです。それなのに化石燃料にこだわれば、例えば今後も中国やオースラリアといった国々の言い値に経済が影響を受け、それはとてもリスキーです。
 日本には風、太陽光、海があります。それらは無料で、持続可能な経済を実現させるポテンシャルに溢れています。
 当初はイギリスでもなかなか理解は進まず、動きはゆっくりでした。それが今は洋上風力が盛り上がり、現実に国の20%を賄っています。洋上風力の許可取得にかかる価格は、原発のそれの半額です。
ーCDPはイギリス政府のことも動かしたのでしょうか?

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PS 情報開示にしてはそうだと言えます。国は約5年前、炭素の排出削減目標に対して恒常的な情報開示を義務付けました。政府の肩を持つわけではありませんが、そこにおいては2050年までの5年ごとに、排出量の縮小に伴い、最終的に最低でも8割減の炭素排出を実現させることが記されています。それはパリ協定とも連動した科学的裏付けのある数値で、以降はそれに基づく決定が国内において既定路線となりました。これは、日本政府も見習うべきことだと思います。
ー何がCDPのモチベーションとなっていますか?それはあなた自身のモチベーションと同じでしょうか。
PS 私にとってのモチベーションは、今すでに世界にある、人間社会における必要のない苦しみをなくすことです。本来必要のない苦しみが世界には溢れています。私たちは種として十分な知能を有し、自らが暮らす惑星を「これ以上破壊するのはやめましょう」と理解し、行動できるはずです。だって、私は将来的に家族と月に住む予定もありません(笑)。
 私は大学でビジネスを学べて幸運でした。でも「じゃあ」ファイナンス業界でやっていこう」と考えても、ただお金を稼ぐことにあまり興味が湧きませんでした。それよりも「社会を具体的に変えたい」、「この世界を今よりもいい場所にしたい」という気持ちが強くありました。
 私たちは全員、私たち自身がつくりあげたシステムの一員です。であるならば、一人の責任として、そのシステムを少しでも良いものとすべく行動しています。
 根拠と科学は大切です。個人でも企業でも大きな投資をする際、まず事実を知ることが必須です。
 CDPの役割は科学的事実をビジネスや投資の世界に持ち込み、持続可能な社会を実現するための、正しい判断を促すことなのです。

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インタビューは帝国ホテル1階のカフェラウンジにて、みんな電力からは取締役の三宅も同席した

 

本年度はこれが最後の記事。お読みいただき、本当にありがとうございました。新年は9日に最初の記事が公開されます

 

(取材:平井有太)
2017.11.30 thu.
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ポール・シンプソン

CDPのCEO兼共同設立者。We Mean Business理事会、国際統合報告評議会(IIRC)委員、オックスフォード大学のスミス企業環境大学院のグローバル座礁資産諮問委員会役員など要職に就く。それ以前は、Chesham Amalgamations & Investments Ltd.、エコロジーと文化のための国際協会(ISEC)およびにソーシャルベンチャーネットワークでディレクターとして勤務。バース大学にて責任とビジネスプラクティス修士号取得

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