【第2回】ACE × 華井和代|エシカルでフェアなバッテリーをつくる
読みもの|7.9 Thu

5.36.45

今回のお話は、主著に『資源問題の正義―コンゴの紛争資源問題と消費者の責任』(東信堂、2016年)のある、
東京大学 未来ビジョン研究センター 講師/NPO法人RITA-Congo共同代表・華井和代先生のお話を中心にお届けします

  私たちの生活に不可欠であるスマートフォンやパソコン、IT機器、そして近年普及が進んでいる電気自動車。しかしその成り立ちを追いかけていくと、現在進行形で今もアフリカ・コンゴ民主共和国で行われている、児童労働の実態が見えてくる。

 そんな事実を受け、みんな電力は認定NPO法人ACEさんと共同で、人権と環境に配慮したビジネス基盤の構築を目的として業務提携契約を締結し、人権と環境に配慮した原料を使ったバッテリーの開発と普及を掲げ、調査・研究・開発業務全般を対象とする「みんなでフェアチャージ!プロジェクト」に取り組むことを決めた。
 エネルギーで活用しているブロックチェーン技術を応用展開し、IT機器のトレーサビリティを実現するための、調査の第一歩。コンゴの紛争資源問題と消費者の責任に詳しい華井和代先生をお招きし、公開型で、情報を開示しながら、誰もが使っている携帯やIT機器、これから増えていく電気自動車をフェアなものにしていく方法を探る。

 蓄電池市場は、約6.5兆円と言われてる。できるならその数%だけでもトレーサビリティのコストとし、それを環境改善に繋げていく。
 「人を不幸にしない」バッテリーの普及。
 この企画をきっかけに、積極的な情報発信をはじめます。

 ★コンゴ民主共和国という国と、そこで起きている問題★

6.44.26

アフリカ大陸で2番目に国土の広い国、”コンゴ”。
南部や東部に鉱物の鉱脈がある。採れるのは銅、コバルト、スズ、タンタル、金、ウラニウム、ダイヤモンドなど。世界有数の資源産出地域で、「平和以外何でもある国」とも言われている。
ただその政治状況、紛争状況、鉱物を巡る人権状況は厳しいのが現状。(華井)

6.56.31

1885年からベルギーに支配され、1960年に独立。コンゴ動乱を経て、1965から97年までモブツ独裁政権が続いた。
隣国ルワンダで94年に大虐殺が起き、大量の難民が流入。加害者までもが流入したため、96年から2度のコンゴ紛争が発生した。
紛争中に就任したジョセフ・カビラ大統領は、2016年に憲法上の任期が満了しても居座り続けた。
2018年にようやく大統領選でチセケディ政権が誕生。

政治的にも紛争的にも混乱し続ける中での、コバルトをはじめとした鉱物の調達がある。(華井)

6.46.51

国の東部では今も紛争が起きている。地域で産出される「スズ、タングステン、タンタル、金」が資金源になっている。
頭文字をとって通称「3TG」と呼ぶ。
武装勢力と軍による住民の殺害、強奪、性暴力が常態化し、これらには紛争鉱物問題が関係している。
年間約1000〜2000件の暴力事件が起きている。(華井)

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ただ、コバルトと銅はザンビアとの国境に近い南部で採れ、紛争鉱物ではない。
こちらで問題なのは、児童労働と労働搾取。

鉱山労働者は平均よりも低収入で、7割が明日の食事に不安。
11%の子どもが家庭外労働に従事し、うち19%が鉱山労働。4%が鉱物加工。
動機は両親の意志であったり、家族が鉱山労働者だったり。世帯収入の低さが原因。

コバルト消費は、中国の産業が中心。電気自動車も中国での生産が大きい。(華井)

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写真は現地鉱業の8割を占める大規模鉱業の例として、ウガンダにあるタンタル鉱山。児童労働の問題が起きている舞台は、残り2割の小規模手掘り鉱において

コバルトの需要は増加中。
新しい鉱山の採掘も始まり、2018、19年はコンゴでの採掘量が世界全体の約70%を占める。うち約8割が大規模鉱業で、残り2割が小規模手掘り鉱。
11~15万人が手掘り鉱で労働中。(華井)

6.51.05

コバルト鉱山における人権侵害は、2000年代から問題視。
しかし注目を集めるようになったのは2016、17年に出されたアムネスティ報告書が大きい。

報告書「This is what we die for」の中では児童労働の実態が書かれ、関連企業が名指しされていた。
報告書「Time to recharge」では、その後の対応/対策がなされたかどうかが追及された。

深刻なのは手掘り鉱山の労働環境。マスク、手袋、フェイスガードもなく、子どもたちは警備員に殴られることもある。正式な採掘権がないために、地元の役人から鉱石を徴収されることも。
特に子どもは1日12時間以上働いて、収入は2ドル以下。(華井)

 ★問題解決に向けた、国際社会の動き★

6.47.07

2010年、紛争鉱物取引規制の制定。
ドッド=フランク法(アメリカ金融改革法)1502条に制定。
OECDはデューディリジェンス・ガイダンスを、3TGを使う企業向けに公表。
サプライチェーンを遡って鉱物の原産地を特定し、紛争フリーかどうかの調査を求めた。(華井)

6.48.16

サプライチェーンを遡る上で、3段階に区分。中でも、鉱物が集まる製錬所がカギ。
鉱山はコンゴ東部だけで約2400あり、世界では何十万になる。3TGの製錬所は推定500カ所。
3段階とは「上流(紛争フリー鉱山の認定)」、「製錬所(紛争フリー製錬所の認定)」、「下流(統一用紙による企業の調査)」。(華井)

14.30.45

上流の地域認証メカニズムは「バッキング&タッキング」と呼ばれ、NGOがモニタリングを担当。
例えば6カ月間、鉱山に国軍や武装勢力がいない、児童労働がない、妊婦が働いていないことをクリアできれば、グリーン。状況の改善中であれば、イエロー。クリアできていないところは、レッド。
グリーンであれば、電子タグが発行される仕組み。(華井)

6.49.31

製錬所の認定と同時に、下流では電子産業市民連合が統一の調査用紙を作成して企業が使えるようにした。
作業は煩雑にならざるをえないものの、せめて様式が統一されていれば、効率化はできる。
日本では、ほぼほぼすべての電子機器企業が参加している電子情報技術産業協会(JEITA)が「責任ある鉱物調達検討会」を設立。

上の画面右は、主導する日本企業リスト。
毎年6月に仙台~東京~大阪~名古屋~福岡で千人規模の参加者が集まる説明会を開催している。(華井)

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製錬所の段階では、電子産業市民連合の紛争フリー製錬所イニシアティブが監査をしている。
タグがついた鉱石のみを購入していることが証明できれば認定される。
3TGは、電子産業がいちばん多く使っているので認証システムの運営もしている。270の3TG製錬所が認定済み。

2017年には同システムでコバルトの監査・認定が開始。2020年現在、5カ所の製錬所が認定済み、23カ所が監査中。
認定済みはモロッコ2カ所、中国、フィンランド、ベルギーで各1カ所。監査中のうち16カ所が中国。(華井)

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昨年末、コンゴのコバルト鉱山で死傷した子を持つ14人の両親の代わりに、インターナショナル・ライツ・アドボケイツが米国でアップル、デル、テスラ、グーグル、マイクロソフトを提訴した。

最終製品メーカーの責任が問われている。(華井)

6.53.18

コバルトに関する企業の対応が一気に始まったのは2016〜17年。

2017年に電子産業市民連合が名称を「責任ある企業連盟」に変更。
電気自動車を中心に、参加企業が拡大。「紛争フリー製錬所」は「責任ある鉱物イニシアティブ」に、「紛争フリー製錬所プログラム」は「責任ある鉱物保証プログラム」に変更。
コバルト用に特化した調査用紙も作成された。
中国商務部直属の中国五鉱化工進出口商会(CCCMC)も、「責任あるコバルトイニシアティブ」を設立。

それらの実効性があるかどうか、検証は始まったばかりだ。(華井)

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華井 和代

東京大学 未来ビジョン研究センター 講師/NPO法人RITA-Congo共同代表。
筑波大学人文学類卒(歴史学)、同大学院教育研究科修士課程修了(教育学修士)。
成城学園中学校高等学校での教師を経て、東京大学公共政策大学院専門職学位課程修了(国際公共政策学修士)、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了(国際協力学博士)。東京大学公共政策大学院特任助教を経て2018年4月より現職。コンゴの紛争資源問題と日本の消費者市民社会のつながりを研究。同時に、元高校教師の経験を生かして平和教育教材を開発・実践している。
主著は『資源問題の正義―コンゴの紛争資源問題と消費者の責任』(東信堂、2016年)。
(撮影:今村拓馬)

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岩附 由香

認定NPO法人ACE代表。1997年大学院在籍時にACEを創業。
上智大学文学部、大阪大学大学院国際公共政策研究科修了後、NGO職員、会社員、国際機関職員、フリー通訳等を経て、現在はACEの活動に注力。
人権・労働面の国際規格SA8000社会監査人コース修了、CSRに関する知見を持ち、これまで大手上場企業のステークホルダーエンゲージメントに参画。
児童労働ネットワーク事務局長、エシカル推進協議会理事。
2019 年「G20 市民社会プラットフォーム」共同代表、2019 年 C20(Civil20)議長

ここまで2回にわたって、私たちの手に届くスマホやIT機器が製品となるまでの背景/基礎知識を知っていただきました。
次回からは2回にわたり、対話形式で、私たちにできることについて展開していきます。ぜひ、お読みください

 

(構成:平井有太)
2020.06.17 wed.
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