東大阪のイーロン・マスク 〜私たちの生活にすでにある、新しい社会の可能性
読みもの|8.9 Tue

 「橋の下世界音楽祭」での「みんなふくしま」ブースの電力を供給したのは、廃バッテリー。そう、誰のどんな車にも付いている、私の生活を支えてくれる縁の下の力持ちが、実は、その使用期限を延命させることが可能。そして、そうすることで、エネルギーを考える時の世界的課題でもある、しかも非常に安価で手軽な「蓄電池」となって、私たちの目の前に現れるのです。
 そんな日常に潜む可能性をテストする場としても、最高にうってつけだった祝祭「橋の下」。廃バッテリーの延命技術を持つ、東大阪のイーロン・マスクこと、樋口武光先生のお話をお届けします。

 

higuchi

——今回はあくまでも素人目線で、普段なら破棄していた車の廃バッテリーが、先生の発明の力で蓄電池として利用できると。ですので、せっかく実用する上で、なるべくハードルが低いと、私たちの生活の中に可能性が溢れているという、ワクワクする事例にできる気がするんです。
樋口 バッテリーを使って、変換せんとも、直流で電気を灯すことはできますね。直流のランプいうものはありますし、それでモーターも動きます。
——まずはその仕入れ体制部分を、共につくっていくことが大事かと思います。その上で、どこに活用していくかは、こちらが都度判断していけるかと思います。
樋口 現状は古いバッテリーを集めると、一つ5、600円で買って、業者も海外なんかに流してしまうんです。そんなことしなくても、本当は延命すれば4000円くらいの価値はあるのに。

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本来なら破棄されるだけだったバッテリーたち。樋口先生の力で息を吹き返し、東大阪から一路「橋の下音楽祭」へ

 

——そもそもこういった、廃バッテリーの延命器具をつくられた動機は?
樋口 僕は電力会社におってね、水力発電所にいて、それこそそこでそういうことやってたんです。電力会社はやっぱりコストかかったらあかんので、普通はみんな契約でバッテリーを返すんだけど、それやらんと、なんとか自分たちの技術で延命しようと思って。だから、30年前からこれをやってきました。それで、電力会社内では実用していたんです。
——その技術はどの部分で使っていたんですか?
樋口 制御電源いうて、遮断機を切ったり入れたり、あれは直流の力でやっています。バッテリーをざっと48個くらいつけて、そのエネルギーで遮断機を開閉をやっていました。それは、従来は4年経ったら変えてたんやけどね、私は研究所におったから、社内で延命できるゆうて、取り替えに来るのは断りながらね。
——バッテリーは4年で交換という契約になっているかと思います。
樋口 フォークリフト屋とか、今の電源を持ってる、工場や地下鉄もありますし、そういうところは全部契約でみんな替えていくんです。それ、もったいなからね。

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——「蓄電ができるか、できないか」って実はすごく大きなテーマで、それが可能になると劇的に社会が変わっていくかと思います。しかもそれが、今まで廃品だと思っていたものでできるというのは、大きな可能性です。
樋口 環境にはいいしね、政府としては推したいところだけど、ところがそこに政治が絡んでくる。お金や票も必要だから、業者を泣かしちゃいかんわけや。新品をどんどん買うてもらわんことには、その会社潰れますやん。だから毎回我々は、そこと揉めるわけ。それであんまり進まないねん。
——(笑)
樋口 政府は、ええことなのはわかってるけど、あの人たちは要するに選挙やから、客先の顔見るからね。その客先には、メーカーさんがたくさんおりまして、バッテリー組合ゆうのもあるんですわ。そこで基準を決めたりしてますし、バッテリーメーカーはものすごい力持ってます。そこを規制緩和せなあかんのだけど、それがあるばっかりに、各製造商、現場のところはみんな4年たったら替えられている。よく考えたら、それはもったいないわけです。
——本当はそこに、可能性と夢がある。
樋口 そうです。実際に工場さんとか中小企業なんかは、そういうことがわかってきて、「延命する」から「方法を教えてくれ」とね、そういうところもあります。それで私が特許を持っている、延命器が売れてますね。200万円ほどなんですが、台湾から高知、広島あたりでね。
——政治家さんのお立場もわかりますが、せっかくの人類のための発明が商売や票の力に阻害される状況にもなってしまう。
樋口 環境を考えても、資源がなくなってしまうわけです。全部中国に行ってしまうから。だから本当は規制緩和して、バッテリー協会にも言うて、「延命をやろう」と基準をつくってもらえればいいんです。
——世のため、環境のための発明がなぜか広まらないという、忸怩たる想いもおありでしょうか?
樋口 それは、あります。せやけど、今お付き合いしているところ、理解いただけているところは、進めてくれています。しがらみのないところで、それは社長にしてみても、そっちの方が得やから。定期的に何百万もかけて買い替えるんではなく、同じことが2、30万でおさまるわな。つまり、効果がある。
 ところが、組合ってあるでしょう。労働協約がありまして、バッテリーの延命をしますと、仕事が増えてくるんですわ。すると「同じ給料で仕事が増えるやないか」言うて、それで労働組合が反対するんです。
 日本はしょうもないです。だから、経営者はやりたいんやけども、事務員たちが組合と組んで、仕事を増やさないように「それはやらん」と。

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——台湾にすごい需要がおありになる。
樋口 国内でも、バス屋とかフォークリフト屋には、いってますね。ただとにかく、人を使わなあかんから、組合さんが「仕事が増える」と反対するんです。
——でもそこは、よく考えれば、一次的には仕事が増えるかもしれませんが、浮いた利益が会社に還元され、結局はそれぞれに戻ってくるのでは、、?
樋口 そこを、ちゃんとみんなが話し合いをしたらええんやけど、納得できるはずなのに、全然進まないのはそういう原因なんです。それで経営者がイライラしてましたけどね。ジレンマですわ。今導入してるところも、正規ルートでは「延命のため」とはいえ仕事を増やせないので、あくまで「試験的に」ということで。
——一番わかりやすい、「仕事量」の部分で反対されてしまう。
樋口 せやけど、「ええもんはええ」ということで、進む部分もあるんです。
——人が1万人も集まるようなお祭の場で、実際できることをデモンストレーションしたり、展示会などで見せたり、少しずつ広めていくしか方法はない?
樋口 それは、唸らすことはできるんです。イベントなんかは意味があります。大いにやって欲しい。いけると思います。
 でもそこで、「みんなやれるか」言うたら、しがらみがあるからね。経営者は契約でメーカーと組んでるから、そんな「中古は使えまへん」、「延命器なんかいりまへん」と、そういう具合です。

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プロジェクトFUKUSHIMA!とご一緒した「みんなふくしま」ブース。たぶん、会場で一番キラキラしていたせいか、夜遅くまで様々な方々が集まってきた

 

——とはいえ、その「しがらみ」の部分すら知らない方がたぶん多くて、まずはそこを認識していただくだけでも、意義があるような気がします。
樋口 仰るとおりで、それなら協力させていただきます。
——ここ最近、発電とセットで蓄電の重要性がことさら語られるようになってきました。
樋口 そらそうね、そういう時代です。
——世界のマーケット的には、イーロン・マスクという方がスティーブ・ジョブスを超えるような勢いで、宇宙から電気自動車、蓄電池と、席巻しつつあります。
樋口 確かに、世界中に売りまくってますね。それで今ナショナルが力を入れて、富士電機もみんな売って、一生懸命やろうとしている。ところが、よく考えたら「長く使う」ということが日本の国のためになるんやね。そこを我々はうまく宣伝でね、世の中を変えるようにしていきたい。
——ですから、まさに先生がやられていることは、イーロン・マスクと等価の重要性ではと考える次第です。
樋口 そうです。僕なんかは30年前から電力会社の中で、あらゆるコストダウンをしてきました。それを卒業したから、改めて世の中に「これはええぞ」ということで頑張っているわけね。
——先生にしてみればイーロン・マスクのやっていることなど「とっくにやってきたぞ」と。
樋口 そういうこと。
——それなのに、妙なしがらみに邪魔される。
樋口 「なんで伸びてないねん」と、そういうことや。もう30年前に延命の技術は確立してきて、それを電力会社は採用してたと。会社の中ではやりやすかったのが、いざ世の中に出て、さあ、工場持って行ったり何ややると、みんなしがらみがあってね。
——「商売の邪魔すんな」と。
樋口 それや!地方行ったらそんなんで、あんまりメーカーを泣かしたらあかんわけね。だから、我々の言うてる環境にしても、「環境にええのはわかったけど、判断はできん」て。要するにメーカーの力が強くて、徐々には進んでますけど、なかなか一気にはいかない。でも我々は、「ええもんはええ」ということで、だから宣伝する意味は相当あるんです。
 それにイベントだけだったら、中古を使ったり、コストダウンした安いやり方もあるんですわ。恒久的に使わへんから。

今年の「橋の下」では、ブースの電力はそれぞれ出店者が自前で賄い、ステージなどメインの電力は例年通り、神戸の慧通信技術工業株式会社による「パーソナルエナジー」が支えた

 

——むしろ中古の、今まで私たちが廃品として処分していたものを再利用できるという事実が、素晴らしいことと思います。
樋口 場所が豊田ということもええね。でも、TOYOTAグループが嫌がるかわからんね(笑)。
 例えば災害なんか起こるとね、古いバッテリーいっぱい持ってきて、電気をつけて、この前も熊本に行って「携帯電話の充電に貢献した」ゆうのもあるんです。そういう時は、絶対バッテリーが必要になる。
 これがあればモーターもまわすことができますし、そうすると、ちょっと濁ってる水を飲める水に変えることができます。
——なんですか、それは?
樋口 「淡水化」と言います。モーターにポンプを付ければ。この間も熊本で非常事態あったでしょう?あそこでも、一緒にやっているテクノシステムいう会社が、きれいな水をつくって貢献したという。ちゃんと殺菌もしますから、汚いやつが十分飲めるようになるんです。
——それは、テクノシステムさんのオリジナル商品なんですが?
樋口 僕の特許で、一緒に開発してますねんから。それはイランや中東に持って行って、砂漠で水がないところでバッテリーを太陽光で充電して、「水にする」と。新しいです。伊藤忠やとか、大きなメーカーはプラントで水にしてますが、我々はもっと個人の携帯用というか、パーッと持って行ける。
——先生の身の回りの生活は、もしや先生の開発された技術ですでに賄える、、?
樋口 できますね。でも、イベントに使うのにはできてますが、恒久的に使うには、みんなお役所に届けなあきません。府だとか県の承認を得るのが大変で、そこで「規制緩和が」って話になるわけです。

higuchi

——人類の進歩を素直にすすめたいものです(笑)。
樋口 それはね、みんな当選してかなあかんから。だから、日本の正義のためにやる政治家って少ないからね。日本の国は永遠そんなもんで、ええことはええんやけど、進まないのには政治力とかあるから、そこは駆逐してかないといけない。  結局はスポンサーやから。スポンサーのことを苦しませるのは大変で、しがらみがありますわ。普通の浮動票が活躍してくれればね、ええ方向に向いてくれるかもしれません。
——こういうことを研究されている方というのは、あまりいらっしゃらないんでしょうか?
樋口 いますよ。大学の研究室にはありますけどね。学問としては必要やし、テーマとしては面白いんですわ。劣化する仕組みは授業でもやるんですが、せやけども、その先になかなか進まないんです。

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「橋の下」は2011年から5回目の開催。青龍、白虎、朱雀、玄武ときて、今年は中央を司る「麒麟」がメインステージを護った

 

 

(聞き手:平井有太)
2016.08.09 Tue.

 

 

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