【前編】CDP|エネルギー大転換中の世界、遅れる日本
高瀬さんはRICOH、積水ハウス、ゴールドマン・サックス、環境省が並んだRE100パネルセッションで、司会を務めた
「2℃」とは、パリ協定の決定事項だ。気温の上昇を2℃に留め、最終的には1.5℃に収めようという指標であり、今すでに1.1℃上昇し、このまま行けば2.7℃になるということで、危機的状況は続いている。
しかし、正直私たち日本人は、その状況にピンとこれているだろうか?
世界は激動の最中にある。その牽引者がCDPであり、環境だけでなく、世界経済が大きくシフトする中取り残されかけている日本は、危惧されている。
ENECTは2017年を、日本でCDPを担当する高瀬香絵さん、そしてセミナーに合わせ本国イギリスから来日したCEOポール・シンプソン氏のインタビューで締めくくる。
RE100は、世界の名だたる企業が、自社を将来的に再生可能エネルギー100%で運営することを宣言するイニシアティブ
お金の運用には、「世の中を良くする方にお金を使いたい」という概念があって、それが発展して、例えば2000年代に「ESG投資」って聞いたことがありますか?
環境を意識し、人身売買はしないし、女性の雇用や多様性にも配慮した企業に投資をしようというのが始まって、国連でもそれを扱うようになり、投資家の方々も「私たちも始めます」と。
でもそれが、世界では今や何千機関くらいの署名が集まっている流れがある中で、グローバルからはずいぶん遅れて、日本はやっと2015年にGPIFが署名をしました。
企業の多くは環境報告書を出してます。でもそこに書いてあることはどうしてもお手盛りになってしまいます。たとえば、企業がどこかの環境保全活動をしたところで、一方で石炭火力の新設をしていたりしたらそれは気候変動にとって全体としてはどうなの、ということです。
それで、2000年代に「E=環境」の部分を、しっかりフラットに評価することをはじめました。つまり、同じ質問書にそれぞれの企業に答えてもらって、「そうして評価できればいいよね」ということで始まったのがCDPなんです。
イギリスは金融のメッカであるわけで、本当に最初は投資家から依頼されて、3人くらいで始まったらしいです。
それらをもっと企業の内部や部門内で、投資の意思決定のために使って、そうすると「石炭火力はやっぱり採算がとれない」とか、そういう内部的カーボン・プライシングみたいな部分のリサーチやとりまとめもしています。
他には「TCFD」ってご存知ですか?
このあいだのリーマンショックなどの金融危機や金融の不安定化を受けて、金融の世界もグローバルになってきたから、お互いに「国内でだけじゃなくて情報共有しましょう」という、G20の下に「金融安定理事会」という、財務大臣や日銀総裁が参加する会議があります。
そこで「気候変動って、実はサブプライムローンばりのリスクなんじゃないの?」という話になって、そこで投資の側面からは「今」よりも「将来どうなるか」という部分が大きくあります。その上で「情報開示をする方法を決めないといけない」ということで、それが 「C」limateに関する「T」ask force云々で、「TCFD」(Task Force on Climated-related Financial Disclosure)なんです。
その初代会長にはマイケル・ブルームバーグさんがなって、6月に最終提言を出して、そこでもCDPは情報開示のトップランナーとして、連携しています。企業の戦略がパリ協定で言った「2℃以下」の世界について、備えたことをしているかどうか、についてシナリオ分析をすることなどを提言していて、それは2018年からCDP質問書でも聞くことになっています。
TCFDは、企業が未来の気候変動や対策に備えているかの開示を求めています。パリ協定がいう2℃以下の世界で、ちゃんと儲かっている企業かどうか、という視点です。
パリ協定には「ノン・ステート・アクター」という、「政府以外の組織・グループ」ということが書いてありますし、それで結構うまくいった部分があるんです。
クリスティーナ・フィゲーレスさんという、当時の「気候変動枠組条約」事務局長ですが、その方も「投資家と企業と都市、そしてNGOが実行力を持っている」と。政府は規制くらいしかできないんです。
ただそこもずいぶん変わってきていて、「国連責任投資原則(PRI, Principles for Responsible Investment)」にも署名しましたし、少しずつ波はきています。
意識の高い企業もあれば、「ここに入っておくことで少しでもイメージが良くなるから」とか、いろいろな企業がいます。ただ、クライメート・グループはブランディングにもうるさいので(笑)、お互いに「いい」と思って手を組んでいるとは思います。
日本からはRICOHを皮切りに積水ハウス、ASKULが加盟したRE100。世界ですでに加盟している企業については、豪華に並んだロゴからご覧いただけるだろうか
資本主義の元には宗教観がすごくあるので、アダム・スミスの本なんかを読んでも、「神の手」とは言うけれどもそこにはある種の善意があった上で「マーケットが最適に調整していく」ということなので、「トップには神の意志がある」ということなんです。
だから、メカニズムの部分だけじゃなくて「WILL(意志)」の部分というか、そこが投資家にも本当はあるんですよね。つまり、公的資金なんていうものは特に、そこをしっかりしていないと民から怒られます。
それでこそのチェック機関なんですが、日本はメカニズムのところばかり輸入している感じがある。そこは、もちろん日本流でいいと思いますので、スピリットの部分をしっかりさせられればと思います。ちゃんと、「社会を良くする方向に働くように」しなきゃいけないなと。
加えてそれを支援する「ラベル」というブランドもあって、「ここはバイオマスもキチンとしたものだ」という認証をしてくれて、そういった枠組みまでしっかりあるんです。その上で、アップルは儲かっているから「キラキラの素晴らしい再エネを100%いきましょう」となるわけです。
そこは会社の規模や事業の調子で、「ウチは20%キラキラで、あとはそこそこの再エネでいきます」とか、そういった消費者選択ができる枠組みがここ5年くらいで揃ってきました。
そして、そこで見えてくるインフラに基づいて、NGOやコンサルがブランドを監査しながら構成されているということです。ですので、幾重ものチェック機能が、しかもITを使って安くできているんです。
「発電源証明」という言葉があります。
英語では「Guarantee of Origin」というんですが、発電がどこからきているかをトラッキングすることが、法律文章にしっかり書いてあるんです。
日本の場合は、それどころか最近まで、再エネに対する差別がすごかったです。
私はずっと温暖化の研究をやってきました。それは、コンピューター上で気候と経済、そして影響モデルを組み合わせて「この政策をうったらこうなります」とか、逆に「この程度の温度上昇に抑えるためにはこうやらないとダメです」といったことです。
その頃から、再エネは安くなるだろうし、仕組みとして安くならない理由もないし、20年来ずっと再エネを推してきました。でも、当時の指導教官はエネルギーの世界のドンの先生で、「再エネなんて高いからダメだよ」と。
それから、電力会社の人は「中央で大きな発電所をつくって上から分配する」系統モデルでずっとやってきたので、ベースがその発想なんですね。
後編へ続く
高瀬香絵
1972年広島生まれ。幼少期は栃木の田舎で自然に囲まれながらすごす。中学・高校と米国に交換留学を経て、当時できたばかりの慶応湘南藤沢キャンパスにて「温暖化は私が解決する」と決意して入学。大学から大学院ではバレエやテコンドーに熱意を注ぐかたわら、環境税を経済モデルで分析したり、エネルギーシステムを学ぶ。修士取得後、日本エネルギー経済研究所にてエネルギー需給の将来予測や核融合のプロジェクトに係る。その後テコンドーに専念するために研究所を退職、世界を放浪。夢破れて東京大学新領域創成科学研究科にて博士を取得。その間に2児の母となる。博士取得後は科学技術振興機構低炭素社会戦略センター、東京大学工学系研究科にて研究員。2015年よりCDP参画。