【最終回】江守正多|コロナと気候変動、その共通点と相違点
気温上昇がある臨界点を超えると、後戻りできない「ティッピング」が起きる。それが次々に連鎖するおそれも指摘されている
これまで長く気候変動問題に関わってきた経験から、闇雲に不特定多数に問題を啓蒙するよりも、強い意志を持って動く3.5%の人々の可能性に辿り着かれたという江守先生。そういった思考の根底には、仮にコロナ騒動が世界を席巻しようが、その間だけ期せずして数%のCO2排出抑制が実現しようが、時間が限られている中、地球が危機に瀕しているという厳然たる事実はそのままそこにあるということがあります。
再生可能エネルギーへの転換は、純粋にポジティブに社会をアップデートするもの。そしてリーマンショックでも実際に減った世界のCO2排出量は2%以下だったのが、今回のコロナ禍では年内で約8%下がると試算されています。ただそれは、世界各地でこれだけ経済を止めた結果であって、それが復活した時、社会はいったいどうなるか。
問題は、ではそれをどう理解して、私たちがそこに関わることで、地球の破綻をどう抑止できるのか。先生の想いと思考が、一人でも多くの方々に伝わりますように。
本当に3.5%の支持する方々が出てきたら、それは相当大きなムーヴメントに見えると思います。ドイツのデモも景色としては壮観で、「国中の人が参加しているのでは」というように見えます。そういうところを目指さないといけないと感じています。
もう一つ、「システムが変わる」ということで考えていることがあります。
コロナで緊急事態宣言になったわけですが、それは非常にショッキングなことでした。でも同時に一方で、気候変動に関してもしばらく前から「非常事態宣言」が出ています。多くの海外の自治体、イギリスの議会まで含めて、日本でもいくつかの自治体が「気候非常事態」ということを宣言していました。
まずコロナの場合は、接触削減で医療システムを守ることを最優先課題としています。そのために「非常事態なので、お店は休んで、飲食店も20時まで」といった強硬措置がなされました。さらに財源のある東京のような自治体からは協力金も出て、「補償金を払うから、申し訳ないけど止めて」ということが起きています。
気候についてそれと似ていることがあるかということで、石炭火力のことを考えました。今、日本の石炭火力の発電所新設問題が世界から批判され、それがようやく国内でも人々に少しずつ知られるようになってきました。この件は、僕は補償金を払ってでも止めるべきではないかと思います。
これが一つ、非常事態下にあることの、わかりやすい例なんじゃないかと思うんです。
ドイツは2038年までの脱石炭を決めて、石炭業界に補償金を支払うそうです。「これで変わってください」、「産業転換してください」ということです。そういうのが、本当なら気候非常事態を受けて起きなければいけないことなんだと思います。
日本は今コロナの緊急事態をきっかけとして、社会において「ある課題を最優先させるということはどういうこと」か、そしてそれが「気候変動の場合、何をしなければいけないのか」ということを学ばなければなりません。それは我慢でなくて、「システムを変える判断において気候そのものの優先順位が上がる」という、そういうことなんじゃないかと思っています。
上田マリノ「可愛い猫ちゃんのためにも、資源循環・自然共生・低炭素な社会、持続可能なあり方を考えたい、、!」
ある国際的な社会調査で、世界平均で約2/3の人が「気候変動対策は生活の質を向上させる機会」と認識しているという結果があります。対して、日本人は約2/3が「生活の質に対する脅威である」と答えています。日本人はなぜか、気候変動対策は「我慢」だし、「コストがかかる」し、「便利さや快適さを諦めなければいけない」と捉えているんです。何よりまず、そのイメージを変えなくちゃいけないと思っています。
それはもっとポジティブで、社会をアップデートするものであり、しかも日本がもし脱化石燃料ということを最終的に達成できた暁には、化石燃料の輸入に払ってきたお金が全部国内でまわるようになる。そういった大きな経済的なメリットもあるわけです。ただ、もちろん途中で投資は必要で、その時に誰が得する損するといった問題は出てきます。
でもこれは最終的には、しごく前向きな「社会のアップデートである」と。
そういう「我慢じゃない」という認識を広めることで、潜在的に気候変動に本質的な関心が持てるような方々に、もっとこの話に入ってきてもらいやすくなるということが、起きないといけない気がしています。
今はまだ、気候変動の問題に関心がある人でも、「自分はすごく我慢します。だから皆さんも我慢しなさい」という感じの方々がいらっしゃるわけです、
そうやって気候変動対策のイメージを変えていくということが、本質的な関心を持つ人を増やすため、また、気候変動対策なんてと反発したくなる人を減らすために、僕が今一番しなくちゃいけないことだと思っています。
それは辿っていくと、石油ショックあたりの頃の省エネの話や、もっと昔の戦争時代にした我慢が素晴らしいことだったみたいな、上の世代の方々の美徳みたいなこともあるのかもしれません。
環境問題の解決には普段からの習慣が大切だと思います。そのためにも幼児期から環境への気づきを促す教育が大切だと考えています
というのも、私は今35歳なんですが、学校で環境問題の勉強をしたことがありません。でも、私よりも下の世代だと徐々に教科書に入ってきたり、今の小学生は高学年くらいで温暖化のことが出てくるといいます。
それがある意味でうまくいってしまった。だから僕たちは、環境問題とは「一人一人が生活の中で気をつけること」という風に理解してしまっているのかもしれません。
しかし本当は、そこには環境省が管轄していない、大きな「エネルギーの問題」があります。そこは経産省の管轄です。環境省は「気候変動対策として、皆さんエネルギーのチョイスをしましょう」ということを言わないんです。
だから、学校での教育も、「こまめに電気を消しましょう」という話に終始しがちでした。それはそれでいいんですが、それだけで終わってしまうことがこれまで多かったんじゃないかなと思います。
盛り上がった取材は、最後にはインタビューというよりも、自由闊達な対話に。ZOOMも切れずに乗り切れました
あとは、本当は「政治のチョイス」ってことを言いたいんですが、それは役所は当然そんなこと言えないので(笑)。だから僕も、それは個人の立場で発言する時に言うようにしています。
江守正多
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。2018年より地球環境研究センター 副センター長。社会対話・協働推進オフィス(Twitter @taiwa_kankyo)代表。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』 (角川SSC新書、2013)、『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(化学同人、2008)、共著書に『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』(技術評論社、2012)『温暖化論のホンネ』(技術評論社、2009)等
環境を意識しての行動を、クリーンで真面目、そして清貧なイメージよりも、スポーティで先駆的、当たり前に格好よく。
伺いながら、革ジャンにサングラスの五箇先生を思い出し、五箇先生のYoutubeのプロデューサーが江守先生なことに納得。
次回はGW期間中に急遽配信された「ESG投資」のスペシャリスト、夫馬賢治さんとみんな電力コラボ企画記事、月曜公開!