【最終回】トーク|会津電力・JAふくしま未来・みんな電力
読みもの|5.19 Sat

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メイン写真は福島市と会津で、県が誇る名産品を牽引するお2人。最初の出会いは、311直後に売れなくなった桃でつくったリキュール「桃の涙」がきっかけ

  ENECTで初めて、全4回、約一ヶ月間に渡って展開してきた本記事。
 終えた後、フロアの方から「本当なら300人くらいは集めて聞くべきだったような、豪華なメンバー、贅沢な内容でした」との言葉をいただいた通り、予想を超えて濃密になったトークイベントの、示唆に富む内容が全3回では溢れ出て、収まりきらなかったのは必然です。
 JAふくしま未来・菅野組合長による「もっと面白くて、もっと地域に資源を取り戻せて、もっと財を自分たちの方に『呼び込む』ということが可能になってくるんじゃないか」との言葉が示す、エネルギーが有する無限の可能性。
 貴重な場を提供くださった猪苗代町・はじまりの美術館、そして、豊かなご経験に基づく説得力ある発言を多くいただいた会津電力・佐藤弥右衛門さん、みんな電力・大石さん、ありがとうございました。
 また、ここまでお読みくださった読者の皆さまにもお礼を申し上げます。もし、ここから新しい社会を構築する何らかのヒントを拾ってくださったのであれば、それ以上はありません。
ー大石さんから、菅野組合長に質問はありますか?
大石 組織として脱原発を掲げてらっしゃったり、将来的には「再エネを使おうよ」という部分を、具体的に「どう進められるんでしょう?」ということですね。
 もしJAさんが使う側とつくる側で本気でやり始めたら、私たち含めて、電力会社なんかいらなくなると思います。膨大な自然資源と、使う側の影響力、だって「JA組合員がつくった電気をJA組合員で使おうよ」というだけで、ものすごい需要と供給になるわけです。
ーすべてにおいて、潤沢なリソースをお持ちである。

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大石 農水路やソーラーシェアリングなど、使っていないところもたくさんあるわけで、そういう意味でいいタイミングなので、是非福島で一つ大きな事例ができるといいなと思います。
佐藤 那須野ヶ原の土地改良区ってあるんです。そこは山麓で小水力発電があり太陽光、バイオマスがあって、つまりそれは農家の組織で改良事業をやって、組合費を払っているわけです。
 米づくりはどんどん右肩下がりで、組合員も減ってきている。そうすると改良区自体が保たないわけです。それで「どんな収入があり得るか」という話で、一旦組合長にもなった女性の事務局長が水力をやってきて、無借金で発電して、もう「新しい発電所をつくる時に借金しなくていいんだ」というくらい、うまくいっています。
 そこの組合員や職員はニコニコです。かたや他の土地改良区では、「オレたちこれからどうなっていくんだべ」と、心配が絶えない。だからそれくらい、土地改良区の中だけでも水力や太陽光で発電するだけで、相当のパワーが出てくるんです。そしてそれを自分たちの組合員に供給する時に、今度はすごく安くできるわけです。
 地域に一つ大きなダムや灌漑用の溜め池があれば、別に365日その水が流れてなくても、必要な時に発電させたり、様々なことができます。だから僕は、農協さんと言いますか、農家の組合員の代表が、そういったあらゆるパワーを使い始めたら、特にエネルギーの分野は籾殻や藁、豚もいるし飼料を使ってバイオマスとか、無茶苦茶可能性に溢れていて、一事業どころか、現行の物流や金融を超える作業になっちゃう気がしています。
ー否応無く、皆さんの期待が農協に集まってきているような気がします。では、毎週駅前で農作物販売のマーケットを開いている佐藤(宏美)さん、お願いします。

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佐藤(宏美) 聞いた話なんですが、山形では果樹園で剪定した枝を発電に利用しているといいます。福島でも県北は果樹園が多いので、そういった可能性はいかがでしょうか?
菅野 ちょっと、すべていろいろな角度で、本当に考えています。セクションも立ち上げます。
 果樹園の剪定で出る枝は、私は実際に風呂焚きに使っています。実際にはただ燃やす人もいっぱいいて、それだって電力になる可能性があるし、いろいろなことを考えていくと。
 問題は、それらを繋ぎ合わせながら、お互いのコストをグッと圧縮できるような立て付けなんです。
 今の荒廃農地を、いかに再生していくことによって、そこで生産性が上がるような畑ができるか。それは今まで荒れていただけのところですから、土地代なんて「荒らさないでもらえれば、無料で貸しますよ」という方もたくさんいます。ということは、コストは抑えながら、間違いなく全体を緑の、青々とした環境をつくっていって、そうするとみんな活き活きとそこに足を踏み込めるという。今は草ボーボーで、一生懸命かき分けたって出てくるのは猪くらいで、そこはやはり改善しないといかんので、夢を少しでも描きたいなと思っています。
ー今日は他にも福島大学の先生が来てくださっていて、311以降にいろいろな活動で活躍されている後藤先生、一言お願いできますか。

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後藤 私はもともと、教育とかメディアという点から自分自身の反省を踏まえて活動をしてきました。その観点から、自治体とか公共の役割をどう捉えてらっしゃるかということに関心があります。私も福島市の再生可能エネルギー導入推進計画の策定に携わらせていただく機会がありました。とはいえ、なかなか踏み込んだ計画にするには難しい側面がありましたし、再エネ導入率の目標は立てたけれども、うまく実現する保証もないわけです。
 みなさんは民間企業だったり、NGOやNPOのようなお立場で活躍されているので、「自治体がもう少しこういうことをしてくれればもっと活動できるのに」という点があれば、お伺いしたいと思いました。
 弥右衛門さんはよくご存知と思いますが、ヨーロッパなんかは自治体が主導して電力会社をつくって、そこに市民参画のスキームもあって、皆が出資を気軽をできるような仕組みがあるのに対して、日本にはまだまだそういう施策が少ないと思います。
 私自身、自治体との仕事が多いものですから、そういうところをお聞きできれば幸いです。
佐藤 まさに自治体が「どう生き残るか」というのもおかしいんだけど、これからどんどん人口減少でしょう?例えば、原発事故で全村避難になってしまったところは、人が「帰れ」って言ったって帰って来ないわけですから。
 「それは村として成りゆくの?」と。ある村を見ると、「役場だけ残ればいいんじゃないかな?」という設備ばかりつくって、人が帰ってこなくても職員の給料さえ出ればいいんじゃないかという、そういう風に見えることもあります。
 そうでなくとも、「自治体が生き残ればいいのか」じゃなくて、「地域がどう豊かになっていくか」という話なので、ガラッと変えないとダメだと思うんですね。
 昔、第4次総合計画とかいって、「町の計画をつくるから委員になれ」って役所に行くと、人口が右肩上がりに上がっていく計画なんですよ。人口が倍になるって「ウソをつけ」と(笑)。現実はまったく逆で、もう「どんな絵空事を描いてたのかな」ってところに入っているのに、冷静な計画が立てられていない。
 そういう意味では今回、チャンスなんです。自治体って「村」は1割くらいの自治率なんです。それが「町」だって3割5分くらい、福島市くらいになると5割くらいかもしれません。10割自治ができるのは東京だけなんです。東京はそれどころかお金が余るから、「オリンピックやる」なんてバカみたいなことを言い出す。日本はもっと別なこと、「そんな場合じゃないでしょう」という状況なのにね。
 それで喜多方市を見ても、3割5分くらいの自治であるということは、計算してみると、会津全体で17市町村あって、行政予算全部集めてみたって1000億もいきません。産業総生産高ってGDPから言うと、せいぜい8〜9000億の間なんです。
 そこでなぜ再生可能エネルギーかというと、会津は特別なのかもしれませんが、猪苗代湖の水があって、あれは標高500メートルから会津の200メートルの盆地まで落差があるんですね。だから田子倉ダムで、只見川流域でものすごい水力発電をやっています。そこでできる約500万kWhと言われているうちの6割弱が東北電力で、その売り上げは、もし1kWhを10円で売ったとしても、3000億円になるんです。その金額がこの会津で生まれている産業で、それを東北電力、東電、Jパワーで持っていっているという、その事実は知ると「えええ」という話です。
 自治体は黙っています。でも自治体が、雪が降ってお金がなければ霞ヶ関に行って交付金や除雪費のお願いをして、他にも地産地消の取り組みだって、みんなやっているわけです。これはケチな話かもしれませんが、ここに降った雨や雪や水は地元のものですよ。「オレたちのものだ!」ってね(笑)。
 だって水を使う水利権にもいろいろあって、灌漑用とか漁業用、もちろん発電用もあり、それをなんで主張しないのか。しかも「人口減少だ」って言って、恐らく30年もすると町や村は消えてなくなるって時に、ここの資源を奪われて、そんなバカな話ないだろうと思うんですよ。
 自治体で、みんなでやればいいじゃないですか。10円で売っても3000億、20円だと6000億の売り上げがあるわけです。それがしかも東京だと30円で買ってくれると。そこに送電料で10円払うくらいの計算をしていって、しかもここにあるのは何十年も前の発電所だから原価償却もしてるとなれば、まずここで安く使って、余ったら売ればいいじゃないですか。だから「発電所も売ってください。みんなで買いますから」って。
 誰が発電したって、本来問題はないわけです。自治体は、「電気は電力会社がやるもんだ」って思い込んでる。今も水道事業は自治体がやって、ある意味で自治体ビジネスですね。じゃあなんで電力はやれないんですか。「電力会社さんの仕事を奪うと、なんかプレッシャー受けるし、怖いからやめておこう」くらいなもんで、今まで自分たちの地域のエネルギーを売り飛ばしてきたのを、もう一度買い戻すべきですよ。それで電気代を下げられて、住民サービスをもっと安く提供できるわけです。まさに住民のエネルギーになると。
 それこそ「シュタットベルケ」です。
 エネルギーをも含めた地域づくりになっていけば、新しいかたちが絶対生まれるわけです。それは、「地方の方が豊かだ」ってことですよ。東京って何もないんですから。食料は向こうから、水はあっちから、エネルギーはそっちからって、それだけの話ですから。

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ーみんな電力は各地の自治体から相談も多く受けていると思います。自治体にやる気を出してもらうコツみたいなものはありますか?
大石 温度差がすごいですよね。その差が激しいです。ですから、そもそも僕たちに声がけしてくれる自治体さんて、ものすごくポジティブで何かを探されたりしています。
 その中で、いつも共感を得られるポイントという意味でいうと、「本当はお持ちの価値が、今のまま売電しているだけですと、損失していますよ」ということです。もっとその価値をポジティブに、埋没している価値に光を当てて、観光価値も上がり収入も上がり、悪いことは何もありません。せっかく魅力的な資源をお持ちで、電気は誰にでも売れるのに、ただ活用されていない状況なだけですと。
 すると「ああ、そういうものなんですね」と。だいたい皆さん、発電事業をやられている自治体さんも、電気はつくって電力会社に売るだけのものと思われてますので、そうじゃない「そこに付加価値を付けて、売られたらどうですか?」とお話させていただいています。
 弥右衛門さんのお話にもありましたが、水力発電なんてもともと地域の資源であり、原価償却済みのものをずっと維持していく理屈もないんじゃないかと思います。地域に取り戻して、例えそれが5、6円でも、僕らにすれば安くて魅力的な電源です。まさにお互いでウィンウィンの関係になれるところですので、それこそ「埋没している価値を取り戻す」ことだと思います。
 あと、自治体さんは最後は人です。トップがいくら「やりたい」と言っても、現場や事務方の人のやる気がなければ、いくら突っついても動きません。
 そして最近面白くなっている側面は、原発の問題も再エネの話もそうですが、皆さんが発見だと言っているのは「アップルみたいな企業が出てくるとは思わなかった」ということです。「『電気を選んで買いたい』人が出てくるなんて」ということを、省庁も他の企業の方も、みんな言っています。
 でも実際にそうなって、誰も何をしていいものかわからないんです。つまり、そこにまったく新しい軸ができてしまった。ですから割と、そこに対して「どうしよう」と思っているところには話がしやすいですよね。
ー農協という立場で、今日はエネルギーの話ですが、これまでもあらゆる事例で市や県、国と折衝を繰り返して、実現されてきたんだと思います。そのあたりのご経験やノウハウの部分を菅野組合長、お願いできますか。

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美術館の入口の外からビオクラシー展を彩ってくれたミズアオイ。チラシなど、総合的にデザインを手がけてくださったSAGADESIGN SEEDS・佐賀建さんの作品

菅野 実際の行政や自治体は、ある意味では予算も含めて「自分で自由にできるものはほとんどないな」という状況なのね。だから新しいことを提案しても、それを受けるだけのゆとりはないのかなという感じはすると。
 ただ現実的に、人が変わると、それは福島自体もそうですし、恐らく今回の福島大学の食農の取り組みなんかについても考えると、意外と「ヘッドが変わると変わるんだな」という気はします。だとすると、ヘッドが変わってそれなりに中間の役職や部長さんとかも変わろうという意向が感じられると、我々もそれが市の動きとしてあると、動きやすくなる相乗効果はあるなと。
 ただ結果として、我々もそれなりの判断をすることによって市に対して肩を押すような、そういうお役立ちもできるかなと思いますし、今の地方創生を含めて考えた時に「誰かがつくってる」ということしかない。そこはやっぱりそうじゃなくて、一人一人の市民として、「どう関わるか」という部分を、エネルギー政策や電気の問題はもっと身近なところから、今日弥右衛門さんや大石さんから出た話は意外と本気になって考えられるんじゃないかと思いました。
 すると、もっと面白くて、もっと地域に資源を取り戻せて、もっと財を自分たちの方に「呼び込む」ということが可能になってくるんじゃないかなということを、今日学ばさせていただきました。
 そしてそこは、今まで考えていたことをより具体的に、実際に「コトを起こしていかないとあかんな」と。もともとの17農協が合併してから私の管内も広くて、新地の方ではエネルギーのいろいろな動きが出てきたり、金融機関も東邦さん、信用組合さんとJAで一緒になって関わったり、近くの自治体もやる気になっているようですから、是非前向きに取り組んでいきたいなと。そういうところから、一つ一つコマを進めてみたいと思っています。
 今は自治体も、結構「ヘッドが変わると組織も変わるな」という動きが見え隠れしていると思っています。現場ではどんどんと、変わろうとする動きが出てきていると思います。

 

全4回のエネルギー・トーク、いかがだったでしょうか。
ここで語られたことは決して遠い世界の話ではなく、私たち一人一人の生活にも何かしら反映させられることがあるはず。
それでは、来週月曜公開の新記事を楽しみに

 

(取材:平井有太)
2018.3.24 sat.
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