【初回】ESG投資|第一人者・夫馬賢治さんに聞く
「SDGs」とか「RE100」といった言葉がまがりなりにも社会に浸透してきたかのように感じるのは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)、循環型社会、持続可能性を考える業界に身を浸し過ぎな人間たちの勘違いだろう。ちょっとしたものをプラスチックから別素材に変えたから何かした気になるには足りないし、それくらいは人様にも言わないそれぞれにとっての当たり前の取り組みなはずで、結局のところ謙虚な日々の積み重ね以上のものはない。
今世界で何が起きているか。動き出した、その「Environment、Social、Governance」から頭文字をとった、怪物のように巨大な投資とは何なのか。
気候変動とCO2排出、豊かな自然に子どもたちの未来。理想として語れることはたくさんあっても、根っこのところで誰が何を考え、どうモノゴトを導いているか。
誰もが知ることで今がまるで別世界に見える、そんな話を届けてくださるのが、ニューラル代表取締役社長・夫馬賢治氏だ。
ESG投資にコミットするPRI(責任投資原則)署名の機関投資家は2006年から年々増えてきた。グラフの出典も「PRI」
その動きが2006年にはじまり、「こういうことってやっぱり大事だし、投資先を見極めるのにいい手法かも」という認識が拡がっていくのが、2010年頃なんです。
この話が大きく取り上げられていくきっかけは、リーマンショックです。それは、リーマンショックで企業が大ダメージを受け、もっと言えば欧米企業の経営陣は赤っ恥をかきました。それまで「大丈夫、大丈夫」と言い続けてたのに、実際に株が下落してダメージを受け、これは本当に「ヤバイな」と。もう同じことで言い訳もできないし、このままだとクビになる。2度と企業に対して「やってます」とか「大丈夫です」という嘘はつけなくなったので、まずは「あらゆるリスクを洗い出せ!」と言ったのが2008年でした。
そして09年、10年くらいに、まず企業のサステナビリティ、つまり「2度とリーマンショックは起こさない」となった後、今まで見ていなかった環境や気候変動のリスクに焦点があたります。そうして「これは、今までちゃんと見てなかったけど結構ヤバいね」という認識が拡がっていきました。
それでパリ協定ができるんですが、その時にはグローバル企業たちはとっくに気づいていました。「気候変動はとても大きな経営リスクである」ということで、だから協定は、あんなに皆がバックアップして、ある意味とてもスムーズに成立したわけです。その裏には、その5年間調べ尽くしたデータがあったんです。
インテリ層、経営者たちにもそれは同じで、トランプ大統領であっても石炭火力の割合はどんどん減り、この流れは止まりません。ですから、トランプさんがいるから「ESGは重要じゃないんじゃないの?」という例にはならない。いくら仮に彼が本気で言っても、それで金融機関とか企業は止まらないんです。
特に北欧とイギリスの公的年金たちが騒ぎはじめました。彼らが、「自分たちの投資はこれほど大きなリスクを背負ってる」ということを言いはじめたのは、リーマンを受けた世界の企業の動きと同じタイミングです。そこで彼らも、「気候変動が大きなリスクじゃないか」と気づいていくんです。
一番大きかったのは2012年、「座礁資産(Stranded Asset)」という言葉が出てきます。
これは平たく言うと、まず「気候変動を抑える」という目標に対して「2℃」というものが意識されていきます。その時に「どの燃料が使えるのか?」、特に石炭は「どんどん燃やせなくなるよね?」と。すると、石炭は今まで資産価値のあるものと思われていたけど、気候変動を前提条件に入れると、急に「価値のない資産になっちゃうよね」と。それは、「船が座礁するようなことだね」ということで、生まれた言葉です。
そのことは、割とシンクタンク寄りな、頭のいい人たちが集まっているイギリスのNGO「カーボントラッカー」が言い出し、それが本当にイギリスの機関投資家と中央銀行に取り入れられるんです。「これは納得いくし、まっとうだよね」ということで、そこから一気に脱石炭の動きが拡がりました。
2012年は福島の事故もあった後で、「原発もちょっとダメでしょう」となり、おのずと「じゃあ、再エネしかないよね」ということになりました。そこから「再エネ」という言葉がどんどん強くなっていって、その流れの先でパリ協定に結実ということになったんです。
企業の取り組みもそこから進化しています。規模的にも、11年頃にやっていたアクションよりも今の方が大きくはあるんですが、それでも当時のアメリカで、十分に衝撃でした。日本でそんな話は一切聞いたことなかったので。
それがRE100や、他にEV100とかSBT(Science Based Target)もこのイベントでできました。それが今に続く大きな流れの発端になっています。
そして大きいのはそこに、金融機関までがついていることです。そういった中で、最後まで頑なに乗ってこなかったのはエクソンモービルとかBP、シェブロン、シェルといった、いわゆるオイルメジャーでした。
実は今も、彼らはまさに闘っている最中です。彼らは投資家からプレッシャーを受けています。あれはお金のたくさんいるビジネスですので、投資家や銀行にお金を注入してもらわないとうまくまわらない。でも、銀行からもプレッシャーが大きくて「やってます。ちゃんと考えてます!」ということは頑張ってプレゼンしつつ、「とはいえ石油も大事です」となるので、「本当か?」と突っつかれている真っ最中です。
あらゆる事象は唐突に起きることはなく、背景に文脈がある。世界的なエネルギーの転換にもある文脈を理解すると、
これが一過性なものではないことがわかる。ドラマチックでワクワクする夫馬さんのお話、次回は来週月曜日公開です
→【第2回】ESG投資|第一人者・夫馬賢治さんに聞く
→【最終回】ESG投資|第一人者・夫馬賢治さんに聞く
夫馬賢治
株式会社ニューラル代表取締役CEO。みんな電力顧問。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省ジャパン・グリーンボンド・アワード選定委員。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG社会経済パネル委員。講演、新聞や雑誌への寄稿、ラジオ出演等多数。ハーバード大学大学院在籍。サンダーバード国際経営大学院MBA修了。東京大学教養学部国際関係論卒。