【最終回】ESG投資|第一人者・夫馬賢治さんに聞く
夫馬氏が語るのは、再エネへのシフトや気候変動対策がパリ協定からはじまったとしか理解できていない日本の危機的状況。世界を根底から揺るがす巨額のESG投資について、国内第一人者としての視点は的確だ。
省庁の中でも力がない環境省がいくら提言しても動かなかった経産省や政府に対し、世界の動きを知る外務省が環境省側に付き、状況が変わってきた日本。3.11という事態を受けても原発がスローダウンしただけだったこの国で、世界からずいぶん遅れながらも、希望の光は少しずつでも、大きくなりつつある。
みんな電力の顧問も勤めるコンサルティング会社・ニューラル代表取締役社長の夫馬賢治氏。今回が最後のインタビュー全3回を読んでいただければ、私たち自身の生活の仕方も、仕事の仕方も、意識の部分から変わる。
2014〜2018年における、世界のESG投資額の推移。日本で特に増えている。グラフの出典は「GSIA」
ずっと続いていたのは環境省と経産省の対立構図で、しかし環境省は産業界に対しては存在感が出せず、話を聞いてもらえなかった。「NGO的な省庁だよね」的な扱いに甘んじていたところ、外務省が声を出し、環境省の肩入れをはじめて、与党の人たちの考えが変わりはじめました。
首相官邸のところにも、今までは経産省からの「再エネはまだ先です。まだまだ石炭火力です」という声しか届かなかったのが、外務省からの声が届きはじめて「あれ、経産省の言ってること本当なの?」という状況になってきたんです。それはここ2年くらいの動きです。
外務省が環境省側についたというのは割と大きくて、同じタイミングでNHKで放送された『脱炭素の衝撃』というスペシャル番組がありました。
ですから、もしかすると、もうちょっとかもしれません。大阪冬の陣から夏の陣くらいまできて、堀も全部埋められて「さあさあ、これからどうしますか?」みたいな状況に追い込まれてきてはいます。本当に、あと少しかもしれないです。
国の制度はすぐには変えられません。その中で今一番必要とされているのは、この制度の中でもやれるやり方はあって、それを実際に提供できるPPS(電力小売)さんの存在です。そうじゃないと、皆さんがいくら「RE100に参加したい」、「CO2減らしたい」と言ったところで、ソリューションがなければ何もできません。
日本の再エネはまだ、すべてがフルフルに動いても、水力を除くと7、8%くらいです。しかも厳密には、FIT電気は日本で「再エネではない」と定義されています。その7、8%にはFITも入っているので、そんな「純粋に再エネと呼べるのって1%未満?」という状態の中、どうソリューションをつくり出してくれるPPSさんがいるか。それができる人たち、そういったプレイヤーが求められています。
そう考えると、みんでんさんはそれができるプレイヤーですので、それはすごいと思います。
それをまずやってはじめて、再エネが本当に頼れるのか、やっとご自身で考えられるようになるのかなと。今はまだ、いろいろな雑音が多過ぎる気がします。
でも、一人一人が調べて本当に分析するのって、正直無理だと思うんです。時間も限られてますし、暇があるなら子どもの面倒も見なきゃいけません。その時に大手メディアの声が特に大きいとしても、他のいろいろなメディアを通じて「大手企業も再エネにむけて動き出しているよ」、「再エネってそんなに悪いものじゃないよ」、「海外だとこんなにみんな使ってるよ」みたいなことが伝わると、「再エネでもいいんだ」という安心感を持ってもらえるかなと思います。
だから、この3年間だけでも大きく変わってきて、しかもこの変化はこれからも続いていくと思います。
しかしすごいのは中国で、あちらに行くとガソリンの原付なんて一台も走っていない地域が増えています。最近はもう、地域によってはバスすら電気自動車です。ですから、BYDという中国の最大手の電気自動車メーカーが、もちろんTESLAのデザインと比べればチャチく見えるかもしれませんが、市場シェアは遥かに多くとっています。そういうメーカーさんはいますが、日本に入ってきていないので、見えずらい。
他には、グーグルはグーグルで地熱発電の事業をしています。小型地熱発電を自社で開発していて、それは家庭用地熱です。場所はもちろん選ぶんですが、地熱のエネルギーが豊富にあるエリアであれば、その循環で部屋を暖めるようなシステムで、「暖房費はいらなくて安定はしています」と。
さらに彼らは3年ほど前、結構有名なAIの会社を買収しました。「何に使うのかな?」と思って見ていると、「省エネで使ってみようよ」とのこと。そして、そのAIを使ってエネルギーの最適化をしてみたら、それだけですぐに2、3割減らせたんです。グーグルのあの規模のサーバーでそれだけ電力を減らせると、かなり大きな規模です。それはすごいインパクトなので、グーグルはその技術を売ろうとしています。
マス向きには地味なんですが(笑)、他にも技術はいろいろあります。例えばスウェーデンの会社がCO2を出さない製鉄を始めようとしていて、もう技術は確立し実用化の直前まできています。コンクリートをつくるCO2の発生量が7割削減できる技術を開発した、アメリカの企業もあります。
年金の、資本主義社会におけるパワーはかなりすごいんです。
「やった方がいいよね」ではなくて、「やらないと会社が潰れますよ」という世界の話になってきています。国外の企業はそういう気持ちでやっていますし、話はいたってシンプルだと思っています。
最近は私自身、東京の大企業だけじゃなく、地銀からも話が聞きたいと呼ばれたり、地方での講演の機会も増えています。そこでもそういったメッセージは出して、これを「なぜやっているのか」。「大企業だからやる」とかではなく、「中小でもやらないと、存在そのものがなくなっちゃいますよ」と。
これから日本では洋上風力もはじまります。特に洋上風力の適地は日本海側なので、そこにも新しい産業要素が生まれていきます。
あとは今、地方の再エネについて、送配電の連系問題で「送電線は満杯です」、「送電網引きたかったら数億円」という話が出ています。そういったものは市民の側から、「さすがにおかしくない?」、「こんなに地域活性を試みているのに、どこ向いてるの?」という声が出てくればと思います。
市民が言うと、市議や県議、それこそ国会議員も「地元にこんな声が」と言うようになります。それが霞が関や産業界に届けば、彼らも無視はできません。最近も、東北電力管内で、発電者で均等な負担をし合おうという調整が実現しました。それも発端は、国会議員でした。だから、市民の声は議員を動かすということで、巨大な影響力があるんです。
日本は日本なりに、まんざら悪いことばかりでもありません。今も力強い一歩を日々、歩んでいるところだと思っています。
刺激的でワクワクする夫馬さんのお話、いかがだったでしょうか?世界規模の変化には結局抗えず、遅かれ早かれ日本に来るのなら、相応の準備で、むしろそれをテコの原理で利用するくらいの対応ができたらと願います
→【初回】ESG投資|第一人者・夫馬賢治さんに聞く
→【第2回】ESG投資|第一人者・夫馬賢治さんに聞く
夫馬賢治
株式会社ニューラル代表取締役CEO。みんな電力顧問。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省ジャパン・グリーンボンド・アワード選定委員。東証一部上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG社会経済パネル委員。講演、新聞や雑誌への寄稿、ラジオ出演等多数。ハーバード大学大学院在籍。サンダーバード国際経営大学院MBA修了。東京大学教養学部国際関係論卒。