【後編】井上酒造と再生可能エネルギー
読みもの|12.28 Mon

  電気を切り替えることは、お金の流れを変えること。どうせ毎月それなりに払わないといけない電気代であれば、それが国外や応援していない企業に流れてしまうより、自分が住んでいる地域や、頑張っているあの人に届けられたらよほどいい。
 時代の流れも、コロナ禍が結果的に促進しているのも、分散化された社会。一ヶ所に人やビジネスが集中する、中央集権化した社会はリスクだらけなことが証明されてしまった。その上で、「顔の見える電力」を掲げるみんでんが促進するのは人と人との繋がり。ネットの必要性が、もしかしたら過度にあがってしまった今だからこそ、人と人との繋がりがよけい大切になる。
 地域活性、サーキュラーエコノミー、地産地消、持続可能性。日本が誇る美味しいお酒文化にきれいに絡まった、未来をつくるキーワードの数々。
 井上酒造さん記事、後編もぜひ、お楽しみください。

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ー以前酒米は、県外から買われていたんですか?
井上 はい。それこそ兵庫県とか新潟とか、いわゆる「産地」から購入していました。
 それが現状はまだ2割くらいですが、将来的には全量地元産米として循環させることを目指し、酒米を供給してもらいつつ地元農家の生業を支え、電気は小山田さんがソーラーシェアリングをはじめて、その電気はCO2も出しません。なおかつ耕作放棄地をも再生させて、もう一石二鳥、三鳥という話になっていけばと考えています。
ーそういった長年の経緯があったから、電気の取り組みも特段驚くものではなかった?

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井上 実は、みんな電力さんと契約させていただく前から、地元の再エネの会社である湘南電力さんと一部契約をさせていただいていました。当時はまだ一部でしたが、一応そういった意識は当時からありました。
 それにしても、みんな電力さんの電気で「すべてが再エネ」となると、なんだかとっても、何もしなくてもいいことをしているようで、気持ちがいいんです(笑)。
 本当にそう思います。
ーここから先の課題は、ではこの取り組みを誰に、どう拡めていくかという話になっていくかと思います。
井上 社会的にはまだ、再エネに特化した電力会社を知らない方も多いでしょう。それから「いくらかかるの?」、「どれくらいのコストなの?」という部分は皆さん、だいたいにおいてわかっていないだろうと思います。「たぶん、高いんだろうな」と思ってらっしゃる方が多いのでしょうが、ここも見積もりしていただいて、ほぼ変わらない。というか、むしろちょっと安くなるくらいだったので驚きました。
ーみんな電力を知ったきっかけも小山田さん経由ですか?

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ソーラーシェアリングの「おひるねみかん発電所」オーナーである小山田大和さん、TBSテレビ『あさチャン!』(11/26放送)収録の様子

井上 はい。少し前に小山田くんが、オンライン発電所ツアーをやりましたよね?あれは非常に参考になりました。
 我々素人には、電気には色も匂いもないから、「本当にそうなの?」という懐疑的な部分が実は今もちょっとはあるんです(笑)。まだ、「本当にウチの電力って『すべて再エネになった』と言えるの?」みたいな、しっかり理解ができていない部分が自分の中にあるのかもしれません。でも、「そうなんだろうな」と思いながらこの電気を使って生活することで、「いいことしているんじゃないの?」という風に感じることはできています。
ーとはいえお酒の世界では、それこそ酒米でもそうですし、ずっと以前から当たり前に「顔が見える関係」が重要だったのではないかなと思います。

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井上 もちろん、それによる信頼関係、安心感は確かにあります。その辺はもともとあった感覚で、それが社会一般と比べて早いか遅いかということは、よくわかりません(笑)。
 でも、これからモノを売っていく時に大切なのも、そこだと思うんです。できるだけ消費者と生産者の距離が近い、その言い方を変えたものが「顔が見える」かたちだと思います。今後はそういった売り方が、より必要だと思っています。
 それはお酒でももちろん、そもそも日本酒は呑んでいただかないとわかりません。例えば居酒屋でのイベントにしても、直接お客さんの前に出て行って、こんなつくり、こんな味わいでということをお伝えすることでファンが増えるということは、普通にあります。
 僕自身もこれから、もっとそういうやり方をやっていきたいと思っています。
ーたぶん今、コロナもあって余計にネット販売が発達し、「顔が見える」価値観の逆の方向性がメインストリームになっていく流れもあります。でも、だからこそより一層、対面での販売や関係性が貴重になっていく気もします。
井上 それはすごく感じます。ある意味で「すごく便利になった」ということは言えますし、僕も個人的にはすごくマニアックなロックが好きで、あまりお店では見かけないCDが欲しかったりするわけです。それは一般のCD屋さんにはなくて、むしろ率先してアマゾンなんかのお世話になったりするので、そこの便利さは感じています。
 ただそれだと、例えば僕らが酒造りで一番目指しているのは、「呑んでいただいた方が笑顔になれる」お酒であると。そこを目指してつくらせていただいて、皆さんに実際呑んでいただく場があって、そこで皆さんが「あぁ、美味しいね」と笑顔でいてくださることを常に想像はできても、実際の現場には行けないことになってしまう。
ー他に、お酒づくりで大事にされていることはありますか?

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井上 それは、端的に申し上げて「お料理と一緒に楽しめる」お酒です。力んで「どうだ!」と言って主張し過ぎない、僕はお酒は常に脇役でいいと思っています。食べるお料理を引き立てる、そういう存在の酒でありたいということはいつも意識しています。ですから、そんな風な酒造りをやらせていただいています。
 それも、日本酒だからって和食にという概念でもない。
 一口に酒と言ってもイロイロな味わいの違いもあって、それぞれのお料理に合うような酒造りをやっています。でもあえて言うなら、ウチなんかは相模湾でとれるようなお魚、例えば「鯵のたたきであればこのお酒」とか、あるいは少しコクのある酒を「天婦羅にはコレ」とか、そういったものが揃っています。
 今神奈川には13の酒蔵があります。中にはいくつか、全国で知られているブランドのお酒もあります。一緒にイベントをやることもありますし、それこそ再エネの電力にも、皆さんが「関心を持ってくれたらいいな」と思っています。県内の酒蔵が一丸となって地元産の再エネを使っていたら、それはすごくアピールできるんじゃないかと思うんです。

ー「神奈川のお酒はすべて、CO2出してないらしいよ。そのせいか、味わいもさらに美味いよね」みたいな打ち出しが実現したら、しかもその時のエネルギーも地産地消でとなると、とても新しい打ち出しです。

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井上 とはいえ一歩マーケットに出ればお互いライバルですから、その辺は丁々発止でやらないと大変です(笑)。特にウチの主たる市場は箱根で、あそこには年間2000万人もの観光客が来るわけです。それって日本一くらいの人数ですし、競争もその分激しいんです。
ーそれにしても、長く地域の課題に取り組んでこられ、実際に実践し、さらなる課題も見つかるけど仲間も増えて、確かな前進を続けられている印象です。

井上 壁にぶつかりながら解決する、その「いい例」は小山田くんに任せています(笑)。私たちはただつくられたものを使わせていただいている立場ですので、当面は彼がやっていることの力になれればと思っています。彼は間違ったことが大嫌いな人間で、だからこそ人がまわりに集まってきているんだと思います。

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老舗酒蔵7代目・井上寛さんによる地域、環境、酒造りについてのお話、最後は神奈川県全酒蔵での取り組みにまで及び、
夢溢れる記事に。今年のENECTもこれで最後。誰にとっても大変だった本年、そして新年も力を合わせて乗り切りましょう

 

(取材:平井有太/協力:利岡憲)
2020.12.03 thu.
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