片平里菜とアトリエDEFの「木ずな」
シンガーソングライター片平里菜さんと、国産木材にこだわる工務店・アトリエDEF(以下、DEF)のコラボ、「木ずな」のお皿ができた。
片平さんは「大量に生産、消費されていくモノの価値を今一度見つめ直したい」「今すでにある良いモノの再発見、再活用を一つの選択肢としたい」と言ってきた。ファンには、自然なこととして響くことなのかもしれない。
その背景にどんなストーリーがあるか、お伝えしてみる。
まずDEFさんは国産木材、それもどこに生え、いつ誰が伐採したかまで履歴を追える資材にこだわる工務店。本社を長野県は上田にかまえ、同県内では八ヶ岳、県外では群馬と山梨、さらに湘南、軽井沢・佐久にも営業所を持つ。
社長の大井氏はかねがね「山がよくなれば、川がよくなる。川によって里もよくなり、水は川から海に流れていく」と語っている。一番の主流を山として、人間も動物も植物も健康にする『循環する仕組み』を実現すべく、本当に山から海にかけて営業所をかまえているのだから、その本気度、説得力は説明不要だろう。
「商品=家」に使う「原料=木材」の生産から流通にいたるまで、透明性を持たせることを大切な価値として、関わる誰にも幸せをもたらす建物を増やし続けるDEFさん。そして、透明感ある澄んだ声でファンの心震わせ、来年の10周年に向けて全国42ヶ所のツアー中だった片平さん。
片平さんは、グッズ制作でも一人の生産者として、手作業でのぬくもりや素材へのこだわりを大切に、大量生産消費社会の裏にある悪循環から切り離す試みを続けてきた。たとえそれが安くて可愛い商品だとしても、そこに遠い国での不当な労働や、環境破壊が潜んでいるかもしれない。生産の背景を知ることは、私たちの「所有」への意識に、そして日々の選択にも良い変化を与えてくれるのではないか。
両者の親和性が高いだろうことは、2011年の創業から再生可能エネルギーを通して、「顔の見える」関係で生産者と消費者を繋げてきたみんな電力として、前々から確信に近いものを持っていた。
片平さんが立ち寄ってくださった八ヶ岳営業所には、住居の理想を詰め込んだ「循環の家」がある。DEFさんが手掛ける家には、例えば建築中に資材が足りなくなれば、足りない分を実直に、契約する山から伐採して運んでくるため、労力と時間が惜しみなくかけられている。
陽の入り方、木のぬくもり、釘をなるべく排した職人技に、2重の窓。地の利を活かし、余計な消費を控え、できる限り地産地消でこだわり抜いた循環型。片平さんも、到着しての第一声が「やっぱり木の家はいいですね」だった。
貴重な国産資材を丁寧に扱うDEFさんの現場から、それほど大きな無駄は出ない。とはいえ、それでも多少なり出てくる端材を有効活用すべく考案されたのが「木ずな」シリーズ。柔らかな杉からつくられたお皿で、余計な化学塗料は使わず、片平さんのサインが刻まれる。新鮮なサラダでも乗せれば食べる前から癒されそうな、そんなお皿だ。
この日は工場から、木ずな担当の大西玄生(げんき)さんも来てくださった。
建築端材を3ヶ月~半年乾燥させ、本来なら硬い広葉樹の方が適しているところ、職人技を駆使して、軽くて割れないお皿に昇華させる。熟練の大西さんでも、1日に20枚つくるのが限界。木目が反映され、つくる一枚一枚がおのずと世界で唯一のデザインとなる。
今回はさらに、せっかくの逸品に相応しい重厚感を加えるべく、「蜜ろう」も塗り込んだ。英語で「Bee Wax(蜂ワックス)」の方がわかりやすい、人体や食物への影響と環境負荷の観点からDEFさんも建てた家の床に塗り込んでいるという、こだわりの天然素材。実は片平さんも、同じく蜜ろうをギターと弦に塗り込んでいることがわかり、初対面にして必然的とも言える共通項で、当日の対話に花が咲いた。
「環境が病んでいれば、そこで生きている人も病んでしまう。根本から変わらないと、この悪循環は終わらない」と言う、片平さん。できてきたお皿を手に、「これがどんな商品か、わかって手にとっていただけたら嬉しいです。ブログやインスタで、ここにどんな想いや工程の先で商品になっているか、綴っていきたい。ファンだから何でも買うとかじゃない、でも私のライブに来てくれる方々には、メッセージがちゃんと伝わっている感触もあるんです」と語ってくださった。
アトリエDEFの社名の由来を大井社長に聞くと、「物事の基本を『ABC』って言うけど、その先に何があるのかなって」と笑顔。そんな、未来に向けた新しいスタンダード「DEF」と、自身の活動を「豊かな自然や資源、精神を次の世代に受け継ぐため」と位置づける片平さん。お互いの、本当ならもっとたくさん身の回りにあったはずの良い循環を取り戻すコラボ、「木ずな」のお皿。曰く、「いくら商品がサステナブルないいものでも、使う人の考え方が変わらないと、環境は変わらない」。
どうか、一人でも多くの方々の食卓に、そこにしかない温もりを届けられますよう。