【第1回】ある夫妻と電力の自由化|ENECT プラチナム連載 Vol.11
青山はキラー通り、1990年から東京で最先端を自負するアート好きの眼と心を満たし続けてきた、ワタリウム美術館。そしてその地下にはアート、写真、建築に関する厳選された書籍を扱うミュージアムショップ「オン・サンデーズ」がある。東京にいながら、世界最前線のアート事情に触れられるオン・サンデーズに、どれだけ多くの人間が刺激を受けてきたことだろう。
そのディレクターは、草野象氏。今回より3回続く記事は氏が、この4月に始まった電力自由化に際し、ご自宅を「みんな電力」に切り替えるという話を聞きつけて実現した。それはもちろん家の主の独断ではなく、家族会議の末決めた切り替えとのことで、奥様の千津子さんも参加。お2人による、日々の生活はもちろん、それまでの生き方、社会との接し方、アートや表現にも直結するお話は示唆に富むものとなった。
取材当日、みんな電力視察を兼ね、オフィスを構える世田谷ものづくり学校に到着した氏の首にかかっていた、花のかたちをしたソーラーライト。
話はそこから始まった。
世界中には電力が供給されていない地域がまだまだたくさんあって、人数にすると11億人くらいの人たちが、電力が安定的に供給されていない環境で生活をしているといいます。その地域の人たちは、ないならないなりにいろんな工夫をして、灯油ランプとか乾電池式バッテリーに頼って灯りを得ているんだけど、コストがすごくかかるのと、結局そういう方法で電力を手にしても全然サステナブル(持続可能)ではない。乾電池は使ったらそれまでだし、灯油の灯りも燃やしたら終わってしまう。
オラファーはそこに安価な、ソーラーエネルギーのランプを供給できれば、例えば子どもは本を読んだり、家族が夜に食卓を囲む「灯り」として使えるんじゃないか?ということでデザインして、エンジニアと一緒につくったんですね。
けっこう性能が良くて、5時間でフル充電、強い方の光で4時間くらい、弱い方ですと50時間くらいは灯ります。それを、いろいろな国のボランティアとか、万屋のおっちゃんとか、「オレ、これ売りたい!」という人にまず送るんです。それで、実際使ってみて「あ、これいいね」となったところで、ここでオラファーが面白いのはちゃんとビジネスとして回すことを考えていて、要するに、ただあげちゃうと一回きりで終わってしまうから。
そして、売る拠点やグループがその地域に生まれると、少しずつでもその人たちにも利益が入るので、継続性が生まれる。しかも比較的若い人たちアフリカやアジアで目を付けて、「これ面白いよ」と言って、実際にアフリカのどこかの国では中学校の子どもたちが10人くらいのグループをつくって、オラファーからこれを仕入れて売っているという。
ただ、そういういろんなことがあって、「エネルギーってそもそもどういうことなのか」ということは考えるようになって。
いろんなかたちの「エネルギーの生み出し方」があるわけです。水力、火力、地熱、そして原子力、他にも風力、ソーラーとかいろいろな選択肢が出てきているんだけれども、そもそも「僕らはどうしてエネルギーが必要なのか」というところを考えてみてからじゃないと、なかなか「納得のいく結論には至らないだろうな」と思っていて。
今も、例えばこうして灯りがついているじゃないですか。ごくごく自然に蛍光灯の下で僕らも話をしていますが、「実はいらないかもしれない」とか「なくてもなんとかなるかもしれない」とか、そういうことを考えていった時に、根源的に「エネルギーを人間が必要とする理由」みたいなものを考えるようになしました。そして、その一つは「夜の光」だと思ったんです。
だから、オラファーの「リトル・サン」を一つの作品として見た時に、「エネルギーによって人間はまず何を手に入れたか」という原点を考えさせてくれる作品だなと思って。そうすると「まず、光だろう」と。
東北で起きた大震災と原発事故を受け、身の回りにいたり、作品を通じての表現者たちの動きに刺激されながら、自然と日々の生活を見直すところにたっていた草野夫妻。
「リトル・サン=小さな太陽」から始まったお話は次回(6月7日更新)、そもそもお2人の生きる姿勢のルーツには何があるか。そして、日本において画期的な「電力自由化」を受け、やはり表現と関わりながら、どのように考え、動いたか。そんなお話に続いていきます。