【第3回】ある夫妻と電力の自由化|ENECT プラチナム連載 Vol.13
よく言われる、「電力を選ぶことは、社会をつくること」という言葉がまったく大袈裟でない、その理由の核心にも触れる、大切なお話が続きます。
オラファーは、バックミンスター・フラーとルドルフ・シュタイナーからの影響がすごく強いと思うんです。フラーは50年くらい前、シュタイナーは100年以上前の人なんだけれど、当時はごく少数の人にしか受け入れられなかったり、ある意味排斥、排除されたりしたわけじゃないですか。
でも、半世紀なり一世紀も経つと、別にとんでもないロジックを使わなくても、「2人の言っていたことのいくつかがものすごく有効だ」ということが明らかになってきていて。
それは、もちろん社会における人間の精神として「いい部分」が大きいから評価が高まってきているんだと思うんですが、難しいことを言わなくても、あの2人はやっぱり面白い。「これ面白くなくて、どうすんの?」みたいな感じがあって、その「面白さ」って人間にとってすごく大事というか、やっぱり「わくわくする気持ち」がなくなってしまうと、人間はどうしても「正しい」だけでは何かができないから。
これもつい最近の話なんですが、この前坂口(恭平)君の呼びかけで、熊本の早川倉庫のためのチャリティーライブをやって、その時の最初のパフォーマーがリー“スクラッチ”ペリー、出ないですからね(笑)。
お金ナシに考えたら、ある人がその人なりの技術や発想でつくったものを他者に与えているわけです。そして、与えてもらったことに対して何かのかたちで感謝として返すって、普通にすごく健全だと思うんですね。
ものを売ったり買ったり、つくったり流通させたりするということは、本来攻撃されるようなことじゃない。だから、それをまとめて「資本主義」と言ってしまうと違うような気がするんです。
でも資本主義って、その「資本」の存在自体が怪物的なものになっちゃってて、みんなが「何のために活動してるの?」と聞くと、「資本を増大させるため」という答えに行き着くけど、「増大させた資本がどうなるか」ということは不問にされています。ただ「さらなる資本のために」それをまた投下するという、終わりも目的もないゲームみたいになっちゃってて、「それはちょっと降りたいな」とは思うんです。
「ブラックボックスに委ねていては、どうも安心できないな」というのは最近の気持ちで、だから、仕組みが知りたい(笑)。「これはどういう仕組みで動いているのか」、それは組織にしても機械にしても、僕はどんなことに関しても知りたいんです。
アートの作品にしてもそうで、そこがわかると、例えば(アンディ)ウォーホルみたいにファクトリーでつくってる人もいれば、棟方志功みたいに執拗に自分だけで描く人もいて、どっちがいい悪いじゃないんだけれど、そこがやっぱり面白い。
それから私、1年前から手話を習い始めているんです。そうしたら、今まで見えていたのとはちょっと違う世界が見えてきたんです。
彼は耳は聴こえないんですが、私が齋藤君とお話をする時はいつも筆談になってしまうんです。私は筆談に慣れていないから自分の気持ちを言葉にすることが難しいし、何というか、時差も感じて。だったら、「手話ができたらもっとダイレクトに会話もできるし」という、それが最初のちょっとしたきっかけだったんです。
それから手話を学び始めたら、人のちょっとした、今まで見えなかった動きも見えてきて。
今は電力のこととか発電のことを考えると、よくないことばかり目や耳に飛び込んでくるから、とりあえずそこは回路を閉ざして「何ごともなかったかのように使いましょう」という感じだと思うんです。
でも、考えることが楽しい案件だったらみんな積極的に考えるし、若い子とか、すごいアイディアを持っている人がどんどん参加してくれると思うんです。そうするとすごく楽しい、産業なり仕事としての「電力」がもう一度浮かび上がってくるんじゃないかと思います。
だから、自分が一番反省したのは、福島の原発事故まで電力について本当に無関心だったんです。なんで「もっと前からちゃんと、考えていなかったんだろうな」って。
一市民の立場から、示唆に富む話をしてくださった草野夫妻は今週で最終回。遊び心は常に胸に、次週のENECT更新もどうか、お楽しみに。
今回のインタビュー中で言及した、アーティストのプロフィールと作品集のカバー写真は以下の通りです。
小原一真(おばらかずま)
1985年、岩手県生まれ。震災直後からキャリアを開始し、2011年に行った原発取材は、原発内部の写真を始めて伝えたフォトジャーナリストとして数多くのヨーロッパのメディアにて報じられた。2012年には写真集「Reset Beyond Fukushima」がスイスのLars Muller Publisherから出版。2014年には太平洋戦争下で空襲の犠牲者となった日本の子どもたちの見えざる歴史を追った「silent histories」を手製写真集として自費出版。同写真集は米TIME紙、英Telegraph紙、Lens Cultureなど様々な媒体でBEST PHOTO BOOKS 2014に選ばれる。同写真集は2015年11月に普及版としてメキシコの出版社Editorial RMより1900部出版された。2015年1月よりLondon College of Communication MA Photojournalism and Documentary Photographyで学びながら、ウクライナのチェルノブイリで長期プロジェクトに取り組む。ウクライナで行われたプロジェクト「Exposure」は世界報道写真コンテスト2016の「people」カテゴリーで1位を受賞。国内外での写真展、トークイベントを多数開催。写真はThe Guardian, Courier international, ZEIT, El Mund,DAYS JAPANなどで掲載される。
齋藤陽道(さいとうはるみち)
1983年、東京都生まれ。石神井ろう学校卒業。齋藤は2008年ごろから写真に取組み、2010年には写真新世紀の優秀賞を受賞。3.11以降さらに独自の世界観を発展させてきた。病気の人、障害を持つ人、ゲイやレズビアンなどマイノリティの人びとのポートレイトを多く撮っている齋藤は、生きることに苦しさを感じてしまう現代にあって、あやういがすぐそばに存在する「感動」を見つけ出し「それでも世界は黄金色」と私たちに語りかけてくる。そんな齋藤の写真は、アートの世界を飛び出し時空も超え、世界と生命の根源に向けたまなざしでで私たちを強く引き付ける。写真集に「感動」、「宝箱」、「春と修羅」がある。
坂口恭平(さかぐちきょうへい)
1978 年、熊本生まれ。2001年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家・作家・絵描き・踊り手・歌い手。 2011年5 月、新政府を樹立し、初代内閣総理大臣に就任。写真集に『0 円ハウス』。作品集に『思考都市』。著書に『TOKYO 0 円ハウス 0円生活』、『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』、『独立国家のつくりかた』、『幻年時代』、『家族の哲学』など多数。バンクーバー、ベルリンなどで個展を開催。国内ではワタリウム美術館「坂口恭平 新政府展」(2012年11月~2013年2月)。CD「Practice For A Revolution 」、「あたらしい花」。