
【中編】小泉今日子、想いと素材を循環させる、大きな挑戦
山も猫も地球も喜ぶ猫砂ができるまで
キョンキョンこと小泉今日子さんのツアー「KYOKO KOIZUMI TOUR 2024 BALLAD CLASSICS」で、近い未来の地球と社会を維持するためのスタンダードになるべき取り組みについて、全3回の中編。
今回は「TOUR 2024 “BALLAD CLASSICS” 」コラボ限定猫砂パッケージ の製作背景についてさらに細部まで、追いかけます。
今回私たちは、猫砂の原料となる国産木材を提供してくれたくりこま高原からさらに北上、岩手県は一関市にある、オールメイドインジャパンの縫製を実践する株式会社和興さんの自社工場を訪問しました。
1929年に東京は墨田区で初代がミシン一台から創業、約60年前に工場を一関に設立、お話を伺った代表取締役の國分博史さんは8年前に事業を受け継ぎました。
その和興さんにお願いしたのは、猫砂を入れるポーチの制作。日本社会にまだ実例そのものがない、隅々まで可能な限りこだわり抜いた商品ができた背景をお伝えします。
和興・國分さんの「電力会社や音楽業界の方々が、わざわざ岩手県の縫製工場まで視察に来られるというのはすごいこと。昔ならありえなかった。だから、そこだけで考えても状況は大きく変わっているんです。私たちはイリオモテヤマネコの立ち位置を狙っている」と、熱っぽく語ってくださった姿が印象的でした。
この、普通に聞くとちょっとしたウィットにも聞こえる”イリオモテヤマネコ”という言葉の裏側には、日本でそもそも低いとされている食糧自給率の38%に対して、衣料の自給率は1.5%という衝撃的な数字があります。また、従業員が10名以上のアパレル企業は国内に約5,000社あり、それが近年毎年1割ずつ廃業しているという状況。それらを聞きながら、一瞬ウィットと思ったものを”切実さ”と捉え直しました。
大きな世界的傾向としてあるのは消費の二極化、中間層ブランドの不調です。かたやエルメスやLVMHなど、「ラグジュアリーブランドほど、自分たちの足元で製品つくっている」事例がある。社会や業界の動向を様々な視点から検証してきて、ご本人が「勘違いかもしれないが、できると思っている」と表現されることは、話を伺うほど勘違いでなく、確かな信憑性ある言葉として聞こえてきました。
和興さんのお言葉で、今回の取り組みについて「廃材に新たな命を。アップサイクルでサステナブルな未来を」と表現されています。”アップサイクル”とは、不要になった素材や廃材を捨てずに再活用し、新たな価値を生み出す取り組み。限りある資源を大切にし、廃棄物を減らすことで環境負荷を軽減する、持続可能なものづくりの代表的な手法のひとつです。
今回まさに和興さんは廃材生地を活用し、【小泉今日子「TOUR 2024 “BALLAD CLASSICS”」コラボ限定猫砂パッケージ】を入れるためのエコなポーチを企画・開発くださいました。それはただ素敵なデザインの商品というわけではなく、廃棄されるはずだった生地を機能的かつおしゃれなアイテムに生まれ変わらせる。そうして環境保全に貢献し、資源を有効活用する「サステナブルな選択肢」の提案でもありました。
同ポーチには、ただ猫砂の入れ物としてだけでなく、使用後例えば女性なら日常の小物やメイク道具入れとしても使えるよう、意匠が施されています。その根幹には「ひとつのアイテムを長く愛用することが、エコな暮らしに繋がる」というメッセージも潜んでいます。
和興さんは「生地を簡単に捨てず、新たな価値を生み出す」という想いを込め、岩手の工場でポーチを製作してくれました。猫砂が届いた先で、「廃材を活かしながら環境配慮された製品を手にし、日常の中でできる小さくても環境に配慮された選択が、未来の地球や環境を守る一歩になる」ことを体感してもらう願いまでも届けば幸いです。
通常の和興さんの業態は、一般的にOEM(オーイーエム)と呼ばれるもの。アパレルの世界では、今まで長いこと慣例として「OEM=つくり手は表に出てこないように」という不文律があったと言います。その理由としては様々なことが考察できますが、國分さんは「私たちはこれまで、あまりに黙ってものづくりを続けてきてしまった。もう、いいものを淡々とつくっていれば売れる時代じゃない」と続けます。
実際に皆さんが作業されている現場を見せていただき、ニュースやドキュメンタリーで見たことのあるイメージに近い縫製工場の作業フローと、少しばかり「あれ?」という点があったので聞いてみました。
それは「多能工」という、和興さんが特に力を入れている現場における指針でした。つまり一人一人がラインの中で一つのことだけをずっと担当するのではなく、なるべく一人で多くの作業をできるようにする。それぞれにボタンつけだけ、プレスだけ、袖の部分を縫うだけという作業でなく、一人でいくつもの工程を必要に応じて担当できるようにする。そうすることでライン製造ではできない凝った縫製や、大ロット受注する海外の工場では対応できない、付加価値の高い製品がつくれるようになると言います。
この方針によって働き手としても、多様な作業とものづくりの手応えをよりビビッドに感じることができるのではないでしょうか。また、手に複数の技がつくことで、結果的に個々人の就職先や働き方に選択肢を与える取り組みにもなる。それはもちろん、雇用主としては新たな悩みの種になるかもしれません。でもそうなれば働き手と雇い手がより対等に、健全な関係性の中であらゆる側面での事業向上を目指して一緒に切磋琢磨できる、素敵なスキームに見えました。
栗駒再訪、猫砂ができる瞬間を目撃
アパレルの生産現場が抱える課題と、そこに果敢に立ち向かっていく國分さんの話を伺って「メイドインジャパンこそのポテンシャル」を感じながら、私たちは一関から少しだけ南下、猫砂をつくってくださる株式会社KURIMOKU・千葉さんを再訪しました。今回の目的は、ツアーを終え、実際に小泉今日子さんが円形ステージで使用した木材がペレットになる現場を見せていただくことでした。

そもそも国内で植林から伐採、搬出、原木輸送、製材、加工、製品輸送までの全てを一貫して手がける会社が、KURIMOKU以外にないと言います。そのKURIMOKUさんとだからこそ可能になった、今回の試み。
森林の整備をしながら丁寧に育てられた杉の木は、伐採された後の高温乾燥も必要ではありません。高温乾燥だと失われてしまう木の油分を白アリは嫌うため、山の循環を考え、木が育つ年数以上保つことを念頭に建てられた家には、むしろ必要。そして、建てられた「家」に姿を変えてからも自然乾燥が進む木材は、たまに「パチン!パチン!」と音を出しながら強度を増していくといいます。
その木材は今回塗料を塗られ、小泉さんが歌う円形ステージとして生まれ変わり、ツアー終了とともに塗料は剥がされ、粉砕されました。そうしてできた木くずが改めて固められ、今までならペレットとしてしか用途がなかったものが、猫砂として皆さんの手元に届けられるのです。
今回千葉さんからのお話で心に残ったのは、日本の山で50年間育った、きちんと手入れされ欠点のない建築用材がとれる丸太の価格。UPDATERでは年2回、社として森林整備に入らせていただくようになりました。その経験から、ほんの氷山の一角でも体感としてわかるようになってきましたが、あれだけの作業を日々こなし、丸太一本はなんと1,800円とのこと。まず驚き、漠然と「何かが根本的に間違っている」と思いながら、今回実現した、できるだけ環境負荷をかけないキョンキョンのツアー、そしてポーチまで含めた猫砂の実現に、どれだけの労力やアイディア、想いが詰め込まれているかを考えました。
ステージで使われた木材には、小泉さんのヒールの足跡がくっきりと残っていました。全会場満員御礼の全国ツアーを共にした、国産の木材。それをまじまじと見ながら、まずは表面の塗料を削り、それと共にヒール跡も見えなくなり、いくつもの機械を通りながらだんだんと粉砕され、最後にはペレット/猫砂のかたちになって出てくるところまでを見守りました。
不思議だったのは、粉砕された木材がどのようにそのかたちを保てるのか。よほどオーガニックな接着剤でもあるのかと聞くと、それは木に含まれる成分・リグニンと糖類が熱で染み出し、天然の接着剤の役割を果たすとのこと。視界には積もった雪が見える寒い東北、岩手から県をまたいで宮城県は栗駒の山中で、最後に吐き出し口から出てきた猫砂はホカホカに暖かかった。その熱を今も手が、覚えています。
これまで木材は、丸太から建築用材をとった残り5割以上は製品として販売できなかったと言います。まずはそれをペレットや猫砂として有効活用できる。天然の猫砂は猫にも飼い主にもハッピーで、臭いのストレスから解放される。さらには使用後、家の庭やベランダのプランターに撒けば、それは天然の肥料にもなる。そうすることで炭素の固定にも貢献でき、個人が家庭でできる気候変動対策にもなる。
私たちの社会は、課題まみれなのかもしれません。でも、それぞれに想いを抱える”多能工”な人材や会社が集まれば、かつてない未来をつくり出す、素敵な循環を生み出せるのだと確信できた視察ツアーでありました。

後編へつづく。
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小泉今日子コラボレーション商品 “ツアー限定猫砂パッケージ” の詳細はコチラ
協力:株式会社KURIMOKU、株式会社和興、ビクターエンタテインメント株式会社、株式会社ソーゴー東京、株式会社明後日
ステージ/LIVE撮影:田中聖太郎
