【最終回】中島恵理|日本のエネルギー、行政の現場から
読みもの|5.7 Tue

長野県庁1_長野県

  「自分が環境に優しい生活をしていないのに、環境行政で環境政策をつくっているということに矛盾を感じていた」からといって、自ら自給自足の生活を実践し、しかもエネルギー自給率が300%達成ともなれば、その言葉に耳を傾けざるをえない。これは経産省、環境省といった日本のエネルギー行政最前線に身を置き、その後長野県副知事として、数多のエネルギーに関する先端事例に携わってきた、中島恵理さんのお言葉だ。
 本年4月からは環境省に戻り、省をあげての「地域循環共生圏」創生が任務となる元副知事。「都会からもらうのではなく、むしろ地方から発信し、そこに農村地域の主体性がある」と語るその言葉には、現行の社会や法律にどんな不備があろうとも前に進み、道を切り拓く力が溢れていた。
ーやはり、再エネの取り組みは県民の豊かな生活に寄与するものだという実感もおありですか?
中島 現在、長野県でできた電力を選んでくださる、応援してくださる方々には、銀座にある長野県アンテナショップの商品券をプレゼントというところまではきています。そういう意味では、「県産品を買っていただいている」というところには繋がりますが、まだその生産者がそこに直接行って交流という段階まではいっていません。
 ですからまだ、県民の立場としての手応えというのは見えづらいかもしれません。

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中島さんのジャケットに向かって左には、世界的にも人気というSDGsのバッジ、右には6/15、16に軽井沢で開催されるG20関係閣僚会議のバッジ

ー副知事は、本日もSDGsと、軽井沢のG20関係閣僚会合のバッジを胸につけてらっしゃいます。世界の趨勢をご存知だけに、日本のエネルギー政策を残念に感じることもありますか?
中島 ドイツなどと比べるとそう思うこともありますが、逆に少し制約があるからこそ、面白い事業が始まったりということもあります。
 例えば長野県の飯田市は市民出資の事業については先進地で、太陽光の市民出資事業も最初に始めています。風力になると、市民出資の事業はドイツなどではやっていましたが、屋根貸しや相乗りくんも含め、それなりに面白い事業モデルはできてきています。
 市民出資がはじまった理由もRPS法の時代で、確かにRPSからFITになるまでに他国から若干遅れてしまったかなとは思います。でも、いろいろな仕組みの中で新しい取り組みもはじまってきたので、「多様なビジネスモデルを育てる」という意味では決して悪くはなかったと思います。
 いずれの国でもそれぞれ苦労はされていて、イギリスも最初はRPSを入れてFITに変えていったりとか、ドイツもFITでかなり進んだけれども、同時に電気代金が上がったり、その国ならではの様々な課題をどこも乗り越えながらやっています。
 ですから、ヨーロッパが一概に問題なく進んでいるとも言えないんです。

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ーとはいえ日本の実情は、結果として電力自由化から3年もの月日が経とうとしているのに、市民の1割強しか電気を切り替えていないということです。その点、何が有効と考えますか?
中島 その点に関しては、電気を買うだけじゃなく、市民出資と組み合わせるやり方もあるかもしれません。
 ドイツの関心が高まっているのは、一つには昔からの地球環境の変化が顕著になってきているということと、そこに対する危機感があります。実際に気候変動が起きているから、みんなで「何とかしよう」というモチベーションが大きいのです。
 それから、市民出資にかなり多くの人が関わっていて、実際に地域市民電力的な「シュタットベルケ」がかなり普及しています。そのことで、市民出資にも一般の方が関わっていて、それなりに発電のリターンをもらっていたり、再エネにまつわる経済的なメリットを受けている人がすごく多いということがあります。つまり出資者であるから、買う側にも関心を持つという構造があります。
 加えてシュタットベルケは、電気の収益を使って公共交通機関ですとか、地域の資産やサービスに還元するということをしています。ですから市民は、もし自分が再エネに若干高い金額を払っていても、それが他のサービスとして返ってきていることを知っています。そこにある違いが何かと考えると、再エネへの投資が自分たちのメリットとして、見えやすいかどうかなのかもしれません。
 ですから日本としては、もうちょっと個人が市民出資に参加しやすくするということもあるし、例えばみんな電力さんのお客さまへの還元メニューも、もうちょっとお客さまにとって見えやすいものを用意するとか、まだまだいろいろなことが考えられるかと思います。
 うまくいろいろなことを連携させて、お客さまが発電所や電力会社を応援してくれることへの還元の仕方を、皆さんがそれなら「いいね!」と言ってくださるような、それがモノなのか交流なのか、どんなものがいいのかは、まだまだ模索の余地はあるはずです。そういったところでこそ、県とも協働させていただくといいかなと思います。
ー副知事の経験に基づく感触では、長野県だけでなく、国全体でも再エネの普及に向けた頼もしい、可能性ある取り組みは増えている?

企業局の電力販売スキーム 長野県

お金の流れを、大都市が地方から吸い上げるのではなく、逆に大都市から地方に流れ込むように。スキーム図には、「みんな電力」の名前も

中島 一番そこで言いたいのは、「地域主導型」ということです。
 メガソーラーというと、ほとんどは県外資本の方が来られて、それはFITの価格が高かったことに起因するんですが、こちらは再エネ資源や土地を提供する側で、利益は都会に行くと。そして都会では、その森林を伐採してつくったメガソーラーが「環境に優しい」と言われると。でも、地元の人たちは一連のことに対して複雑な想いでいるわけです。
 そういった点には心配をしていて、長野県として進めたいのは、地域の皆さんがその地域と調和して喜んでいる電気を都会に売るという構図になればいいんですが、必ずしも今進んでいるものすべてがハッピーな再エネではないんです。
 地域に利益を還元し、喜ばれる電気を他県にも提供するというかたちに、是非していきたいと思います。
ー副知事がすでに実現されている「自立した生活」は、いかがですか?
中島 それは楽しいものです。是非皆さんも長野に住んでいただけたらと思います。自給自足も「環境に優しい」ということだけではなく、自分自身が楽しいし、都会から田舎に来て農業をすると「生きた心地がする」というか、人間らしいというか、元気になります。
 私もこちらに住みだして初めて知ったことですが、週末を富士見町で過ごした方が東京にいるよりもずっと元気でいられます。それは「自然に近いところにいる」ということなのか、まず野菜がすごく美味しいですし、家も本当に暖かい。
 断熱をしっかりして、日光もしっかり入るので、真冬日でも16時くらいまでは何もつける必要がありません。薪ストーブは蓄熱型で朝まで暖かく、薪のエネルギーには、石油とは違う良さがあることを感じます。それは、木が燃えているのを見てホッとするということもありますし、ストーブはペチカで、普通のモノとは違って煉瓦で蓄熱をさせています。
 それから薪風呂も本当に良くて、不便だけれども、あえてそうしています。普通のお風呂はだんだん冷めていくのが、薪風呂にはそれとも違う効果があります。お湯も、感覚的なことかもしれませんがまろやかで、食事では薪とIHと電子レンジを3つ使っているんですが、IHと電子レンジはすぐ冷めちゃうんですが、薪ストーブでゆっくりつくったものは、本当に芯から温まるんです。
 ですので、環境という以上に豊かな生活が楽しめます。みんな電力の皆さんも是非、2軒目の家を長野県に買っていただいて(笑)。
ー実際、東京から結構近くて驚きました。

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中島 そうなんです。東京からも普通に通えますので、ぜひ環境に優しい、豊かな生活をされながらビジネスをされると、それもまたよい効果があるかなと思います(笑)。

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取材日は終日雨だったため、ここまで掲載した県庁の写真はお借りしたものです

 

最後にはみんな電力も、長野県での豊かな暮らしを勧められたとても豊かなインタビュー、いかがだったでしょうか。
ともすれば「問題ばかり」と下を向きがちな日本の状況も、現場では市民の力で着実に前進していることが確認できました。
次回公開の記事も、お楽しみに!

 

(取材:平井有太)
2019.3.4 mon.
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