【前編】”リファイニング建築”ってなに!?真にサステナブルな建築方式をタドる!
読みもの|3.14 Mon

「リファイニング建築」という言葉を聞いたことがあるだろうか。そのまま捉えて、「Re=再生」して「Fine=素晴らしく」する建築と理解すると、とりあえず素敵な響きではある。しかしどうやらそこには、もっと深い意味や背景がありそうだ。

 TADORiはリファイニング建築の源流を辿ろうと、広尾の閑静な住宅街にある、リファイニング建築の考案者/建築家・青木茂氏を訪ねた。先生は、昨今のSDGsの世界的な潮流を感じてか、70歳超とは思えない活力と揺るがぬ信念、確固たる自信が伝わってくるお話をしてくださった。

 本記事は、今もあなたが住んでいる、老築化の目立ってきた建物がもしかしたら美しく生まれ変わるきっかけになるかもしれない。しかもより環境負荷を軽減し、コストも削減しながら、まさにSDGsの観点が建築と融合した時の一つの理想形として、読んでもらえたら幸いだ。

ー「リファイニング建築」という言葉は、そもそもどのように考えられたんですか?

施工前外観

施工後外観

青木 意味としては、「再生する」とか「生まれ変わらせる」ですね。また「リファイン建築」というのは、松下電工さんが商標登録していたんです。それで伺ったら、「使ってもいいよ」ということで。

 最終的に「どういう名前にしようか」という時に、もうお亡くなりになった、鈴木博之さんという東大の歴史の先生が僕のことを見つけてくれたんです。「京都議定書に合致する」と高く評価してくれて、その頃から少しは名前が売れるようになりました。

 松下電工さんは一度OKをくれたんですが、その後勉強会なんかで使用する機会が増えたようで「使用不可になりました」と言ってきたんです。当時私は都立大で教授をやってましたから「大学に迷惑をかけたらいけない」と思って、それで”ing”をつけた「リファイニング」としたんです。商標登録もとって、だからこれはある種の造語です。

ーもともと建築界にない言葉だったんですね。

施工前 内部

青木 マンション一室をリフォーム、リノベーションすることに法的根拠はいりません。法律的に「勝手にやって」という範疇なので、それこそ建築士じゃなくても、主婦でも誰でも免許ナシでできます。あともう一点は、耐震補強がないんです。一部屋つくりかえるだけでは、そこはできない。

 僕がやっているリファイニング建築は、それらすべてやっているということです。だって大企業は法的根拠や耐震性がないと、タッグを組めませんよね。

ー欧米と日本の違いは、地震の有る無しです。建物の劣化スピードや基準の厳しさは、どの国でもありますか?日本の特性にあった工法を考えておかないといけません。

青木 地震のある国、台湾とかニュージーランド、イタリアなんかでは、僕の方法が最も有効だと思います。

ー「リファイニング」において建物の外観は、実施前と後でかなり変わりますか?

施工後 内部

青木 例えば歴史的な建造物なら、外観は残します。そうじゃない場合、昔の建築のデザイン的に「僕がやった方がいいね」というのがある時は手を加えて、建物の個性を活かしながらやります。でも、インテリアは要望を聞きながら最新のものにします。

ー脱炭素やSDGsにマッチするというのも、当初からの狙いだったんでしょうか。

青木 それはまったく狙ってない(笑)。

 18年前、僕が大学の教員になる前のことです。東大と理科大、都立大の3校がいきなり「CO2の調査をしたい」と言ってきました。同じ規模の建物を、スクラップアンドビルドした時と僕がやってるリファイニング建築の手法で比べると、どれだけCO2の排出が減るかという研究でした。

 躯体を残すのと使い切る違いは、例えばコンクリートは石灰岩から石灰を持ってきて、炉で燃やしてセメントにするわけです。鉄筋はブラジルなどの鉱石を掘って、船で運んで、製鉄所が鉄筋にします。そういうことで出るCO2を全部カウントして、「83%減」という数字はその時に出てきました。

 これは学会の論文で発表して、当時はまったく誰の評価もなくて。「あ、そう」みたいな感じでした(笑)。

 現在は三井不動産さんと今手掛けている物件で、改めて「CO2の測定をおこなって欲しい」という申し入れをいただきました。それでもう一度測ってみて、今度は冷暖房とか、設置する装備までを全部カウントして「74%減」でした。ですので、これはとても環境的な手法であることを、やっと皆さんにわかっていただけました。

 たぶん三井(不動産)さんも、菅首相がカーボンニュートラルということを言ったので、そこで思いついたんだと思います。「躯体を残す」ことでどれだけCO2排出を抑えられるか、改めて明らかになりました。

ーやっと時代が追いついてこられた。

青木 そうですね(笑)。

ー現在リファイニング建築は、何件くらいありますか?

青木 今完成しているので、97件。工事中のものが6件あるので、もうすぐ100件を超えます。これからも希望者があれば、何でもやろうと思っています。

ー建物のオーナーさんや入居者からの反応はいかがですか?

青木 ほぼ完璧です。躯体を残すことは、コストにも大きく反映されます。工期も、壊してつくると3年かかるところが、このやり方は1年で終わります。

ーこの手法が広まってしまうと、それは壊して建てたい大きな企業の利益に反するので、逆風も生まれないのでしょうか?

青木 頭の片隅にはあるでしょうね。ただ、まだまだ、年間にせいぜい5、6棟でしょう?それじゃあ、日本の着工件数の万分の一です。ヨーロッパだと、全体の7~8割が再生物件と言っています。逆に、壊せないんです。

 そこには建築の歴史みたいな背景があって、木造建築は腐ってしまいます。それがやっぱり日本人のDNAに組み込まれていて、だから「再生する」ということにも抵抗があるんじゃないかと思っています。

 あとはつくり方の問題で、ヨーロッパの建築というのは3代で暮らすようなイメージで、その蓄積が建築に反映されている。僕も大分の出身ですが、日本の昔の建築も大きな柱を使って、3代暮らせる家が建てられていました。その感覚があれば、もっと違うんじゃないかと思います。

 例えば法隆寺とか、奈良のお寺みたいのは1000年単位で保ってますよね。つまり、コストがかかっています。そしてコンクリートの建物というのは、昔は「地震で極端に倒れる」ということがあったんですが、神戸の前、新潟で起きた地震をきっかけに法改正がありました。それを調べると、検証した上で「これくらいだったらいい」、つまり、安心できる強度の証左が残されているんです。

 だからその、昭和58年に改正された法規通りにやれば、7強くらいまでの地震には耐えられることになります。でも、それがなかなか浸透していません。だから僕は、工事の現場を公開しているんです。

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記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など