【第2回】rimOnO(リモノ)|日本だからこその電気自動車
読みもの|6.9 Fri

  「乗り物」からあらゆる「NO(ノー)」をとった、私たちに優しい車「rimOnO (リモノ)」。第一回の伊藤さんのお話から、それは車のかたちをしながら、日本の未来こそにフィットする社会を提示していることがわかってきた。
 そして、パルコのクラウドファンディングを通じて集めようとしている大きな金額は、一見無謀なようでいて、実は資金よりも仲間集めを目的としている、プロジェクトそのものの暖かな姿勢も見えてきた。
 経産省から世界の趨勢も見てきて、実際に動いてもきた伊藤氏が、退職してまで賭けようと思った、rimOnOに見出している可能性とは。
 全3回の第2回、お届けします。

 

rimono

ー仰ってることは、とても真っ当に聞こえます。同時に日本の実情は、今もむしろその発想と逆方向に進んでいるように見えるのも事実です。伊藤さんの仰っていることは、官庁の中で共有できていましたか?
伊藤 いろんな反発がありました。私がこういう構想を出したのは2008、9年頃で、東日本大震災による原発事故や計画停電が起きる前でした。それまでの常識は、遠隔地に巨大な発電所を設け、大消費地である東京とか大阪には大容量の太い電線で電力を送って需要側と供給側の調整は巨大システムで行うという考え方でしたので、地産地消とは逆の発想でした。
 しかも、システムそのものが非常にスマートなので、当時の経産省の次官は「日本の電力システムはすでにスマートグリッドだ」と言ったうえで、「海外で行われようとしているスマートグリッドは日本みたいなスマートじゃないシステムでやっている国のことだ」という内容を会見で発言して、結果的にウィキペディアに載ってしまうという事件がありました。その次官は既に退官しているので、言っちゃいますけど(笑)。

rimono

 それに対して、私はそうではないと思っていました。「日本でもスマートグリッドが必要だ」と。現に東日本大震災が起きて、関東地域も計画停電によって「止まらない」と言われていた電気が止まり、そのことが原因で動くはずの電車が動かないということが起きました。遠隔地のエネルギー源だけに頼って生活することのリスクに多くの人が気付いたわけです。
ー実際に体験してしまった。
伊藤 それがきっかけで、「遠くから電気を運べばいい」と思っていた電力会社の人たちの中にも「このシステムのままじゃマズイかな」と思う人たちも出てきてかなり意識は変わりはじめたと思います。とはいえ、一気にバーンとは変わらない、一歩進んでみたかと思えばまた元に戻るという繰り返しになってはいます。
ーもう一つ浮かぶキーワードは「自立」です。やられていることは大きな組織や政府、中央に依存しない、地域や個人が自立することの大切さを促進されている取り組みに感じます。
伊藤 私もその発想には大いに賛同します。スマートグリッドの国家プロジェクトをやっていて一番がっかりしたことは、電気自動車とか自立型エネルギーシステムをつくる上での重要技術を持ってる大手メーカーが、そのイノベーションを起こすために「本気でやろうとはしない」ということなんです。
 彼らは、既存のエネルギーシステムの中でビジネスをしています。たとえ自社の中にイノベーティブな技術があろうと、既存のビジネスに悪影響が出る可能性があれば、その技術を「新しいもののために使おう」という発想にはなかなかならない。技術的なシーズがあるにも関わらず、仕組みまたはビジネスとして世にイノベーションを起こそうという人たちが生まれないのであれば、多額の税金を投入して実証実験だけをやったところでその結果として何も生まれないのではないかと思うようになりました。イノベーションを起こすための取り組みを誰も本気でやらないのであれば、自分自身がベンチャー企業として「1からつくり上げるしかない」と思い、経産省を辞めてトライすることにしたんです。

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 経産官僚として肩書も予算も人もいる状態から、ベンチャー企業という何もない状態になったことで苦労することはたくさんあります。でも、そこまで振り切ったからこそ新たに出会う素晴らしい仲間もいるし、その人たちのおかげでこれまでできなかったことができていくということもあります。そういう経験自体が面白いし、同時に新たに苦労する部分も出てくるということですね。
ーパルコさんとのコラボレーションはリアルとネットの連動が肝とのお話でしたが、リアルの反応はいかがですか?
伊藤 そうですね。やはりリアルな場所で展示できることによるワクワク感というのはありますね。男女の出会いみたいに、突然にある瞬間に出会いが出来て物事が進んでいくということがあります。先日、ひばりヶ丘PARCOさんで展示させていただいていた期間に、ちょうどNHKでrimOnOを取り上げて頂いた放送があって、その番組の中で大手鉄鋼メーカーさんの話も取り上げられていたんです。その放送の翌日、ひばりヶ丘PARCOで説明員をしていたら、その大手鉄鋼メーカーの方が「昨日テレビ観て、興味あったので来ました」ということでお越しいただきました。
 そういう偶然の出会いが具体的な結果に繋がっていくということがたくさんあります。パルコの鳥当部長やと近江さんとの関係も、最初にお会いした時にはまさかここまでの関係になるとは思っていませんでした。知り合いからのご紹介で、最初は「パルコさんってクラウドファンディングをやっていらしたんですね」と初めてパルコさんのBOOSTERというサービスを知るところからスタートして、その後、何度かお話しする中でお二人の熱い想いを伺った結果、「一緒にやりましょう」というお話になりました。

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 パルコさんとの出会いのように、偶然だとしても「新しいことにチャレンジしたい」と想う熱量がどれくらい強いかどうかで一緒にやれるかどうかが決まるみたいなことがあるんです。逆にその会社が技術やノウハウやエンジニアなどいろいろと材料を持っていたとしても、チャレンジしようという熱量がなければ結局何も起きないんです。
ー本気かどうかが大事であると。
伊藤 そうなんです。経産省ではこちらが本気でプロジェクトや方向性を提案しても、やる人が必ずしも本気ではなかったという残念な結果を散々目の当たりにしてきました。貴重な血税を使うにもかかわらず、対外的に説明ができる程度の面白いコンセプトにした上でプロジェクトを実施し、なんとなくやった感だけは醸し出すというゲームをやり続けることになるのであれば、「税金をお支払いいただいた国民に対して申し訳ないし、自分の時間ももったいない」と思ったんです。
 役人を辞めて実際にやる側に立ってみると、「熱量のネットワークが繋がっていく」という経験が本当に面白いと思います。今回のクラウドファンディングの目標金額についてはもちろん「達成したい」という気持ちは持っていますが、それ以外のメリットや出会いもあると思っていて、その両面を睨みながらやっている部分もあるんですね。
ー改めて「リモノ」の意味をお聞かせ願えますか?
伊藤 「乗り物」から「NO(ノー)」をなくして、リモノです。
ーその「NO(ノー)」とは?
伊藤 「乗り物に含まれている様々なネガティブなものをなくしていきたい」という意味です。車があることで便利になったことはたくさんありますが、一方で、車が生活道路に普通に入ってくるようになって、我々の生活空間が車に侵食されたという面もあります。私は40歳過ぎですが、自分が子どもの頃は道路が遊び場だったんです。チョークでアスファルトの地面にいろいろと描いて遊んだり、そこにポン菓子屋さんやお豆腐屋さんなどの行商人が来たりと、道路はもっと地域の住民の生活に近い場所でした。しかし、モータリゼーションの進展に伴ってそういう住民のための機能が徐々に車に奪われていったという経緯があります。車が縦横無尽に走れるということは運転する側には便利なことですが、地域のコミュニケーションや子どもの遊びという観点では、どんどん失われていったわけです。
 rimOnOとしては、車そのものが小さく柔らかく危害性が低いものになることで「もう一度古き良き生活道路の機能を取り戻せないか」という想いがあるんです。

rimono

ーリモノが下町の路地から出てきた時、「危ない!」とは思わない(笑)。
伊藤 そうなんです!
 そういうことが「人にやさしい街を実現したい」というコンセプトでもあるんです。今はやりのITとかAIとかももちろん大事なんですけど、結局人間は五感を持った動物なので、柔らかいとか優しいとか温かいとか、そういうアナログ的な感覚がものすごく大事だと思っています。そういうアナログ的な良さを前面に出しながら、その裏側でスマートな技術も使われているという世の中にしていきたいと思っています。例えば、木材がふんだんに使われているにもかかわらず、火災や地震に強く、効率的にエネルギーを消費する住宅のようなものです。そういうことを我々は「乗り物」の世界からチャレンジしているんです。

 

(取材:平井有太)
2017.05.23 tue.

 

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