【第2回】保坂展人|環境都市をつくる世田谷区長
高遠さくら発電所がある場所はその名のとおり、山奥にある桜の名所でもある
2011年の東北の大震災、それに続く福島の原発事故を体験した市民の中には、実は再生可能エネルギーを望む声が多いことに気づいた区長は、どのように考えを広め、仲間を増やし、また、それらを実現させてきたのか。
長野県と世田谷区の連携は、他に類を見ないサイズの、かつ前例のない事例。
しかも扱うのは目に見えず、匂いもないエネルギーであり、さらには日本では誰も体験がない「電力の自由化」を周知させるための知恵と実践が詰まったお話です。
これは僕の考えでもあるんですが、「エネルギーシフト」という時に重要なのは、具体的な電力、電源については需要と供給も含めて「一本に繋げていかなければいけない」ということがあります。それは全体として一つの事業であって、これまでいろいろな分野・産業の人たちが「新電力研究会」みたいなものに来て、非常に熱を帯びていた時期もありました。そういった「力」が相当に注ぎ込まれないと、「電力の在り方は変わっていかないだろう」ということを考えていました。
何よりも基本の姿勢として、「どんな方からも、どんな事業の話も聞きます」というスタンスは変えていません。今も、電力事業のプレゼン資料は多数ありますし、あまねく内容をお示ししながら、企業提案にはいろいろな事業者に手を上げてもらっています。
電力は昨年の4月に自由化されて、全体として東京ガスや石油会社などが一斉に参入したわけです。しかしその中で、具体的に「再エネ由来」を打ち出して事業化することができている会社は、まだ決して多くはありません。
世田谷区は自治体として、今も「再生可能エネルギーの比率をあげていこう」という目標を、25%という数字で掲げています。ですから、長野県との連携において具体的にそのツール、システムを提案して実行できたというところは、実は驚いている面もありますよね。お互いに使用ヘルツも違ったり、いくつか関門もあったわけですから。
ただ日本の社会って、実例がないと変わらないんです。だからPPSも世田谷区で一応やって、あの時は区内でさえ「これって合法なんですか?」、「停電はないんですか?」という心配の声がありました。でもそれだって最終的に、経済産業省から怒られるどころか、反対に感謝されるわけで。
そういうことはやっぱり、やってみないとわかりません。
長野県との連携はPPSの時と比べるとそこまでではないかもしれないけれど、とはいえ多少なりとも報道されて、「それなりのインパクトがあるかな」と思っています。区の大口契約でのPPSの導入はその2012年以降一気にシェアを伸ばしていきました。導入した競争入札も発想はどちらかといえば、「『消費者代表の自治体宣言』みたいなものですよ」と。そうして、それが「可能なんだ」、しかも「売れるよ」ということをわかってもらえました。
つまり、長野県と世田谷区を繋いだ今回の事例からわかることは、発電をする側にしてみたら、実際に「思ったより高い値段で売却できる」ということなんです。しかも電気を需給される側も「再エネだから、高くなるんだろう」と思っていたら、むしろ「え、安くなったの?」という。
そこが非常に、画期的なわけです。
ただ、「しつこくやること」は大事じゃないですか?
世田谷区には「せたがやふるさと区民まつり」で、全国から10を超える自治体の首長が集まります。毎回交流会で意見交換をした後で、最近は呑み会までやってるけど、そこでも電力に関する区からの発表を通じて、他の自治体の人は驚くわけです。
群馬県利根郡川場村の森林(もり)の発電所は、地元の森林組合から供給される木質チップを使用。地域の山の間伐もバランスよくすすみ、CO2排出量の抑止と合わせ、一石二鳥の取り組み
そういう勉強会を、もうしつこく6年間も続けてきています。しかも「年に一回じゃ足りない」ということで、今度また8月に自治体間での自然エネルギー、実務レベルでのネットワーク会議をやります。
さらには勉強に環境省や経済産業省も来たりする。つまりこの世田谷区の動きというものが、一自治体の動きというよりも、新たな時代にふさわしいように「システム変更をクリアしているよ」というモデルケースになっています。しかも、その技術的、実務的な事業内容を提供できるということで、貢献は大きいと思うんですね。
次回へ続く