【第3回】薬樹|新たな風を吹かせる薬局の「電力切り替え」
読みもの|10.14 Sat
取材は終始和やかな、時に、語るテーマによっては熱い雰囲気の中、おこなわれた
「持続可能」という共通項ともう一つ、「地産地消」という言葉が、薬樹の目指す方向とエネルギーの接点であることが見えてきた。いたずらに広げるからつながるのではなく、地域に根ざすからこそ広がり、つながっていく全国的なネットワークもあることを、小森氏は指摘する。
ただ”新”しいのではなく、現在進行形で”進”み続けているからこその姿勢と発想、そして理念。私たちの生活に根ざすべき電力の在り方までアドバイスいただいた薬樹記事全3回は、今回が最終回。
各店舗は地域に根ざしながら、その根幹にある考え方が、より広く届きますように。
—今も、店舗数を増やそうという意識はあまりない?
小森 そこは、私がいなくなると変わるかもしれませんが(笑)。神奈川と東京以外、それが埼玉や千葉あたりでも「お、出るんだ」という感覚が今もあります。
うちはほぼほぼ1都3県、店舗150のうち半分は神奈川です。残りの25%が東京、もう25%が千葉、埼玉、茨城、栃木なので、業界では神奈川の会社だと思われています(笑)。それに、その神奈川も東半分にしかありません。
—他の地域で、似た姿勢や方針で経営されている企業は増えてきているんでしょうか?
小森 いらっしゃいます。ただ、完全に二極化していると思います。だいたい、いわゆる「全国展開志向」の会社と、できるだけ1ないし2都道府県くらいから出ないようにして、地元との密着度を高めようとしている会社の2パターンです。
逆に言うと、うちの方針は皆さんにわかっていただいているので、九州や中国地方、東北や北陸の方々は、何と言いますか「手の内丸見せ」(笑)。それは本当にかなり好意的に見せていただき、逆にうちもノウハウをお示ししながら、資本の関係ではない、概念的な部分でのネットワークが広がっていっていると感じます。
—大きな資本の力だけではない、世の中捨てたものでないと思える側面も見えている。
小森 大きなナショナルチェーンさんは、やっぱり各現場での対応が難しいと思います。全国規模の大手スーパーさんなんかも頑張っていらっしゃるとは思いますが、一方で東北なんかに訪れますと、普通のスーパーに地元の蔵の醤油が何種類も揃っている。対して、それが全国規模のスーパーさんですと限られるので、「調味料はここでは買わないだろうな」というようなことが見えてきます。
たぶん、医療の世界はそれに近いような気がするんです。
—そのあたり、「顔の見える電力」を掲げるみん電とも近いお話になってきた気がします。
小森 ですから、そういったことに対して意識が高い方々と我々が、結局のところエコロジーやサステナビリティに対する何かのフックとなって「あ、こんなこともあるんだ」と気付ける、チャネルの一つになりえるのかなとは思います。またはそこまでいかなくとも、1人でも2人でもお客様にそう思っていただき、なおかつ、ご自宅の電力を実際に替えていただけたり、そのことで我々とお客様とのシンパシーも強まるんだろうなと思います。
—それは、御社の「”進”理念」というコンセプトにも、関わってくる部分でしょうか?
小森 「”進”理念」は、「人ざい」の「ざい」を「材」とするか、「罪」なのか「財」か、それと同じです。そこで「旧」と「新」というのは相対するアンチテーゼの関係性で、それではどうしても「昔のものは古く、新しいものが良い」みたいなニュアンスになってしまう。
でも、今までがあるから「今」があり、その延長線上に「未来」があるという意味で、同じ「新」理念であっても「進」という字をあえて使わせていただいています。
先ほども話した、新しい「健ナビ」というコンセプトを打ち出すタイミングで、それまでの「みんなでしっかり、薬をきちんと正確に届けよう」という理念を、今後は「『健康を届ける』のだから、ちょっと違うよね」と。けれども、そもそもの理念も我々の本家本元なんだから捨てちゃいけない。だとしたら、どう「それを踏まえた上で健康になっていただけるか?」という意味で、さらに一歩広げる「”進”理念」とさせていただきました。
岩手県葛巻町に保有する「薬樹の森」の間伐材で作成したオブジェ。森林保全啓発イベント等で展示している
—ここまでは御社の、様々なコンセプトについて伺ってきました。逆に、電力の世界に期待することはありますか?
小森 個人的に興味あるのは、川にじゃぶんと入れると回りだして、キャンプ場なんかでも発電できる装置がありますよね?
ああいったものがもっと手軽に入手できたり、それこそ自宅の水道の蛇口で少しずつでも発電したりとか、それは下水でも何でも、身近なところで発電するものが数千万個単位でプロダクトとして成立すれば、ビジネスになると思うんです。
そういったものを、例えばみん電さんがプライベート・ブランドで出されて、するとみん電さんは電力を売ってるんだけれども節電も促進し、そこで売る電力を減らしてでもそういった顧客を囲い込める(笑)。そういったことがウチが言う、「薬局だけれども出す薬を減らす」ことに近いのかな?と。
そんな様な、人々が生活をしている中で「電力をつくっている」、もしくは「消費している」ことがわかって、そういうデバイスやメーター的なものがあって、さらに一緒に「私も参加しています」的な要素があると、社会は大きく変わっていくような気がします。
照井 「太陽光パネルをつけなくても、電気をつくる人になれる」という感じですね。
小森 パネルはどうしてもイニシャルコストが大き過ぎて、あとは設置後は放っておいてもやってくれるので、設置直後に意識はしますが、その後意識から飛んでいってしまいがちです。つまり、日々の生活の中で常に意識できると、いわゆる日本人の「『もったいないの精神』を発電に」みたいな、そんなコンセプトが成立すると、とてもいい方向に行くような気がするんです。
照井 水道水や、お風呂を入れる時に電気が蓄電池に貯まっていくみたいな、そんなことができたらと思います。あと、お風呂に貯めた水を流す時も大きそうな気がして。意外と家の中って動力があるんですよね。
—みんな電力は、よく間違われるんですが、「みんなの」ではなく、「みんな」だけであることが重要だったりします。「みんなが使う何か」でなく、「みんな自身が主体」という。
小森 「主体がどこにあるか?」。主体と客体に分けるのではなくて、全員が当事者であるということですね。とても大切なことだと思います。
照井 先日、弊社の事業部マネージャーに、先ほどの電力切り替えのポスターを見せにいったら、「よかった!お知らせする手段が欲しかったんです」と言ってくれました。加えて、「電気を替えるって、看板を替えるのと同じくらいすごいことですよね」とも。
ですから社内でも、多少なり個人差はありこそすれ、そういった風に認識くれている中間管理者や現場の人間もいてくださって、替える時は意外とスムーズにいったんです。
オフィス内にある研究開発・研修のための薬樹Lab.(模擬薬局)
—それは長年かけて培われた、もともとの御社の社風、ということでしょうか。
小森 それは、本来人間は誰しもがそういう要素を持っているのかなと思います。問題は、その重要度が会社によって一切見え難くなっているか、逆に顕在化されるからこそ、そこで働く社員それぞれが意識するようになるのか。
薬樹として、そこの部分は丁寧に扱っていくべき部分かなと思っています。
(取材:平井有太)
2017.09.13 tue.