この会議では、「ご当地エネルギー(コミュニティパワー)」について、「地域の人々が意思決定し、導入・所有・運営する自然エネルギーである」と定義づけられている。
地域の人々が中心となることで、より民主的に自然エネルギーの普及を進めることが可能になり、プロジェクトを生み出す利益をより多様なかたちで地域に還元することが可能となる。そしてそれは、「100%自然エネルギー」を目指す世界的潮流と重なり、市民団体、行政、企業家、金融機関、農業生産者など、様々な人々が世界各地でご当地エネルギーの取り組みを加速させているという。
日本において、そのご当地エネルギー実現に向けて邁進する象徴的な存在である、佐藤彌右衛門氏。ご自身の経験から語っていただいた、日本における「ご当地エネルギー今」をお届けする。
——今つくられている電力は、東北電力に売っているんですか?
佐藤 そうですね。それで収益が上がってくれば、それをまた自己資金にして借り入れすると。だから、ほとんどが銀行からの借り入れです。銀行は今積極的に「売上げがブレない収益モデル」ということで、お金は出してくれるよね。消却15年でやって、20年間は国が保証してくれるわけだから、つまりは、販売管理のいらない会社という(笑)。
——ある意味、とてもカタい商売であると。
佐藤 ただ初期投資が大きいので、2、30億円かかってくる事業の場合、「単一企業にそんな大きい金額は貸せない」と。では、他の地域会社と組んで「一緒にやりましょう」という、そのフレームづくりを今やっているわけです。そしてそこに、例えば市民ファンドも絡んでくるわけです。
——出資に対する銀行の姿勢に、変化はない?
佐藤 こういう時代の金融情勢で、借り手がいないわけだから銀行だって大変です。本当は喉から手が出るほど貸したい事情もある。その時に、オレたちも勢いで50ヶ所もやってしまうと、まがりなりにも「それなりのモノ」というか。実際最初は「それは一体、いかがなものでしょう?」って言われてたんだから(笑)。
——「弥右衛門さん、本気ですか?」と。
佐藤 今は向こうももう「はい、わかりました」、「どう組みましょうか」って話だよね。それにしても、会津電力は2013年に立ち上げて、もう50ヶ所もつくったんだよ。今やっと、丸3年と3ヶ月が経つところかな。
——「思えば遠くへ来たものだ」といった感覚でしょうか?
佐藤 あっという間だったから、まだ「遠くへ来た」という感じはしないけど。それで、これから「水力だ」、「風力だ」となっていって、後は「これから高圧を国が整理する」っていうから、そこにまた少し空きが出きてくるでしょう。
——ここまで来られて、その先に明るい未来は見えてきているんでしょうか?
佐藤 明るいんじゃないの?(笑)一応原発のほとんどは停まってるわけで、これがもし全部まわされる方向になると、再エネも押し出されちゃう。でもそこには世論があり、政治があり、バランスだからね。
——ヨーロッパによく行かれています。向こうの風土は「羨ましい」と感じますか?
佐藤 そりゃあ、そうですよ。だって向こうはすでにインフラができてて、地域のエネルギーがかたちになっている。
要するに、ヨーロッパはすでに街の中にエネルギーが組み込まれていて、地域自治力、住民自治力が強い。市民の中に、「自分たちでエネルギーをやるんだ」というパワーが大いにあるでしょう。そこはやっぱり、今回の国際会議で福島の市民にはもちろん、日本全体に訴えかけたい部分だよね。
この辺はみんな、行政任せじゃない?水道も、エネルギーも、何でも全部そうじゃない?そこは国も今まで押さえつけてきた部分だから、これまでは仮に「やりたい」って思ってもやれなかった。でも自由化になったんだから、まず各家庭が発電者になれるし、誰でも今や始めることができる。そういう意味で規制緩和になったんだから、「何でやらないの?」ということだよね。
——とどのつまりは、市民一人一人の意識喚起であると。
佐藤 これだけ「地域のインフラづくりは行政がやる」という風にやってきて、それもここにきて、国にだって金がないし、従来地域は総務省の言うことをそのまま聞いていればよかったけど、そろそろ、そういうわけにもいかないでしょう?
自分たちの地の利を活かした、独自の地方自治をやっていかないとならないわけ。それは議会の置き方一つ、リーダーの選び方一つにしたって変化させていかないといけない。
もう、今までみたいに金はジャバジャバこない。
実態として生活保護状態のこの国の自治体が、今以上に金を絞られたら、いずれは「自分で稼ぎに出る」しかないわけなんだよ。
——高齢化するし、人口は減るのに、なぜか「成長、成長」言い続ける国は脇に置いて、自ら道を切り拓いていかないといけない。
佐藤 「経済」とか、「デフレ脱却」とか言ったって、これだけインフラもできてるのに、また人口増やして消費社会をもっとやって、マーケット広げていけって言ったって、国内はもう無理ですよ(笑)。
むしろ、共通のサービスとしての“環境”を一つの指針にして、そこならばまだ再生可能エネルギーの枠は何十兆円もあるわけ。だから、そこを既存の電力会社から引っぱり出せばいいんだよ。そしてそれが、地域の活性化に繋がる力になっていくのだから。
(聞き手:平井有太)
2016.11.02 wed.