【第2回】金沢で最初のお客さま・吉田酒造店
人を唸らせる日本酒をつくるためは美味しいお米と水が必須なことは、素人の私たちでも知っている。そして、だからこそ地域の環境と一体となった酒づくりが求められるのだろうというところまでは、何とか想像もできる。では吉田酒造店が、そもそも電気代の安い北陸エリアにおいて、実際に電気代が今までよりも上がるのに切り替えてくださった背景にあったのは、本当にそこだけなのか。
ENECTはもう少しだけ踏み込んで、何があったのかを伺った。
そうして、何となく日本を客観的に見ながら帰国して、東京の飲食店でも研修させていただくタイミングがありました。
そしてその後自分自身が蔵に入って、やはり「いいお酒がつくりたい」という想いで、どんどん設備投資をするわけです。冷蔵庫を増やして、そこに国からの「ものづくり補助金」もいただけて。それはすごいスピードで、でも、想いは「認められたい」「いいお酒をつくりたい」という純粋なものでした。
同時期に、自分の地元の雪が減ったことも体感して、要所要所でアウトドアの友人たちとも話しながら「これ、やっぱりちょっと違うね」「持続可能な世界に戻らないと、僕らの世代で使い切っちゃうわけにいかない」「この酒づくり、10年後、20年後に続けられるのかな?」という想いを強くしていきました。
「こんなつくり方していたらダメだよね」と話しながら、実際には「現状を見えていない人が多い」ということに、すごい危機感を感じました。この話を外でする度に、普通に話しても「なんで?冷蔵庫入れればいいじゃん」と、温度差を感じることが増えてきたんです。
そうして、何とか「そういう想いをかたちにしたい」と思うようになりました。
特に冬場、酒蔵に入るとすごくいい香りがするんです。お米を蒸した香り、お酒を仕込んでる時のものとか、それぞれに空気が違って、それが僕の遊び場でした。
そして、この自然が大好きでした。
将来は「酒づくりがしたい」という、これは誰にでもあるチャンスではありません。たまたま僕はここに生まれたことで、チャンスをもらえたわけです。ここで、「自分の作品がつくれる」ということはすごく嬉しいものと考えて、そのまますんなりポンポンポンといった感覚です。
これまで、本当に伸び伸びやらせてもらって、自然とそういうレールに乗せられていたのかもしれませんが(笑)。
味としては、透明感のある、料理にそっと寄り添うようなお酒をイメージしています。
また、フレンチやスパニッシュなど洋風の料理にもよくペアリングしていただきます。自然そのままの発酵のパワーを酒づくりにも活かしているので、最近のアジア系やスパイスが効いた料理に合うお酒もあります。
特にワイングラスで呑んでいただくと、香りも楽しみながら、美味しさが伝わるかなと思います。薄いもので呑んでいただくと、口当たりが余計わかるのではないでしょうか。
少し前は、つくられたような、すごくきれいに整形された、整えられた味わいが多くありました。それは確かに、どこでいつ呑んでも安定した味わいではあるんですが、逆にそこが薄っぺらいというか、きれいに整い過ぎていて個性を感じないくらいでした。
その部分が最近はもっと、自然の、「ありのままの姿を表現していこう」ということで、以前よりも立体感を感じられるようになったかと思います。例えば、昔で言う「骨太さ」は呑んでいて疲れてしまう感覚があったのが、今のお酒には立体感も骨太さもあるけれど、まず心地がいい。飲むことで、「エネルギーのあるものをいただいている」という感覚が伝わってきます。
つまり、自然のエネルギーのバトンパスでできた液体をいただいている感触です。
日本酒業界は自然あってこそ。ですから心から、自らのやっていることは「自然のおかげ」と思っている方々も多くいます。だからもう一度、それこそ電気についても、その使い方から気にかけるような、業界としてそういった動きは出てくるんじゃないかと思います。
吉田酒造さんのブランド「手取川」は、実際にこの辺りを流れている川でしょうか?
僕らは、酒づくりに関しては地下100メートルから水を汲み上げていますので、今のところその水温に変化はありません。白山から100年かけて流れ出てくる雪解け水で「百年水」と呼んでいますが、こういった暖かい天候が続くと50年後、100年後にどんな影響が出てくるかだってわかりません。
10年後でさえ、今すでに北極や南極の氷のことが言われていますが、どう変わってしまうのか、心配は尽きません。
あらゆる業界が後継者問題を抱えている中、当たり前にむしろそれをチャンスと捉え、老舗酒蔵を継ぐ選択をされた
吉田当主。「自然のエネルギーのバトンパスでできた液体」とは、なんと粋な表現か。次回、最終回もお楽しみに