【第2回】金沢で最初のお客さま・吉田酒造店
読みもの|8.5 Thu

タンク

  石川県は白山市/手取川扇状地で150年以上の歴史を持ち、若き7代目・吉田泰之さんが牽引する吉田酒造店がみんでんに電力を切り替えてくださった。
 人を唸らせる日本酒をつくるためは美味しいお米と水が必須なことは、素人の私たちでも知っている。そして、だからこそ地域の環境と一体となった酒づくりが求められるのだろうというところまでは、何とか想像もできる。では吉田酒造店が、そもそも電気代の安い北陸エリアにおいて、実際に電気代が今までよりも上がるのに切り替えてくださった背景にあったのは、本当にそこだけなのか。
 ENECTはもう少しだけ踏み込んで、何があったのかを伺った。
ー最初にそういった「環境負荷をかけないお酒づくり」の重要性に気がついたきっかけは、何だったんでしょうか?

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吉田 僕は、大学は東京農業大学でお酒の勉強をし、その後2年間山形の酒蔵で修行し、さらに1年間イギリスで輸出の勉強をしてきました。その時にいろいろ海外の文化を見る中で、ヨーロッパでは早い段階から再生可能エネルギー化をすすめていました。イギリスでは、新しいものを使い捨てるよりは、古いものをとても大切にする文化を体感してきました。
 そうして、何となく日本を客観的に見ながら帰国して、東京の飲食店でも研修させていただくタイミングがありました。
ー様々な現場を経験されてきた。

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吉田 東京研修中は妹の家に住まわせてもらっていたんですが、東京の100均ショップの大量生産大量消費で、すごく便利ではあるんですが、地球の資源を使い切る怖さも感じました。
 そしてその後自分自身が蔵に入って、やはり「いいお酒がつくりたい」という想いで、どんどん設備投資をするわけです。冷蔵庫を増やして、そこに国からの「ものづくり補助金」もいただけて。それはすごいスピードで、でも、想いは「認められたい」「いいお酒をつくりたい」という純粋なものでした。
 同時期に、自分の地元の雪が減ったことも体感して、要所要所でアウトドアの友人たちとも話しながら「これ、やっぱりちょっと違うね」「持続可能な世界に戻らないと、僕らの世代で使い切っちゃうわけにいかない」「この酒づくり、10年後、20年後に続けられるのかな?」という想いを強くしていきました。
 「こんなつくり方していたらダメだよね」と話しながら、実際には「現状を見えていない人が多い」ということに、すごい危機感を感じました。この話を外でする度に、普通に話しても「なんで?冷蔵庫入れればいいじゃん」と、温度差を感じることが増えてきたんです。
 そうして、何とか「そういう想いをかたちにしたい」と思うようになりました。
ー老舗酒蔵の7代目ともなると、有無を言わさず「後を継ぐ」ということになったのか、受け継ぐお気持ちは最初からおありでしたか?

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吉田 「後を継げ」と一度も言われたことはありませんでした。後を継ぐことには何の疑問もなかったんです。ずっとこの建物の上で暮らし、父親と祖父の代と3世代で生活をしてきて、子どもの時から酒蔵で遊んでもらってきました。
 特に冬場、酒蔵に入るとすごくいい香りがするんです。お米を蒸した香り、お酒を仕込んでる時のものとか、それぞれに空気が違って、それが僕の遊び場でした。
 そして、この自然が大好きでした。
 将来は「酒づくりがしたい」という、これは誰にでもあるチャンスではありません。たまたま僕はここに生まれたことで、チャンスをもらえたわけです。ここで、「自分の作品がつくれる」ということはすごく嬉しいものと考えて、そのまますんなりポンポンポンといった感覚です。
 これまで、本当に伸び伸びやらせてもらって、自然とそういうレールに乗せられていたのかもしれませんが(笑)。
ー吉田酒造さんにおける酒づくりは、特にどんなことを大事にされていますか?

かえし

吉田 僕は、「この地域を表現するお酒をつくりたい」と思っています。地域でしか獲れないお米や水を大切にしながら、地域の中で循環していく、自然と共存しながら酒づくりをする地酒本来の姿を続けていきたいと思っています。
 味としては、透明感のある、料理にそっと寄り添うようなお酒をイメージしています。
ーその時に合わせる「料理」は、金沢の地のモノなのか、洋風や、それこそ日本にも定着してきたエスニックにも合うのか、、
吉田 金沢の料理にはすごく合います。
 また、フレンチやスパニッシュなど洋風の料理にもよくペアリングしていただきます。自然そのままの発酵のパワーを酒づくりにも活かしているので、最近のアジア系やスパイスが効いた料理に合うお酒もあります。
 特にワイングラスで呑んでいただくと、香りも楽しみながら、美味しさが伝わるかなと思います。薄いもので呑んでいただくと、口当たりが余計わかるのではないでしょうか。
ー昨今、海外では日本酒ブームが大きいと思います。

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吉田 そちらのトレンドもしっかり吸収しながら、今、日本酒業界自体は、ナチュラル系の方に大きく動きつつあります。まず酒米からして、無農薬のものを使う酒蔵さんが増えてきました。酒づくりにおいても、添加物を一切使用しない製造方法が注目されています。
ーワインではナチュール系が大流行りですが、その日本酒版といったイメージでしょうか。
吉田 そしてその味わいも、変わってきています。
 少し前は、つくられたような、すごくきれいに整形された、整えられた味わいが多くありました。それは確かに、どこでいつ呑んでも安定した味わいではあるんですが、逆にそこが薄っぺらいというか、きれいに整い過ぎていて個性を感じないくらいでした。
 その部分が最近はもっと、自然の、「ありのままの姿を表現していこう」ということで、以前よりも立体感を感じられるようになったかと思います。例えば、昔で言う「骨太さ」は呑んでいて疲れてしまう感覚があったのが、今のお酒には立体感も骨太さもあるけれど、まず心地がいい。飲むことで、「エネルギーのあるものをいただいている」という感覚が伝わってきます。
 つまり、自然のエネルギーのバトンパスでできた液体をいただいている感触です。

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ー「発酵食品」も世界的なトレンドであり、気候変動を感じて危機的状況かもしれないけれど、だからこそ余計に自然を大事にする姿勢も強くなってきている。

釜

吉田 僕らより少し上、40代半ばくらいの方々がそういうトレンドをつくってくれている背景もあります。
 日本酒業界は自然あってこそ。ですから心から、自らのやっていることは「自然のおかげ」と思っている方々も多くいます。だからもう一度、それこそ電気についても、その使い方から気にかけるような、業界としてそういった動きは出てくるんじゃないかと思います。
ー日本食に欠かせない、世界からも注目される日本酒が、業界として社会の再エネ化を牽引するような流れになれば、それは本当に素晴らしいことに感じます。
 吉田酒造さんのブランド「手取川」は、実際にこの辺りを流れている川でしょうか?
吉田 ここから車で10分くらいのところに本流があって、この辺りには手取川から引いてきた用水が流れています。雪が少ないと水に影響はありますし、そのことがお米の出来に作用したりもします。
 僕らは、酒づくりに関しては地下100メートルから水を汲み上げていますので、今のところその水温に変化はありません。白山から100年かけて流れ出てくる雪解け水で「百年水」と呼んでいますが、こういった暖かい天候が続くと50年後、100年後にどんな影響が出てくるかだってわかりません。
 10年後でさえ、今すでに北極や南極の氷のことが言われていますが、どう変わってしまうのか、心配は尽きません。

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あらゆる業界が後継者問題を抱えている中、当たり前にむしろそれをチャンスと捉え、老舗酒蔵を継ぐ選択をされた
吉田当主。「自然のエネルギーのバトンパスでできた液体」とは、なんと粋な表現か。次回、最終回もお楽しみに

 

(取材:平井有太)
2021.6.17 thu.
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