【最終回】ORIS|1904年創業の時計ブランドの電力切り替え
読みもの|11.25 Mon

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  大きな施設や企業、大都会への集中に対して、分散化し、それぞれに自立していく在り方。
 みんな電力が標榜する新しい社会のかたちと、田中麻美子ORISジャパン社長の口から語られるスイスという国、100年以上続く老舗時計ブランドの姿勢が、そこかしこで重なるのは偶然ではない。
 そこにあるものが存在しているルーツを探りながら未来を見据える田中社長の言葉と、それまでは存在しなかった、色も匂いもない電気に付加価値をつけるため「電気のトレーサビリティ」を実現させて邁進するみんな電力の取り組み。
 すぐそこにあるようで、なかなか手が届かないし、実現までにはあと少し起爆剤が必要かもしれない未来の社会が、インタビューに詰まっているような感覚。
 「時計」や「エネルギー」という、至極身近にあって普遍的なもののルーツを考え、そこで見つかるものが、それこそ投票以上に、日々の暮らしに反映するきっかけになれればと願います。
ーみんな電力も、扱っている電気を軸とした大きなテーマが「社会の分散化」です。

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田中 日本もスイスほどではなくとも狭い国だし、これだけ交通機関が隅々まで正確に安全に機能しているのは、世界一じゃないかと思います。それなのに「なぜ集中?」って、逆行しているように感じます。「地方が沈んで大変!」と言っているのに、「なぜこんなに無策なんだろう?」と、スイスを参考にすればいいのにと思うんです。
 教育についても、スイスでは学校それぞれにしっかりした多様性があり、自治権的なものを持っています。だから世界中のお金持ちの多くは、子どもたちをスイスの学校に行かせるのでしょう。かたや日本では、構造上教育従事者たちがほぼ思考停止せざるをえない状況があって、結局それは何というか、国力の弱体化に繋がっていると思います。スイスの大学の教授に、「日本人は優秀で素晴らしいんだけど、優秀で従順な労働力でしかない。リーダーが育っていない」、「リーダーを育てる教育をしていない」と言われたことがあって、「なるほど」と思いました。
 スイス人は個人個人の主張が強く、結構うるさいです。人のことをどこう言うわけではないですが、「自分はこう考える。だから、あのやり方は違う。代わりにこうやるんだ」みたいな、結局それが各カントンの自治権の強さに繋がっているんです。
ー「カントン」は、スイスにおける「州」ですね。
田中 法律、税制もそれぞれ違うし、教育制度ももちろん違って、その集合体が一つの国というか連邦みたいになっていて、大統領も各地から選出された7人の連邦大臣の間で、持ち回りです。だからトップがあまり権力を持っていないんです。本当の民主主義だって本人たちも言いますが、でもそれはそれで大変なようです(笑)。
 あとは、EUに入らなかったというのも、すごくよかったと彼らは言いいます。EUに入らなかった理由を訊くと、「自分たちの政府の言うことも聞きたくないのに、なぜわけのわからない集まりに自治権を取られなきゃいけないんだ?」ということを言っていました。
 独立心がとても強く、「永世中立国」ですが、軍隊がすごく強い。「戦争しません」ということではなく、つまり「どことも同盟は組まない。オレたちは絶対独立だ」ということ。だからこそ強くなければならず、徴兵制があって、有事には国民皆兵となるすごい国です。
 日本は究極的には米軍基地があるから誰も攻めてこないわけで、別に憲法9条が守ってくれているわけではありません。そして、そういう自覚もない。でもスイス人は、世の中はどうなっていて、じゃあ「この中で自分たちは何をすべきか」ということを考えているんです。
ー自分が立っている根っこを考えていないと、どこに向かうかもわからない。

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田中 今「サステナビリティ」の他に、「トレーサビリティ」という言葉もよく言われるようになりました。どんどんそういうことに目覚めて、みんながもっと考えるようになればいいと思います。それでそれをちゃんと実践する。そういうことで世の中はよくなっていくんだと思います。
 例えば、ある企業の考え方や方針を「応援したいからそこの製品を買う」、逆に「賛同できないから買わない」ということで、影響力を持てます。民主主義国家であるといいつつ日本人の多くは、国民または市民としての権利を行使しきれていないのではないかと思います。選挙に行って投票するだけでは足りません。
 デモをやって騒いでもあまり効果はないし、そこをちゃんと考えると、やっぱり一人一人の行動に辿り着きます。地域の政治家に直接、自分はどこに住んでいる何者かということを伝えれば、それが自分の票に繋がる存在だと思って、やはり怖いらしいですよ(笑)。
ーここまでお話を伺っていて、ORISさんは、田中さんの考えと行動力を伸び伸びと発揮できる、素敵なブランドであると感じます。

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田中 意識の近さは感じますし、それは良かったと思いますし、逆にそうでなければ来なかったと思います。とはいえ外資ならではの、日本のことをあまり知らない方々とのやりとりの苦労はあります(笑)。でも「納得できない」ということは、あまりありません。
ーORISの価値観が伝わるほど、今の日本に足りないことが補填されていくような流れができたらいいと思います。
田中 そうなるといいですね(笑)。
 エネルギーについても「あなたの電気の選択によって、いい変化が起きるんですよ」とポジティブなメッセージとして伝わることが大切だと思います。みんな電力が最近も「発電所ツアー」とか、素敵なことをいろいろやってらっしゃるのを、素晴らしいと思って見ています。
 時計も、今やスマホなどがこれだけ流通していらなくなってきたかもしれませんが、災害で電源が切れて、充電するところもなくなったら動かなくなってしまいます。ORISの時計はそういう時でも動くので、それは大事にしていきたい部分です。
 スイスの会社がすべてそうだというのではありませんが、ビクトリノックスやORISは社長もとても質素です。高級車や豪華な別荘を持っているわけでもなく、社長でもバスなど公共交通機関を使っていたり、そういう意味で無駄な経費を使わないことで適正価格を保っているというか、企業のお金の使い方にはいろいろあるんだなということも勉強させていただいています。
ー最近あまりに顕著になってきた気候変動の原因も、消費者の過度な購買活動というか、長きに渡って必要以上を欲してきたことにある気がします。
田中 例えば電気も環境に負荷をかけるものですが、「使うのをやめましょう」ということは無理なわけです。であれば、仕方ないので使うけれども「使い方を考える」、「つくり方を考える」ということなんじゃないでしょうか。
 その中で少しずつライフスタイルを変えていって、短絡的に「あれは反対!」、「これは禁止!」でもない、どう賢く折り合いをつけていくのか、それが今後の人間の課題だと思います。

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天然水などを汲み上げてコマーシャルベースに乗せること自体が環境に負荷をかけると考え、オリスでは飲み水は買わずに水道水を使用。カルキ臭は備長炭で軽減

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みんな電力はオリスジャパンへ、オリス銀座ブティックのオープン記念としてコースターを贈りました。
このコースターは「シードペーパー」で出来ています。シードペーパーとは、再生紙にさまざまなお花の種をすきこんだ、環境にやさしいリサイクルペーパーです。
コースターを一晩(8時間程度)水につけ、土に植え水やりを続けると、1週間ほどで発芽し、2カ月ほど育てると花が咲きます。忘れな草、ナデシコ、ヒナゲシ、イングリッシュデイジーなど10種類以上の花の種が入っています。

全3回のORIS記事、いかがだったでしょうか。大切な「自立」のため、私たちにできること。次週からは新記事の公開です

 

【初回】ORIS|1904年創業の時計ブランドの電力切り替え
【第2回】ORIS|1904年創業の時計ブランドの電力切り替え

(取材・文:平井有太)
2019.10.30 Wed.
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