【第2回】patagonia|新支社長「マーティ」独占インタビュー
読みもの|3.11 Wed

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  アウトドアブランド「patagonia」は、市民エネルギー千葉との協業で千葉県の匝瑳市にソーラーシェアリングの発電所を持っている。そして、そこでつくられた電気はみんな電力を介して、渋谷ストアに供給されている。
 昨年10月1日に日本支社長に就任したマーティ・ポンフレー(以下、マーティ)氏は、再生可能エネルギーの機能について「人々のマインドセットに与える影響がとても重要。そしてそのマインドが、未来に向けたさらなる行動を生み出す」と語る。
 地球の危機を肌で感じ、ミッションステートメントをより喫緊な「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に刷新したパタゴニア。マーティ曰く、任務の遂行にはすでに自らだけの力では足らず、目標を共有できるどんな存在との協業も標榜している。
 今回は、エクスクルーシヴなインタビューの第2回(全3回)。これを読むことが、少しでもそこにすでにある希望を思い出し、私たちが大きな社会変革の節目にいることを再確認させてくれるだろう。
—日本を見ていると、国内から湧き上がってくる意見に耳を傾けず、国外を意識して、外圧によって変化がもたらされることが往々にしてあります。

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マーティ 現在の危機を脱すため、最も効果的で大きなことは、化石燃料をやめることです。それはもう、多くの国が実施していることで、特に石炭は問題外です。それこそ昨日のNew York Timesの1面記事で、「日本は今も22の石炭火力発電所を稼働させる気でいる」ということが、辛辣に書かれていました。
 これはまさに、先ほど言った日本の特性が、逆に作用している状況です。
 こここそ、まず日本が冷静に世界を見渡し、間違っていると気づかなければならない部分です。それはあまりにもネガティブな行為で、そのことは私にとっては当然として、多くの日本の国民にとってもそうであって欲しいと思います。
 「恥ずかしい」という言葉が、この状況を表すのに適しています。どんな国にも、市民が好きな部分と同意できない部分があると思いますが、火力発電はあまりにも大きな問題です。
 もちろん政府や、それに伴ってメディアが、真逆の価値観を喧伝していることもわかっています。そして繰り返しますが、日本はとても統制のとれた国で、その点が十二分に訓練されているので、ルールに従う力がとても強く作用します。
 そこで私が考える「やるべきこと」はまず、ビジネスを通じてポジティブな変化が可能なことを見せること。次に、パタゴニアが取り組みを通じて利益を生み出せること。最後に、私たちが気候危機に抵抗できることの証明です。
 気候危機に対する姿勢について、相手に「あなたは間違っている」と言っても通じません。あくまでポジティブなやり方で、「これが有効だよ」ということを体現するしかない。そして私たちにはビジネスを巻き込みつつ、政府をも抱擁する懐の深さが必要です。
 ネガティブなやり方では、結局何も変わらないのです。

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パタゴニア渋谷ストアの内観。右奥にミッションステートメントが掲げられている

—パタゴニアは選挙の日は店舗を閉め、社内外に投票に行くことを勧めていますね。
マーティ それも一つのやり方です。ただ、投票という行為が社会に浸透していくには、もう少し時間はかかるでしょう。
 日本の投票率はとても低い。しかも、特に若者の投票率は特に、です。「投票」に対する私たちの取り組みは、ぜひ他の企業にも真似していただきたい。だって、このことでもし私たちの従業員全員が投票に行っても、それで変化は起きません。でも、もし皆さんもやってくれれば、それは変化を生み出します。
 私たちは、若者たちに投票して欲しい。彼らは自分の未来のため、投票すべきです。10代はもちろん20代だって、日々迫られる選択肢は自分たちの未来に直結します。世界で起きている現実を見れば、毎日が投票でもおかしくありません。
 私たちは従業員のためのビジョンを考えます。しかしもっと望んでいるのは、自発的な取り組みをそれぞれが始める社風そのものを構築することです。ボトムアップを望んでいます。もし社員に自発的に取り組みたい課題があれば、社長や役員が「これをやれ。あれはやるな」とは言いません。極力それぞれの自発性に任せようという姿勢は、先ほどの「センパイ〜コウハイ逆転論」にも通じています。
—「コウハイ」から動き出して欲しい?

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マーティ 若い方が喫緊の問題に近い存在なのです。そして動きが早く、新しいアイディアを持っていて、私たちはむしろ彼らから学べます。彼らが持っていないのは経験で、そこの部分は私たちの担当です。彼らには居心地よく、のびのびと決断して、問題意識を行動に移して欲しいと思っています。
 パタゴニアには象徴的な社風があって、それは「失敗することは問題じゃない」ということです。もし何かに挑戦してうまくいかなくとも、それがいい狙いで計画もよかったのであれば、評価に値します。社員が何かをしようとして、失敗を恐れてそれができないのであれば、そもそも可能性が存在しないことになってしまいます。
 23歳の新入社員が、社内で一番のアイディアを持っていることがあります。彼には気兼ねなく「これ、どう?」と言って欲しいわけです。
 ですので、私が支社長に就任して最初に伝えたのは、「何でも直接言って欲しい」ということでした。だから実際にEメールなり、企画のフィードバックなり、今もたくさんもらいます。それは私にとっていいことです。
 アクティビズムを会社に持ち込みたいと考えた時、そういった社風はとても有効です。同等の立場から声が出せるようにすることで、自由を担保しているのです。若者のモチベーション、エネルギーは今の私にないものです(笑)。自分の20代の頃を思い返せば簡単ですが、体力とアイディアは無尽蔵に湧いてきます。だからこそ、そのまとめ方、実現の仕方をまわりの人間がサポートできれば、最高のコンビネショーンができ上がります。

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—あなたが会社に面接に訪れた時、「仕事の経歴ではなく、自分の人生の話がしたい」とイヴォン(パタゴニア創業者)に伝えたという話を聞きました。
マーティ 私は自分自身を、一般的なビジネスマンという風に見ていません。それはイヴォンと共有していることの一つだと思っています。幼少期の自分に「何になりたい?」と問えば、「漁師になりたい」というのが答えでした。
 大学を卒業してまず就職したわけですが、入った先で居心地の良さを感じることはありませんでした。だから途中で退職、13年間は我が道を進み、その後自分で起業もしました。パタゴニアに対しては、常に純粋な商品のファンだっただけでなく、イヴォンや彼の業績に惹かれていました。彼の本を読み、影響を受けました。パタゴニアには結局、私からアプローチしたんです。
 それはビジネスの話ではなく、自分が培ってきた経験やスキルをどこで活かせるか考えた時、このブランドに辿り着いたのだと思います。その感覚の延長線上で、私はスピーディに、感情に従って判断を下します。自分と共に働く仲間、チームメイトにも、同じことを勧めます。
 そのやり方は今の時代、タイミング的にもいいんじゃないかと思います。クライメイトクライシス(気候危機)の時代には、長い打ち合わせをいくつもやっている時間はありません。だからといって焦って判断を下すのではなく、事実に基づいた決断を積み重ねる必要があります。
 イヴォンと対峙した時、彼との間に感じたコネクションがありました。彼は私のインスピレーション源であり、私と何が似ているなどとは言えませんが、同じ空間にいる居心地の良さと、せっかく自然体で喋れる雰囲気がある時に、仕事の話だけをしたくなかったのです。だから「人生の話をさせて欲しい」というのは、その方がその場所に相応しいと思ったのでした。
—その場の空気を壊したくなかった。

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マーティ 私が彼の本を読んで知っていたのは、彼は森の中で独りでいても、そこで楽しむ方法を見い出していたということです。それは私にも経験がありました。そうやって育つと、ある独特の感覚が、成長してからも残ると思います。
 それは少し変わった世界の見方であり、社会におけるパタゴニアのあり方であり、だからこそ私はある企業に入っていくというよりも、自分と似た感覚を持った人間が多くいる集まりに参加するような気持ちでいれました。それはとても居心地のいい感覚です。
—パタゴニアは日本を「居心地よい場所」と感じてくれているでしょうか?

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マーティ 私たちはここにもう30年以上います(笑)。業績も順調で、日本のチームも素晴らしい、心からブランドを愛してくれているメンバーたちが集まっています。それが私たちの一番の強みでもあります。
—昨年受賞した、国連の地球大賞(Earth Award)はいかがでしたか?
マーティ 大きなサプライズでした。当然、私たちは賞を狙って何かをするような企業ではありません。そして当然受賞云々とも関係なく、「自分たちがやるべきことをやる」姿勢に変化はありません。私自身、日本に来たばかりで目の前に課題がたくさんあり、よもや国連が大きな賞を準備してくれているとは知る由もありませんでした。
 間違いなく誇らしい受賞です。それはまた、利益を生み出す企業でありながら、環境を守るための精力的な活動ができるということを証明する、画期的なことでした。
 今日も繰り返し言っているように、私たちは誰もが真似のできる良き前例になりたいのです。私たちにあるアイディアがあり、それが根源的に地球を守ることに寄与するのであれば、それを皆さんにも利用して欲しいと思っています。
 私たちの宣言には、「利益を最大化」とはありません。私たちは、「地球を救いたい」と言っているのです。
—日本の現状に対して、パタゴニアは先を走り過ぎていて、誰も追いつけない、独走状態という感覚はありませんか?
マーティ ウェブ検索の数値や、いろいろなデータを見ていて、人々は私たちに興味を持ってくれていると思っています。また、私は「先を行く」とか「遅れている」という風に物事を見ていません。私たちは環境について声が出てくることを期待していて、そこで必要な声の大きさは、私たちのビジネスの規模を遥かに超えるものです。人々の声が社会に与えうる影響は、ビジネスなどでは計り知れないほど強大です。
 そもそも私たちは経営会議で、セールスや利益の話を一番にしません。もちろん利益は出さないといけません。それは当然前提にありながら、常に「環境に対してどう貢献できるか」ということが重要課題なのです。

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マーティ・ポンフレー

1970年6月29日、フロリダ州マイアミ出身。日本ではナイキジャパンでアナリストとしてプロフェッショナルキャリアをスタートした後、カテゴリーセールスマネージャーに就任。その後、フォッシルジャパンでオペレーションズディレクター、マネージング・ディレクターを経て、アメリカ本社で複数の副社長ポジションを歴任。2007年以降はコンサルタント、昨年10月1日からはパタゴニア日本支社長として勤務。
曰く、「新しいミッションステートメントである“私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む”をビジネスのすべての側面で適用し、気候危機に対する革新的な解決策を探すという明確な機会と責任の元に、邁進していきます」

生き方や人生が反映されたパタゴニアの社風。先輩と後輩が対等で、自由が担保された組織のあり方が未来をつくっていく。
では、日本社会で日々を暮らす私たちが具体的にできることは何か。来週水曜3月18日公開の最終回、お楽しみに

 

(取材:平井有太/撮影:小澤雅志)
2020.02.07 fri.
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