本記事では、TADORiで紹介している「R6年産 塩尻産 イセヒカリ 自然栽培」を生産するハタケホットケを実際に訪れ、代表の日吉有為(ひよしゆうい)さんにミズニゴール誕生秘話や自然栽培米を始めた経緯など田んぼでしか聞けない生産の裏側をお聞きしました。ぜひ最後までお読みください。
「日吉さんの想い」
起業家、発明家、エンジニア、営業のスペシャリストがひとつの理念のもと集い立ち上がった株式会社ハタケホットケ。代表の日吉さんは、もともと東京でコンピューターグラフィック会社を経営していました。そんな日吉さんがなぜ、長野県塩尻市で自然栽培によるお米作りを始めたのでしょうか。
きっかけは、2020年に世界中を襲った新型コロナウイルスの影響で、日吉さんが長野へ移住したことでした。前年の2019年に子どもが生まれたこともあり、前代未聞のロックダウン状態に大きな不安を抱いたと言います。そして、長野で稲作農家をしていた知人の紹介で、お米作りに関わるようになりました。その年の秋、田植えから関わった田んぼで稲刈りをしていたとき、知人が「この一粒が次の年に一房(稲穂)になる」と話してくれた一言がきっかけとなり、日吉さんは農業に興味を持つようになりました。
東京にいた頃は「生きること=稼ぐこと」という価値観が強かったという日吉さん。1粒の籾から1本の稲が育ち、その稲がつける稲穂には数十から数百の籾が実ります。この事実を知り、お米があれば飢えようがないと衝撃を受け、知人から田んぼを借り自然栽培という方法で稲作を始めることになりました。
それまで、有機栽培や自然栽培への関心はそれほど強くなかったそうですが、子どもが生まれたことをきっかけに、安心して食べられる食事を提供したいという想いが強まり、また、次の世代に安心して引き渡せる地球環境を守るという当事者意識が芽生えたのだと言います。そこで、農薬や肥料に頼らず、できるだけ持続可能な栽培方法として自然栽培を選んだと、日吉さんは語っています。
「長野県塩尻市の環境について」
東京都新宿駅から特急で約2時間半。JR塩尻駅で下車し、車で約20分ほど山道を登った先にハタケホットケの田んぼがあります。田んぼに着くと、黄金色に染まった稲穂から香ばしく、爽やかな青々しい香りが漂い、肌にひんやりとした空気が触れます。塩尻市は、長野県の中部に位置し、山岳地帯と盆地が混在する地形が特徴です。
街中の標高は約600メートルで、この田んぼがある場所は850メートルから950メートルの高さにあります。標高が高いため、朝晩は寒くなり、昼間は太陽が近いため日差しが強く、気温も高くなります。また、水源が近くにあり、山から引いた冷たくミネラル分が豊富な水が水田に届けられているため、水の条件も非常に良いと日吉さんは話します。
自然栽培とは、農薬も化学肥料も使わずになるべく自然に近づけて土壌の健康を重視して作物を育てる方法です。国内では0.1%以下しか取り組んでいる人はいません。水や気候の条件は様々でも自然栽培はできます。大きく影響するのは、土壌内の微生物の種類と量です。そのため、この方法は、田んぼの土の微生物環境が作物に大きく影響します。塩尻の寒暖差は、作物の甘みを引き出す重要な要素となり、ミネラル分が豊富な水は稲の成長に必要な栄養を補うのに役立ちます。そんな、自然の恵みをたっぷり受けて育った稲を一つひとつ丁寧に刈っていきます。稲を刈るシャキシャキという音は何ともクセになる、癒される自然の音です。
はぜ掛けと脱穀が終わった籾はハタケホットケの施設内にある築約60年の蔵で保存されます。この蔵は、温度が一定に保たれる環境のため、お米の品質を維持しやすく、特に涼しく適度な湿度があるため、劣化を防ぐのに最適です。
「農業×テクノロジー」
自然栽培でのお米作りは、除草剤を使わない代わりに別の方法で除草をする必要があります。手作業での除草は、長時間腰を曲げて行う重労働で、雑草は抜いてもすぐに再び生えてくるため、作業は絶え間なく続きます。除草作業の大変さなども要因となり、自然栽培米の国内流通量は0.1%と非常に少ない現状です。
自然栽培でお米を育てるには、作り手である農家の皆さんの作業の負担を少しでも軽減し、労働環境も持続可能にしていくことが重要です。そこで、発明家の友人とともに、テクノロジーでこの問題を解決できないかと考え、「ミズニゴール」を開発しました。
ミズニゴールとは、ハタケホットケが開発した自動で田んぼを走り回り、ブラシで土をかき混ぜて水を濁らせ、雑草を除去・抑制するロボットのこと。従来、チェーン除草という横長の棒にのれん状にチェーンを垂らし、これを引くことで雑草を取り除く方法で1000㎡あたり90分かかっていた除草作業は、ミズニゴールによって田んぼに入らず20分に短縮したそうです。
お米作りには、古くから中耕除草を行うこと、人が関与し適度な刺激を与えることで良い米が育つという言い伝えがあります。これは、田んぼを適度にかき混ぜることで、米が良く育つという考え方です。かき混ぜることで空気中の酸素や窒素が水に取り込まれ、植物に良い影響を与えると言われることがあります。ミズニゴールも同様に土をかき混ぜることで稲に良い影響を与えている可能性があるのではないか、という声もあるそうです。
良い影響とは、具体的には植物の強さです。イネ科の植物は、ある程度の刺激を与えることで強くなるとされています。例えば、麦踏(むぎふみ)という伝統的な手法では、麦を踏みつけて強く育てます。また、合鴨農法では、カモが稲を突っつくことで稲が強くなると言われています。同じように、ミズニゴールは、田植え後約5日目から40日目までの間に、3から5日に1回走らせるため、ワンシーズンで8回から10回程田んぼを走ります。これによりミズニゴールが稲を刺激することで、稲がより強く健康に育つということです。
食味コンテストに毎年出している農家さんが、ミズニゴールを使った田んぼと使っていない田んぼの米をそれぞれ出品したところ、ミズニゴールを使った田んぼの方が、全体の数値よりもやや良い結果が出たそうです。美味しくなると断言するにはもう少し繰り返し調べる必要がありますが、少なくとも悪い影響はないと考えられます。
また、化学肥料や有機肥料を使用しない場合、収穫量を慣行栽培と比較すると、およそ60%になると言われています(土づくりが上手な人の場合は、収穫量に変化は出ないのだとか)。もし除草に失敗してしまうと、収穫量はさらにその半分になってしまうこともあるそうです。そのため、持続可能な栽培方法や労働環境だけでなく、経済的な持続可能性を実現するためにはテクノロジーの活用は不可欠です。担い手が不足している日本の食料自給率を上げるために、ハタケホットケはテクノロジーを使い持続可能な農業のつくり手として進んでいきます。
*慣行栽培とは、化学肥料と化学農薬を利用して効率的に栽培する方法です。現在国内のお米の99.9%がこの方法で栽培されています。
「令和5年米、令和6年米の味の特徴と味わい」
令和6年産の新米「イセヒカリ」は、雑味がなく、もちもちとした食感が特徴です。土鍋で炊いた時のほのかに漂う甘いお米の香り、新米らしいつやつやとした見た目も魅力的です。お漬物との相性が抜群で、シンプルなおかずと一緒に楽しむのもおすすめです。
今回、TADORiでは、ミズニゴールを使用した令和6年産の新米と令和5年産の古米の2種類を販売いたします。令和5年産米は、新米特有のもちもち感が少し控えめで、噛み応えのあるしっかりとした食感が特徴です。ササニシキと似て、粒感がはっきりとしており甘さが控えめのため、ササニシキがお好きな方には特におすすめの味わいです。また、令和5年産米は、あっさりとした炊きあがりのため親子丼や牛丼などの「つゆだく系」ご飯や、スープカレーなどのエスニック料理にぴったりです。それぞれの料理に合わせて、ぜひお好みのお米をお選びください。
今回は、R6年産 塩尻産 イセヒカリ 自然栽培をタドってみました。TADORiではそのほかにも個性あふれる選択肢をみつけていただけます。