環境負荷をかけない、カルチャーと一緒にすすむTシャツ
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「環境に負荷をかけないTシャツ」をタドる

 環境に負荷をかけないTシャツができた。

 昨今国内外で、アパレル業界や大企業が脱炭素を実践し、デフォルトになりつつあるSDGsやESG投資の波の中で、環境保全の取り組みを発表することが増えてきた。ではシンプルに、目の前にある商品が、使われる糸まで配慮されたオーガニックコットン製で、つくられる工程で、その工場でもオフィスでも、CO2を排出しない状況がどれだけあるかと考えると、実例はまだまだ少数だ。

 そこをどう突破するか、案をくれたのが作家/クリエイターのいとうせいこうさんで、実践してくれたのが下町・墨田区の老舗「アシダニット」さんだった。

 発端は、せいこうさんが発案、牽引される「LIVE from the Office」と、同企画がアーティストとファンたちを導いていく先にある「アーティスト電力」だ。

 コロナ禍、ミュージシャンに新しい活躍の場をつくるべく、UPDATER(みんな電力)がオフィスを解放してはじまったLIVE from the Officeには、これまで豪華なアーティストたちが参加。その渦中から生まれたいとうせいこう発電所を皮切りに、アーティストが所有者として運営する発電所が今後も生まれていく。

このTシャツがどう”環境負荷をかけない”のか、芦田さんに聞きました(その1)。
「農薬を使わずに栽培した綿を使用しています。その証明のため、どこで栽培され、糸にされたかがわかるようになってEUの認証機関・GOTS認証付きとなっています。
この綿は、農薬をなるべく使わないようにしているので、地球に負担をかけません。トレーサビリティがしっかりしているので、不当労働行為は行われておらず、人権が守られています」

 「環境負荷をかけないTシャツ」は、何がこの、かつてない企画”らしく”て、アーティストたちはもちろん、支えてくださるファンや需要家皆さまに喜んでいただけるか、考えた末につくられた。しかし話を伺うと、もう数年前から、芦田さんの所属する「東京ニットファッション工業組合(TKF)」でヨーロッパの展示会に参加した際、「これはどう環境配慮しているの?」という質問攻めにあったり、今日に至る流れはあったという。

 一つのモノが雄弁に語ってくれる背景のストーリーと、私たちみんなでつくっていく明るい未来。

 ぜひ、お読みください。

芦田 2018年に、組合のみんなでイタリアの展示会に行ったんです。その時もスタートから、SDGsだとか「地球環境に対する取り組みをどうする?」という話は出ていました。でもやっぱり、「そこまでやりきれないよね」ということで。

ーすでに現地では、そういった取り組みがはじまっていた。

芦田 実際に行って展示会をやる上では、来る方ほぼ全員がそういう話をするという状況でした。その辺の話を聞いて、今後おのずと「経営をそっち方向にしないといけないんだろう」ということにはなったんです。

ーだからといって「じゃあ、何するの?」という。

芦田 やっぱり仕事自体は下請け、OEMなので、企画はほぼしていないわけです。自分たちで企画をしていないと、もともとのスタートから「地球環境に~」というところに突っ込めないということがありました。それで「何をすればいいのかわからない」、「できることって何だろう?」という風になっちゃうという。

 向こうで突っ込まれない、地球環境に対して「自分たちにできることは何?」と考えても、ゴミの分別とか、それくらいしか思いつかない状況でした。

ー「それ、もうやってるしな、、」という。

芦田さんが撮影に合わせてサービスしてくれた裁断機は、創業当時からの51年物

芦田 ほかに気になっていたのは、裁断クズです。「”カット”&”ソー”」つまり「裁断して縫う」上で、どうしても生地のクズが出ます。今はそれをまた集めて、綿にしてみたいなことをはじめつつあるような段階です。

ー芦田さんはコロナ禍、学生支援の、オーガニックコットンT企画もやられている。

芦田 学生支援に関しては自分の企画で、最初から環境対策も考えながらつくれるということがありました。OEMだと、「オーガニックコットンを使って」と言われない限り、使えません。わざわざ高い生地で「こちらを使いませんか?」と言っても、私たちに決定権はないわけです。

 企画を自分ですると、おのずと決定権は自分にあります。そこでやっと、「できることは何だろう?」ということを考えられます。オーガニックで、地球環境を考えて染めもしない、「白だけの方が、訴えかける上でもいいのかな」と思いました。

ーもともと、染織による環境負荷や余った生地について、感じることをお持ちだった。

芦田 「どうしても環境負荷の大きな仕事なのかな」という意識はありました。でもだからと言って、ウチ一社で「染めないでくれ」とも言えないという。

ー消費者からのまとまった大きな声でもないと、なかなか変えられることではないと思います。イタリアに一緒に行かれた方々や、同じ業界における意識の共有はできているんでしょうか?

このTシャツがどう”環境負荷をかけない”のか、芦田さんに聞きました(その2)。
「縫い糸も綿やレーヨンを使用しています。そのため、廃棄されても自然に帰ります。通常はポリエステルの糸で縫われることが多いので、厳密には廃棄した時、問題が残るんです(自然由来の糸を使用して作成しています)」

芦田 そこまで意識はしていないと思うんです。僕も含めて仕事の性質上、「言われたものをどうやるか」「どう喜んでいただくか」「期待されたものをどれだけ安くつくるか」みたいなことが大部分を占めます。さらにプラスアルファとなると、実際のところ、なかなか考えるのは難しいということがあると思います。

ー芦田さんがそのあたりを意識する、大きなきっかけはありましたか?

芦田 そこは、「ずっとうっすら思っていた」という感じでしょうか。捨てる量が、つくっているものに対して「すごく多いな」ということはいつも思っていました。

ー初代のお父さまは、お仕事について「頭と手さえ通れば売れる」と仰っていた。

芦田 この仕事をはじめた頃は、たしかにそう言っていました。当時は、モノ自体がそこまでなかったと思うんです。戦後、高度成長期くらいでウチは創業しています。国内でモノをつくって国内で売るという循環だったので、それだけ売れていたと思うんです。

 それが、これだけモノが余ってくると、「そんなにつくっていいのか」という感覚も生まれてきます。それこそ中国で、尋常じゃない量をつくって日本で売るという流れになってきて「それはどうなんだろう」と。しかもその、つくった半分くらいは新品のうちに捨てるというような話もあります。

 ですから、そういった諸々の状況の中で、自分で応援企画をはじめたというのが大きいんです。

ー直接のきっかけは、、?

芦田 それはやはり、コロナ禍でした。たまたま無理矢理動いてみたら、どうせつくるならオーガニックで、それでオーガニックでつくってみたらお声がけいただいて、それで今回の電気の切り替えにたどり着いたという経緯です。

 コロナになって、マスクが足りなくなって、それならウチで「マスクくらいつくれるじゃん」ということでやってみたら売れた。それではじめてネットショップもつくってみて、それぞれやってみたらそんなに難しいことではありませんでした。

 「こんなに簡単にできるんだ」というところからはじまって、すると「学生が苦労している」という話が耳に入ってきた。それでみんなに「こんなことやってるんですよ」ということを言っていたら、みんな電力さんを紹介していただいたんです。

 だからやっぱり「動いてみないとわからないことって、結構あるよな」と思います。

ー墨田区のこの界隈にアパレルの工場が集まっているのは、どうしてなんでしょう?

このTシャツがどう”環境負荷をかけない”のか、芦田さんに聞きました(その3)。
「Tシャツは、生地を染める時に大量の水を使用します。その中で『白』は水の使用が少なく、色を付けないので川や海を汚すことを最小限にできます。色を付ける場合、最近はほとんどが化学染料が使われているのが現実です(それで洗濯しても色が落ちない、、)」

芦田 この辺は、もともとは武士とか武家屋敷みたいなものが多いエリアです。結局は武士も食うためのバイトをしないとならなくて、内職とか、そうやってこういったことがはじまったと聞きます。それが明治に武士の時代が終わって、本業にしはじめたという流れはあるようです。

ー戦後以前、江戸時代からそういた風土がこの界隈にはあった。

芦田 洋服関係のほかにも建築関係ですとか、製造業が多かったようです。なんだかんだ、鉄屋さんなんかもありますよね。町工場が多くて、この辺は墨田区の南端ですが、隣の江東区から墨田区の北の方まで広がっています。その中で、この本所エリアがメインの地域と言えるかと思います。

 界隈に、全盛期には2000もの会社があったみたいです。私が跡を継いだ22~30年前で、500社くらいになっていました。つくる量が増えるに従って当時なら安かった中国、今はもうバングラデシュやベトナム、ラオスみたいな国々へ、分散していっている状況です。

このTシャツがどう”環境負荷をかけない”のか、芦田さんに聞きました(最後)。
「化学染料による地球の負担は大きいです。草木染やインディゴ染など自然由来の染もありますが、すると今度は色落ちがあるのです。ですので、白にすることが最も地球には優しいです。
そしてエネルギーには、みんな電力の電気を使って、つくられています」

 今ウチの会社は、売り上げで4億くらいです。一番良かった時で12~3億やっていた時代がありました。それは先代の時代ですが、とはいえ利益もそんなには出ていなかったとは聞いていますが(笑)。

ーやっぱり洋服も「メイドインジャパンがいいよね」という気持ちはあります。

芦田 実際には、国内でつくっているから「全部がいい」とも言い切れません。ただその中で、ウチは「丁寧につくろうね」と言っています。「日本製はいいよね」という期待はされていると思うので、その期待は裏切らないようにということは考えます。他にもお客さまとの対応や、納期についてとか、そこのクオリティも大事なんじゃないかと思っています。規模は小さくてもくるくるまわるイメージというか、そちらの方が持続可能で、長続きするんじゃないかなと。

ー「メイドインジャパン」が元気でいて欲しいですし、本質的にいい未来に向かっていって欲しいという気持ちです。ただそこを考える上での業界として、環境については、まだそこまで意識はいっていない?

1949年から続く「TKF=東京ニットファッション工業組合」の会合にて、みんな電力から気候変動の今や、私たちにできる対策とその効果について話させていただきました

芦田 まだ、そこを考えるところにはいたってなさそうな気はします。この前も組合の青年部で一応電気について話したら、みんなポカンとしていました。「電気、、別に切り替えるのはいいけど、それが何?」みたいな(笑)。

 ですから、そこの温度感は、やはり電気のプロの方に直接伝えていただくのが、一番じゃないかなと思いました。

ーこれだけ世界の気候に顕著な変化が見えてくると、肌で感じられていることは多いんじゃないかと思います。特に下町の多くは川に近く、氾濫と浸水リスクがあります。

芦田 コロナ禍で歴史の勉強をする時間もできました。それこそこの辺は、湿地帯だったわけです。そこに徳川が来て埋め立てて住みやすくして、川も整備して、そういうことを勉強していくと、環境は見直さないといけないなと考えていました。

ー今回の企画では布だけじゃなく、糸も、気を遣っていただいていると。

せいこうさんに着心地について伺うと、「Tシャツ、柔らかくて気持ちいいよ」とのお答え

芦田 レーヨンは再生糸で廃棄しても自然に還る、そういう糸です。ポリエステルだと化学繊維なので、今は基本的にはみんなポリエステルで、もちろん燃やせば燃えますが、とはいえできるところからということで、廃棄後まで考え糸も決めました。

ー端切れの処理方法は、何かありますか?

芦田 なかなかないのが現状です。お客さんから言われて、今は色を例えば白黒赤に分けて、それを生地屋さんに戻して、それぞれ分解して綿にして生地をつくりなおすことができるということで、それはやっています。ただそこもコストと、できあがる生地の量もあるので、皆で一緒にやらないとという状況です。

 いろいろ考えてはいて、それこそ渋沢栄一の博物館に行ったら、昔はボロ切れを集めて紙にしていたんですね。粉砕して和紙にしていたということで、「そういうことができたらな」と気にはなっています。紙も繊維は繊維なので。

 ほかにも、ウチの屋上にソーラーパネルを付けたいと考えたりしているんですが、そうすると建物自体が壊れちゃいそうで(笑)。

 個人的には、SDGsの中でも「持続可能」が一番の肝だと思っています。環境負荷をかけないでまわしていくというのが、一番大事かなと。そうして少しでも業界のイメージをよくする。やるべきことはしっかりやっているので、環境に対しても「よい会社でいたいな」と思っています。

#GOTS認証 #TKF #オーガニックコットン #サステナブル #再生可能エネルギー #持続可能な社会 #東京ニットファッション工業組合
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記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など