【第3回】保坂展人|環境都市をつくる世田谷区長
読みもの|8.8 Tue

setagayakucho

  『脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?』(2016年、ロッキング・オン)という著書もある、保坂展人・世田谷区長の独占インタビューの最終回。電力の持つ可能性を体現しながら、道無き道を切り拓いてこられた当事者の言葉には、多くの示唆が含まれています。
 誰にとっても有益な、子どもたちが暮らす未来の地球環境を考えればある意味で当たり前の、新たなエネルギーの在り方。
 はたして、道無き道の行き着く先は、太平洋を渡ったアメリカ西海岸の街、ポートランドにあるのか。
 地域の過疎化や少子化といった問題が喫緊の課題である社会で暮らす、私たち自身を含めたなるべく多くの方々に読まれて欲しい記事となりました。
ー交流のある自治体から、「ウチもやってみようかな」という声は聞こえてきますか?
保坂 もうすでに、自然エネルギーを持っているところもあります。例えば「ウチは地熱のポテンシャルが高いけど、どう扱える?」とか、水力を利用して「自前の発電所をつくり電力をつくってみよう」と変わったところもある。ただ、この事業はちょっと時間かかるんです。今日言葉にして、半年後に動いてるということは難しい。それにしても、ダム放流水を活用して小水力発電が実現するまで4年間だった長野県は、早かった。
ーそれは予想以上?
保坂 はい。だって、あそこは文字通り本当に「道なき」発電所で(笑)。ダムサイトの真下の水が溜まる浅瀬というか、そこに物理的な「ロード」がない、隣は垂直に切り立ってるダムサイトなんです。登るのにも結構しんどい高さで、そこにコンクリートで土台をつくって、その上に発電所を置いてるわけなので。
ーかたや需要者側からの声は、いかがでしょう?
保坂 自治体間連携というのは付属的、副次的効果というのが極めて大きいんです。

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長野県から世田谷区に送られる自然エネルギー証明書、世田谷区立保育園に送られる積み木は共に、長野県の材木からつくられたもの

 今回長野県からは、電力を供給している41の世田谷区立保育園向けの積み木をもらいました。それを子どもたちが使って、親にも宣伝し、保育士さんたちもその手触りを知って、どこかに旅行で行くなら電気を送ってくれている「伊那市に行ってみようか」となるわけじゃないですか。現地には林間学校的な施設もあるし、今後そういう交流が生まれていくでしょう。
 そういう意味では、自然エネルギーの電源を持つ自治体もFITで単純に電気を売るだけだと、その電力会社から振り込みは入るけど、それだけなんです。それよりも、しかも場合によっては大手電力会社に売るよりも高い値段で、なおかつ「顔と顔が見える交流が生まれる」となると、「そっちの方がいい」となるんじゃないかと思います。
 僕は3.11以降、防災の点などでも「顔と顔が見える」ということを言ってきました。それに電力の自治体間連携ということも、進めるに従ってイメージがはっきりしてきて、具体的な制度も乗っかってきた。とにかく前例がないことをやっているので、そこはパイオニア精神というか、ここまでは柔軟なところがプラスに作用しているかなと思います。
ー過疎化が深刻な地域にしてみると、可能性を感じられる話に、勇気づけられるような気がします。
保坂 「電力を買って、その土地に遊びに行く」というのは第一段階です。全国の電力を生み出せる地域はほぼ例外なく、過疎の問題で悩んでいます。子どもが生まれない、若者がいないという中で、上手く雇用を組み立てて、若い世代に住宅を供給し、そういうこととこのエネルギー事業が組み合わさっていくと、それは意義もあって非常に面白いんじゃないかと思っています。次の自治体間連携は、そこを目指していきたいですね。
ー現状はしかし、電力の自由化を受けて実際に切り替えた人口が約5%という数字です。
保坂 僕は、決して低調ではないと思っています。だって長年、「電力を選ぶ」なんていうことは知らなかったわけです。しかも実際安くなるんだけど、その単位がちょっとで、数千円だったら「面倒臭いな」となってしまう。でも「ウチの電力はここ産なんだよ」という話で家族旅行に行くとか、そういう付帯するストーリーがあれば違うだろうなと思います。
 東京と地方の問題は、これから非常に深刻になります。そこに「どうやって繋がりをつくるか」という、これは電気だけじゃない、食やその他の問題も絡んできます。ただ電気の繋がりは、意外と自治体と自治体が当事者となりプラットホームを形成していけるので、「繋がりがつくりやすい」ということはありますね。
 正直、電力の自由化があってこの1、2年で長野県規模のものが実現したというのは、たいへん早い速度だと思っています。他の仕事に紛れて「なかなか進まないな」と思っていたのが、思ったよりも早い進捗を聞いて「え、本当にはじまるの?」という感じでした。

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ー強い中央集権の社会から分散型に移行する、未来を先駆けた事例でしょうか。
保坂 日本の社会は、しかも特に自治体は「前例、先例があるのか」ということを気にします。前例踏襲主義ですね。そこで「ちゃんとやれてるの?」と聞かれても、「もう保育園が使ってて、積み木を通じて交流がはじまって、子どもが遊びに行くらしいですよ」という話になれば、「そういうやり方があったのか」となります。実際に子どもが遊びに行くまでは、もう少し先ですが(笑)。
 しかも長野県の高遠の発電所は、ダムの維持放流水です。つまり、それまでは水をただ流していただけだった。これをやってもその下の流域の魚に影響もなく、短期間の準備で出来あがる候補地はもっとあると思います。
 長野県は県営水力の総量がもともと大きくて、実は今回のものなんてほんのその一部です。だから、そういったものが次々に切り替わっていくとを考えると、今まで堂々巡りになっていた「脱原発か再エネか」みたいな議論が再びだんだんと動き出す、その突破口になるんじゃないかと思います。
 ですから全体の捉え方として、まず生協の「電力が選べる」というところの何万というシェアがあると。そこに取り組みをもっと届けていきながら、パリ協定から離脱しちゃったトランプ大統領までもが出てきました。あれでむしろ異常気象、温暖化の問題に注目が集まり、非化石燃料でも原発でもない再エネに対する意識が加速していくだろうと思います。そしてそれが、「自治体としての数値目標をもっと上げようじゃないか」みたいなことに、広がっていくのではないでしょうか。
ー最後の質問です。そういった取り組みの理想像はアメリカ西海岸、ポートランドの在り方ですか?
保坂 それは「環境都市」ということの価値だと思います。「環境都市は20年のスパンでつくられる」ということなので、大きくは「成長限界線」を定めて、それ以上むやみに拡張させないと。ポートランドでは中心市街地を、割と統制された、旧建物活用型のリノベーションで揃えた再開発をしました。そのことによって、バランスがとれた発展をみせたということだと思います。
 あとは、市民事業だけじゃなくて、ビジネスになる事業に転化したわけです。環境だとかオーガニックって、アメリカにも「お金にならないし、やれたとしても細々」で、「基本は持ち出し」というイメージがあったといいます。ポートランドの場合はそこをうまく事業化する、才能のある人たちが集まったように見えます。
 現地では、たしか陸軍がやってる大規模な水力発電所も見に行きましたよ。

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ーでは、区長には任期20年を視野に、さらに頑張っていただかないと、、!
保坂 それは、体力がもつかという問題はありますが(笑)。

 

(取材:平井有太)
2017.06.27 tue.
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