循環型暮らし|映画『北朝鮮ワンダーランド』
本記事掲載の、作品からのスチル写真はすべてコチラに帰属 → ©Kundschafter Filmproduktion GmbH
韓国の文大統領誕生からその伏線はあったのかもしれないし、金正恩のスイス留学の時点で種は蒔かれていたのかもしれない。見ていて、会場となったシンガポールのカペラホテルに交互に並べられた星条旗と北朝鮮の国旗が、その星と色合いで、お互いにとってあまりに相性よくデザインされていることに驚いた。そしてだからこそ、テレビに映ったシュール過ぎる光景が時代の必然と感じられたのかもしれない。
背景や経緯はともかく、世界を代表する”暴君”2人が握手する姿に、世界が注目した。しかし私たちは、恣意的に編集済みの地上波テレビで放映される北朝鮮の姿以外、何を知っているのだろう?
5/12/2018、立教大学で開催されたシンポジウム「北朝鮮とコリアンシネマ」に参加し、トーク後には学生たちと交流するチョ・ソンヒョン監督
まず私たちの頭に浮かぶのはアントニオ猪木氏とデビ夫人だが、これまで7回訪朝しているのが、日本写真協会新人賞(2016)受賞写真家である、初沢亜利氏だ。氏は、2010〜12年に北朝鮮の平壌と地方を写した『隣人。38度線の北』(2012)、本年5月に『隣人、それから。38度線の北』(共に徳間書店)を発表している。
北朝鮮という国家そのものの歴史は浅いですが、根底にあるのは民族感情です。社会主義と民族主義が独特に融合された国家である点は、日本人にはなかなか想像しにくいのでしょう」
太陽光エネルギーの利用に加え、「夏はメタンガスを使って米を炊きます」と語る、循環型な暮らしを実践する農家
初沢氏は、対米従属的視点から北朝鮮を眺めている人々に、警鐘を鳴らす。
追い詰めれば遠からず滅びる。地方では皆餓死している、といった願望を投影して北朝鮮を認識し続ける限り、現実が見えず、対応策を誤ることになるでしょう」
初沢亜利
1973年、フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒業。第13期写真ワークショップ・コルプス修了後、イイノ広尾スタジオを経てフリーランスとして活動する。2013年東川賞新人作家賞受賞。2016年日本写真協会新人賞受賞。写真集に、2003年のイラク戦争前後を撮影した『Baghdad2003』、東日本大震災翌日から一年、気仙沼を中心に撮影した『TrueFeelings爪痕の真情』、2010年から2012年に北朝鮮の平壌と地方を写した『隣人。38度線の北』、2013年末から1年3カ月沖縄に移住し、基地問題に揺れる沖縄の現状を多角的に追った『沖縄のことを教えてください』がある。