【レポート】電気を選べる時代のフェス「THE SOLAR BUDOKAN 2019」
読みもの|12.16 Mon

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  相次いで大型台風に襲われた2019年秋。誰もが自然災害によって根こそぎ生活が奪われる可能性がある。僕たちはとんでもない時代をサバイブしなくてはいけないんだと、正直、かなり動揺しています。
「明らかに気候が変わってきている」
  そう感じる人も多いと思います。国際的には「気候変動」ではなく「気候危機」と呼ばれており「環境問題をセクシーに」なんて、呑気に考えてる場合ではないのです。
  この秋に発売された雑誌「WIRED」は「ナラティブと実装」をテーマにしていました。「編集長から読者の皆さんへ」と題したメッセージにはこうあります。
 地球温暖化を止めるアクションをいますぐ起こすべきだとスウェーデンの国会議事堂前で座り込みを始め、いまや世界的なクライメートアクションの旗振り役となった16歳のグレタ・トゥーンベリは、「わたしたち子どもがこの問題を解決するのは不可能」だと、混乱をつくり上げてきた張本人である大人たちに行動を促す。その矛先は、国連やダヴォス会議や各国議会で、したり顔で頷き理解を示す政治家たちだけじゃない。いますべての大人たちに問われているのは、そこで語られてきたナラティヴを、実装する力なのだ。
  そう。僕たちはいい加減、実装フェーズに入らなくてはいけないのです。

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 太陽光発電だけで、野外フェスができる
  2019年9月の終わりに開催された野外フェス「THE SOLAR BUDOKAN 2019」。このフェスでは、フェス当日の運営に関わる電力のすべてを、太陽光発電でまかなっています。
 事前に太陽光で蓄電した電気と、当日会場に設置する大量の太陽光パネルを組み合わせてフェスティバルの演出の電気を確保。その他、会場運営に関わる電力は、グリーン電力証書を通じて太陽光発電を活用します。結果的に全ての電力を、ソーラーでまかなっているのです。
  まさしく自然エネルギーを実装した野外フェス。メインステージには広大なソーラーパネルエリアが展開され、その横で音楽を楽しめます。出演アーティストは、フェスの趣旨を理解・賛同しており、演奏の合間には、彼らの「想い」を聞くことができます。
 会場の中央には、キッズエリアが設置されており、子どもたちも大勢参加しています。子どもから大人まで思う存分楽しみつつ、その電力は全て太陽光発電でまかなわれている。
「あぁ、太陽光発電で大丈夫じゃん」
  そんな感想を自然と持つことができるフェスです。

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左から太陽光発電ムラ代表 谷口洋和氏、ソーラーシェアリング推進連盟代表理事 馬上丈司氏、みんな電力代表取締役 大石英司、エクソル代表取締役社長 鈴木伸一氏

  『みんな電力』は、このフェスに初年度からが協賛しており、当日のブース出店のほか、トークプログラムにも参加しました。
 登壇したのは、太陽光発電ムラ代表 谷口洋和氏、ソーラーシェアリング推進連盟 代表理事 馬上丈司氏、みんな電力 代表取締役 大石英司。
 途中から、エクソル 代表取締役社長 鈴木伸一氏、出演アーティスト SCOOBIE DO のみなさんも参加し、太陽光発電座談会のようなトークステージでした。
 「どうなる日本のエネルギー政策⁉業界のトップリーダーが語る!!」と、ずいぶんと大上段に構えたタイトルですが…(笑)、ここで話されたことも、太陽光発電の実装の話でした。
 大石「うちの会社ではセレクトショップのBEAMS JAPANとコラボして、展示会を開きました。BEAMS JAPANでは、洋服やライフスタイル雑貨のセレクトだけじゃなくて、電気もセレクトするんだってこと。BEAMS JAPANは、みんな電力から電気を買っています。BEAMS JAPANだけじゃなくて、アウトドアブランドのパタゴニアや、ファッションブランドのUNDERCOVER、コスメブランドのLUSHもうちから電気を買っています。
 電気を誰から買うのか、誰に電気代を払うのか、選べる時代なんです」
  こうした活動を通じて、大石さんは「若者の力」を日々感じると言います。

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 大石「グレタさんの発言は世界中で注目されています。彼女だけでなく、若い人たちの気候危機への関心は強い。そもそも、サスティナブルじゃないものは選ばない人も多いんです」
  馬上さんが取り組む、畑の上の太陽光発電「ソーラーシェアリング」でも、農作業をキッカケに親子連れが興味を持ってくれるそうです。
 馬上「エネルギーを身近に感じるのは難しいんです。太陽光パネルを見ても、今、発電しているのかどうか分からないですから。農作業から太陽光発電に興味を持ってもらう。子どもが関心を持ってくれると、親へとつながります」
  実は馬上さんは、今年大きな台風被害を受けた千葉県に住んでおり、実際に停電も経験しました。
 馬上「当初、停電は数日と言われていました。しかし、その後、何日も停電が続いた。こんなとき、太陽光発電があるとすごく役に立つんです。小さいパネルなら、スマホの充電。
大きいパネルなら家電も動かせます」
  原子力発電で儲かる人の「原子力ムラ」に対して、自然電力で儲かる人たちの「太陽光発電ムラ」があれば、もっと自然電力が増えるのではないか。そんな問いからスタートした、自然電力に投資する人々のコミュニティを運営する谷口氏は「地域に投資用に太陽光発電所があれば、オーナーにどんどんリクエストしたほうがいい」と言います。
 谷口「一般的な太陽光発電は、発電した電気を電線で送っています。発電した電気をその場で使うには、工事が必要なんです。発電事業者は、地域の人達といい関係を築きたいと思っています。地域にある太陽光発電が災害時に使えるように、オーナーに工事をお願いしたらいいですよ」

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 アーティストとファンが一緒に太陽光を広める『(仮)電力リゾート
  鈴木氏は、政府や行政の人も「太陽光発電でいくしかない」という思いを共有していることを語りました。
 鈴木「巷では、買取制度の価格が安くなる中で、太陽光発電はシュリンクしていくのでは?と言われています。しかし、全然そんなことはないんです。なぜなら、太陽光発電のコストは既に他の電源に比べてもほぼ最安になっている上に、このままでは、電力そのものが足りなくなるからです。原子力発電の見えないコストがどんどん明らかになっています。原子力発電所をつくってきたメーカーだって採算が取れず撤退しています。経済合理性の中で原子力発電には頼れない。その穴埋めをするのは、太陽光発電しかないんです」
  そんな中、盛り上がったのは、いとうせいこう氏が「課長」を務める、みんな電力の新しい取り組み「(仮)電力リゾート」。これはソーラーパネルをバーチャルな「土地」と見立て、アーティストとファンが一緒に「土地」を買っていくことで、太陽光発電を広げていく仕組み。SCOOBIE DOのみなさんも興味津々。

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SCOOBIE DOのみなさんも参加

  例えば、ソーラーパネルを「リゾートのビーチ」に見立て、そのビーチを「いとうせいこうビーチ」と名付ける。ファンはビーチの中に土地を買い、一緒にビーチを成長させていく。それらはテクノロジーの進化により、もっともっと広がる可能性があります。
 大石「アーティストがファンと一緒に太陽光発電を広めていく。もうね『いい話だな』で終わっていい時代じゃないんです。みんなの自分ごとにしていかなきゃ。アーティストもファンも「参加して」いかないと。そのために、『THE SOLAR BUDOKAN』や『(仮)電力リゾート』の果たす役割は大きいと思うんです」
  SCOOBIE DOのメンバーも「このフェスはライブの音がとにかく良いんです。僕たちも、どこまでも音が飛んでいくような気持ちで演奏しています」「僕たち自身も、考える『きっかけ』をいろいろもらえています」と、太陽光発電がそのあり方の前提となっているTHE SOLAR BUDOKAN自体に、特別な思いを持っていることを話してくれました。
  太陽光発電を知ってもらう。それは大事ではありますが、気候危機は待ってくれません。そろそろ「実装」の時代へ進むべきではないでしょうか。そんなことを教えてくれるのが、THE SOLAR BUDOKANなのです。
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葛原 信太郎(特別寄稿)

#フェスティバルウェルビーイング を追求中。
野外フェスの制作オフィス「アースガーデン」で、野外フェスの運営や広報、SNS運営の他、オウンドメディアの運営や執筆、編集を経験後、独立。
フリーランスになってからは「Meet Recruit」や「XD」「greenz.jp」などで執筆する他、野外フェス制作にも携わっている。

来週月曜、本年最後を飾る記事は、今回本文中も触れられたいとうせいこうさん「電力リゾート」進捗ルポです!乞うご期待

 

(取材・文:葛原 信太郎)
2019.12.9 mon.
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