【後編】映画『コスタリカの奇跡』監督に聞く
読みもの|8.12 Sun

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                 メイン画像の中心にきている中米パナマの左、ニカラグアとの間に位置するのがコスタリカ

  映画『コスタリカの奇跡』の日本での公開は、昨今の日本社会の在り方を見るにつけ、何か意味や示唆があるものだったのではないかと感じてしまうものだった。
 ただその背景にも常にアメリカの影があり、何より日本はしっかり自らの考えをもち、空気に支配される社会から脱却し、明確な意思表示をする術を身につけなければならないだろう。そしてそここそ、私たちがコスタリカから学べる部分なのかもしれない。
 「再生可能エネルギー(再エネ)」が根底に持つ、「民主主義」や「平和」、そして「自由」との共通項。その話は、どう閉塞感漂う社会の中で「自由」を勝ち取り、旧態依然とした業界の中で再エネを普及させるのかということに直結する。
 映画で描かれた以上のことまで語っていただいたマシュー・エディー監督独占インタビュー、少しでも多くの方々に届きますように。

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エディー監督はサザン・ユタ大学、社会学の准教授で2児の父。オレゴン大学で社会学の博士課程を2013年に卒業。作品をDVDでご覧になりたい方は → コチラ

 

ーコスタリカのような小国が、どのように国際政治の中で発言権、存在感を維持できているのでしょう?
マシュー 人によっては、「コスタリカは中南米で最大のアメリカの同盟国だ」と言う方もいます。しかし歴史に目をやれば、コスタリカはいくつもの重要局面でアメリカに対峙してきました。イラク戦争では、政府がアメリカ支持に傾きかけたところ、市民が反対デモを起こし、最終的には最高裁に持ち込んで、まだ大学を卒業もしていない若い弁護士が政府を止めたということがありました。
 コスタリカが私たちに教えてくれることは、どんな小国であれアメリカに対して立ち上がり、関係性を壊すことなく、別の道を行くことができるということです。しかもコスタリカはそれを数回実現させています。
 世界中で見られる手法は、大きな権力がテロの脅威を煽り、それによって生まれる恐怖心を利用し、軍事的アクションを正当化する方法です。私たちは、誰かしらがやけに恐怖心を煽る発言を続ける時、注意する必要があります。
 アメリカは911以降「テロとの戦い」を掲げてきましたが、まったく勝利できていないどころか、状況を悪化させています。その意味で、軍事力で暴力を抑えることに失敗している、最悪の前例と言えます。テロの最大の要因は貧困と軍事的な圧力です。アメリカはサウジアラビアにも軍事基地を持ち、それは中東の方々にとって看過し難い現実なのです。
 私が日本に言えることがあるとすると、コスタリカの前例から学べることが多いということです。目的を達成するために外交力、国際法、国連などを含む国際組織などできる限りの協力を仰ぐべきです。
 国連も、大国は確かに強大な権限を持っていますが、本部のあるNYに住む私の知る職員の多くは、組織改善を望んでいます。彼らは、国連でさえ「まだ民主主義が足りていない」と言います。ですからその改善は、小国にとって世界が安全なものとなる、そして軍備に予算を使うべきでないと考える国々が望むことでもあります。
 各国はアメリカの軍事主義に対して立ち上がらないとなりません。それは、アメリカ市民にも言えることです。8500億ドルもの国家予算が軍に投入されていることを国民は知りません。世界の70ヶ国に米軍基地があることだって、ほとんどの国民は知らないのです。米軍が影響を及ぼせる国は100を超えると言います。
 それらの話がメディアに出ることはありません。軍事費と民主主義は相反関係にあり、大きな軍隊を持つ国の民主主義は機能しない傾向にあります。透明性が失われ、多くのことが秘密裏に行われるからです。
ーアメリカ経済の大部分は、軍事産業です。
マシュー 1940年代からアメリカは何かしら戦争や紛争に関わってきましたが、一つとして勝利はありません。そして、もっと大きな問題の一つはあまりにも乖離した経済格差です。これにはトランプ大統領も深く関与し、日本とは比べものにならい規模になります。
 強力なエリートたちが牛耳る国家は、国内のバランスを平等にはしません。そうすると民主主義は、妥協の賜物となります。エリートたちは新兵器を売買し、好き勝手に振舞います。しかも彼らはその現実から離れることすらも自由ですが、しわ寄せを受けるのは自国の一般市民です。
 アメリカには、資金不足で教師がストライキをしている学校が、一州だけでなく何州にも存在します。軍事主義はいつも、民主主義に対する脅威なのです。
 私が劇中で気に入っているセリフの一つに、「中南米においてコスタリカがユニークなのは、その平等性にある」というものがあります。政治が本当に平等な時、私たちは膝を突き合わせて座り、話し合うことができます。

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ーそうしてやっと、自分とは違う個を理解できる。
マシュー そうです。力づくで、話を聞こうともしない姿勢はありえません。ところが現代のアメリカには真っ当な平等性がなく、経済格差がそのまま政治に直結しています。この2つはセットで、トランプ大統領はその状況を加速させています。大変心配される状況です。
ー平和と真っ当な民主主義、フェミニズムと非暴力、そして再生可能エネルギーといったものに、共通項があるような気がします。
マシュー 同意しますし、その逆の共通項というものもあります。
 軍事主義を推し進める人々というのは、たいていの場合古来の男女関係を好みます。フェミニズムは望まず、男性優位の社会を維持しがちです。伝統性、男女関係、軍事主義には強い共通項があり、エリートたちの経済的、政治的な振る舞いと、石炭火力など環境問題を無視する姿勢は根底で繋がっています。それはそのままトランプの言動に現れていますし、民主主義とはかけ離れたものです。
 石炭産業の人々はその復権に喜んでいますが、採掘の実情は悲惨な労働です。危険で、健康を害し、自らの命を削る行為です。それでは何の解決にもなりません。
 原子力発電に関して言えることも、やはりとても民主主義に反しているということです。それは構造的に、ごく少数の専門家を信頼し、頼ることしかできない仕組みなため、意思決定のプロセスに民主主義が入り込む余地がありません。結果として必然的に、市民間に対立をつくりだします。
 対して太陽光発電は、個人宅の屋根や裏庭にソーラーパネルを持ち込むことが可能です。原発のリスクやネガティブな要素について冷静に考えれば、誰もが再エネに賛成ということで一致できるでしょう。こういったことはあなたの会社には、言うまでもないことと思いますが(笑)。
ー日本で再エネを普及させるには、民主主義ではなく、独裁政権が必要だということを言う人もいます。
マシュー 強い権力には、確かに魅力もあります。ただ、長期的にも短期的にも、それは結局誰にとってもよくないことです。民主主義とエネルギーの問題には、興味深い共通項があります。
ー歴史の長い日本では、何事も伝統に紐付きがちです。その意味で、そもそも実際に機能する民主主義が難しいのかもしれません。
マシュー 過去150年ほどを振り返っても、中南米諸国では国境を跨いだ紛争というのは、実はそんなに起きていません。そしてその間に軍隊が何をするかと言うと、自国の民衆の弾圧に動くのです。右翼や左翼、革新的な政治組織、労働組合などがその対象になります。
 繰り返しますが、軍事主義は根本的にアンチ民主主義です。もちろん民主主義はややこしく、複雑です。その点についてノーベル平和賞を受賞したジェーン・アダムスは「民主主義が起こす問題の解決には、常にさらなる民主主義が必要になる」と言っています。ですから、ややこしいのは大前提で「諦めるな」ということです。だって、そもそも人生は複雑なものですよね。

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監督の来日中TBSサンデーモーニングの取材もあり、名物コーナー「風をよむ」に登場。画像はノーベル平和賞を受賞したオスカル・アリアス・サンチェス元大統領

ー約450万人という人口も、ホセ・フィゲーレスやオスカル・アリアス・サンチェス元大統領に率いられ、コスタリカがコスタリカでいられる理由の一つでしょうか。
マシュー 確かに、「Small is Beautiful」という言い方もあります(笑)。小国には相互扶助力があり、連帯もしやすく、エリートたちの力もそこまで大きくありません。小国であることは確かにコスタリカの利点と言えるでしょうが、大国にもコスタリカから学べることは多くあるでしょう。
 もう一つコスタリカの幸運は、標高が高いということです。夏場もエアコンが必要なく、それでいて海も近く、とても暮らしやすい気候です。ということは、そもそもエネルギーをあまり使わないまま生活ができるのです。
 経済的には、多くの中流階級をつくりだすことは重要です。日本もかつてはそうだったのが、少しずつアメリカのような大きな格差社会へ向かっていっています。今日のアメリカでは、若者に資本主義に対する深い疑いをもっている層がいます。
 これはとても革命的なことです。私たちは幼少期からこれが至高の社会システムだと教わりながら育ち、そして人々は今、それによって疲弊しだしています。いい仕事は見つからず、生きる上での不安を拭えません。
 その時にコスタリカがしたことは、「私たちは社会全体のセキュリティを定義し直します」ということでした。そうして、教育と保険制度にテコ入れをしました。アメリカで「セキュリティ」と言うと、テロとの戦いや「国境に壁を立てろ」となってしまう。それはエリートのためのビジネスにはなりますが、市民にとっての本当のセキュリティではありません。

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ーあなたは「コスタリカを世界に伝えなければ」という想いでこの映画をつくったと仰いましたが、まるで今の日本に向けられてつくられたように感じました。
マシュー これまでパリやロンドン、NYやシカゴで上映してきましたが、アメリカ社会は軍事主義に洗脳されていてメッセージが無視されがちです。日本にはまだ、心に解放されている部分があるのだと思います。
 興味深いのは、日本が憲法に倣って軍隊を持たない”実験”を始めたのは1947年、コスタリカの軍隊破棄は1948年です。この70年間で両国がどのような道を辿ってきたか、考えてみることは面白いかもしれません。
ー太平洋を挟んで隣同士とも言える2つの国ですが、その在り方は乖離する一方にも見えます。
マシュー 勇気付けられるのは、この映画と共に世界を旅していると、たくさんの人々が軍事主義が問題解決ではないと考えているのがわかることです。
 戦争は市民を傷つけるだけです。意思決定をするエリートたちは無傷で、富裕層なまま現場を離れます。しかし彼らがいくら何事もなかったかのように振る舞っても、道徳的な問いが一生つきまといます。
 軍事主義と格差社会は常にセットです。平和と民主主義、そして自由を信じる立場としては、まだまだやることがあります。トランプはベトナム戦争を超えるほどの金額を軍事費として投入していますが、それは必要のない資金です。
 日本にも是非、うまく国連の力を借りながら、アメリカに対しても立ち上がっていただきたいと思っています。

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エディー監督は博士論文で、コスタリカの歴史や非暴力的なその国民性について言及。本作品撮影のために3年間を費やしデータ収集、インタビューを敢行した

 

エディー監督のお話、いかがだったでしょうか。映画は横浜シネマリンで8/12(日)~17(金)、再々上映中
来週月曜には、新たなインタビュー記事が公開です。

 

(取材:平井有太)
2018.4.26 thu.
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