【第2回】江守正多|コロナと気候変動、その共通点と相違点
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コロナという新型ウイルスの登場に、私たち人間の経済活動、環境破壊が関係しているのは、どうやら世界の研究者たちが同意するところということは、見えてきた。では、それに対する対策が同じかというと、「そこには明確な違いがあるのではないか?」。そのことを、江守先生は指摘されます。
コロナ対策である「接触削減」や「ステイホーム」の根底にあるのは、「我慢」という姿勢。しかし気候変動対策の本質はそうではないはず。
CO2排出をより抑制することの理解で大切なのは、それがとても「前向きな社会システムのアップデート」にあること。ではそれには、広くあらゆる人に問題について語りかけることが有効なのか、または狙いを定め、ピンポイントの啓蒙活動が必要か。
地球温暖化の将来予測とリスク論を専門家として、先生が長く問題と向き合ってきたからこその示唆に富む問題定義。
コロナが去った後の社会に想いを馳せ、一緒に考えましょう。
これをさらに突き詰めて考えると、グローバル経済でこれだけ人とモノが移動している中、その過程でどれだけCO2を出さないようにできても、知らぬうちに外来生物やウイルスを運んでいるかもしれません。それに「経済システム自体を変えないとならない」となると、それはさらに別のテーマの話になっていきます。
その議論は別途必要です。単にエネルギーを脱炭素化できれば「世の中のサステナビリティは全部OKか」というと、実はそんなことは全然ありません。
江守先生のテレワークのお供、ネコちゃんが映ってます
現実に、今の資本主義経済やグローバル経済そのものをどう見直すかという議論になり始めているところもあると思います。
ただ僕はコロナの状況になる前、そういった話を自分では強調してきませんでした。それは、社会の経済システムを本当によく変えることができて、かつ温暖化も止まるとしたら、それは成功すれば素晴らしいことです。ただ、経済システムを変えるにあたって、世の中にはものすごく多様な意見を持っている人たちがいます。
例えば一番わかりやすいのは、アメリカの大統領選を見れば、まず共和党と民主党がいます。共和党にはトランプ大統領がいて、民主党も最近大統領候補は「中道」のバイデンに一本化されましたが、ついこの間までは候補者の中に「左派」と言われる人たちがいて、「経済システムをどうするか」という点で対立していました。
もしも民主党で、バーニー・サンダースみたいな人が候補者争いに勝って、大統領選でも実際に勝って大統領になり、しかも議会も民主党が過半数をとって、それで万が一サンダースが言うような社会が実現すれば経済システムが変わったと思います。しかし、世の中にはそうじゃない考え方の人がたくさんいるので、なかなかそうはならない。
もし私たちが、このまま対策を打たないで突き進むと、地球上は生物の住める環境ではなくなるというのは、火を見るよりも明らかだ
ですから僕は、いろいろな考え方の人が相乗りできるようなかたちで対策が進む、「この方が現実味があるな」という、長い間そういった考えでここまできました。
でも今コロナの影響で、グローバル経済の弊害みたいなものに対して世界の人々が深刻に認識し始めました。もしかしたらそういった大きなシステムの見直しみたいな議論が、これからより現実味を持つかもしれません。
そしてそうなると、気候変動の問題も、その中でもっと考えていくべきという風になるかもしれないです。今はそういうことを考えています。
海も川も森も空気も人間も全部繋がってる。温室効果ガスの増加も未知のウイルスの出現も、繋がりの中から生まれている
そういう風に、「全部が繋がっているんだよ」ということでみんなが腹落ちすれば、暮らし方も変わるはず。
現実に、お金が主なきっかけとはいえ、すでに主婦たちの中には「電気代を見直そう」、「携帯料金を見直そう」という動きがあります。そしてそこに説得材料さえあれば、「CO2を減らす方向に転換してみよう」となる人も一定数はいると思います。
コロナには誰もが関心を持たざるをえなくなりましたが、気候の問題は、異常気象が自分を直撃しない限りは他人事です。エネルギーの話は、興味がなければ「難しい話ですね」ということで終わってしまう。社会は現実にそうですし、コロナが過ぎ去れば「持続可能性」みたいな話も皆さん忘れてしまう(笑)。
逆に言うと問題は、「どうやって本質的な関心を持つ人を社会の中で3.5%つくるか」ということなのです。みんながちょっとずつ関心を持ち、ちょっとずつ省エネしたりプラスチックを使わないようにしても、この問題は本質的に解決されません。
「本質的な関心を持つ人」というのは、例えば「気候変動が本当に、自分や大切な人の生命に関わるような脅威である」とすごく思った人。あるいは、「気候変動は将来世代や途上国の人々を、その人たちが全然CO2を出していないのにすごく苦しめるから、倫理的に許せない」と強く思った人。または、「気候変動を何とかするため、脱炭素化のためなら人生を賭けてその仕事をしよう」と思った人という、とにかく強烈なコミットメントを気候変動に持てる人口が3.5%になれば、社会は変わるんじゃないかと思うんです。
例えばアメリカを見ていると、環境に特にアンテナを立てて強い発信をしているレオナルド・ディカプリオみたいな人がいます。またはイギリスでも、エクスティンクション・リベリオンのデモで著名人が逮捕されたり、欧米ではそういうことがあります。でもそれは日本にはない。政治家も、そこまで強い関心を持っている方というのは、いるかどうかもわからない。
環境NGOにそういう人はいますが、そもそも社会にあまり存在を知られていないし、知られていたとしても「自分とは関係のない、極端な考えの人たち」という風に思われてしまうんじゃないかということで、日本ではあまり広がっていません。
対して日本では、参加者は5000人でした。全然足りてない(笑)。
ですから3.5%の人たちがもし関心を持つと、政治システムに働きかけるでしょうし、経済システムに対しても然りで、そのことで制度やシステムが変わるでしょう。そうすると残りの96.5%の人たちは、別にそんなことに関心を持たなくても、仕組みが変わっちゃったので、もう勝手にC02を減らすしかなくなります。
すべての電力会社が再エネ100%になれば、再エネを使う以外はなくなります。車も電気自動車しか売っていなければそれを買うことになるし、家を建てようと思ってZEHしかなければ、ZEHを建てることになります。
そして、そういう社会システムにするために積極的に後押しをする、「本質的な興味を持った人」がある程度必要ということです。最近僕は、じゃあ「そこを目指すべきじゃないか」ということを考えています。
江守正多
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。2018年より地球環境研究センター 副センター長。社会対話・協働推進オフィス(Twitter @taiwa_kankyo)代表。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』 (角川SSC新書、2013)、『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(化学同人、2008)、共著書に『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』(技術評論社、2012)『温暖化論のホンネ』(技術評論社、2009)等
気候変動の話は単に「クリーンなエネルギーを使おう」でもなく、本質的な変化のためには、むしろそれとは関係のない
「頭にお金儲けしかない人々にも響くようなストーリーが必要」と語る江守先生。最終回は14日(木)に公開です