2018.03.15
みんなのデータサイトの一員としての「LUSH SUMMIT 2018」参加から、素直な驚きと感心をそのまま株式会社ラッシュジャパンのお2人にぶつけたインタビュー、遂に最終回。話は「無関心への処方箋」からはじまり、LUSHという組織の素の姿について。 自らの組織を「バスタブ型」と呼ぶそうで、それはつまりピラミッドの真逆。トップの判断が下に降りていくのではなく、バスタブ型の上にいるお客様からショップスタッフ、ショップマネージャーからオフィススタッフ、製造チーム、そして経営陣や創立者にアイディアや想いが伝わっていく組織の在り方。つまり皺寄せが現場に押し付けられるのではなく、むしろ会社の経営陣や上層部が皺寄せを解決する立場にある。 そんな組織の在り方にせよ、社会問題の提議と共有方法にせよ、「所詮理想」と思っていたことが目の前で実現されていた、その根っこに迫るお話、「未来に向けた希望」として読んでいただければと願います。
メイン写真のボートは難民問題の象徴として、
上の写真のプレハブ壁には「黒人女性のレイプ問題」フラッグ、「賃金カットに反対する障害者たち」スプレー
スプレーで「賃金カットに反対する障害者たち」と描かれた壁の内側
ーこれまでの取り組みで、「無関心」に一番効いたものってありますか?
3フロアあった地下では海についての問題提議。ペットボトルによる汚染を想起させるインスタレーション
細野 それは今でも課題です。「上手くいったかな」と思うところでは、それぞれが自分ごと化できるように、個人の関心ごとと結びつくために現場に来ていただくとか、話をしてもらうとか、一応成功例もあるにはあるんです。でも、それ以外にもし特効薬みたいなものがあるんだったら、それはすぐにでもやりたい(笑)。それくらい「無関心」の問題は、本当に難しいと思います。 本当はもう、そこに住む人間たちがそこの生活においていい方向に行ける解決策があって、それをみんながエイッとできれば10年かかる問題をすぐ解決できたりする力もすでにあるのに、現実はなかなかそうはいきません。特効薬があれば是非やりたいと思いますが、全然見当たりませんね。
会場には何カ所もトークブースがつくられ、テーマごとに人が集まっていた
ーLUSHのように、ある意味スタイリッシュに社会問題を扱うことで、批判的な声が聞こえてくることもあるんでしょうか? 細野 何にしても、様々な意見はあると思います。 丸田 意見はあります。そしてその意見というのは、あるイシューに対しての個々人の想いや考え方といったものが、頭に浮かびます。 例えば「化粧品のための動物実験反対!」というブランドメッセージをショップで発信していたキャンペーン期間中に、動物実験従事者である方などから、「そんなに簡単なことじゃない」というお声をいただいたことがあります。 他には以前、「LGBT支援宣言」というメッセージで、「誰もが自分らしく生きられる社会を」というメッセージをキャンペーンとして展開していた時、当事者のご家族の方からお電話をいただいて、「自分の気持ちなんかわからないだろう」と私たちに伝えてくださったということがありました。それに対して私たちは、真摯に「こういう想い、ビジョンを持ってキャンペーンを実施しています。お声を届けていただいてありがとうございます」としか言えませんでした。いろいろな声をいただくということは、いつもあります。声を届けてくださるということは、むしろ嬉しいことなんです。 それがあるからこそ、学びがあり、新しいアイディアが生まれます。だから「いい声しか届かなかった」ということはないですし、そもそも「反応がなかったな」という取り組みもあります。
ペットボトルの蓋を溶かして、オリジナルのアクセサリーをつくることができるブース
ーそれが一番つらいのかもしれません。 細野 その時が、つらいです、、 丸田 悔しい想いもたくさんしています。 細野 何か言ってくれた方が、例えば原材料調達にしても、今の福島とのつながり方だって僕らも今の形がベストだとなくて、常にベターな形を模索しています。いろいろ言ってくださった方が改善できますので。それより、社内にモチベーションの高い人が多いので、そのおかげで続けてこれているというか。 丸田 こういう場所で会うグローバルメンバーの中に、よく一緒に仕事する同世代のイタリア人の同僚がいます。彼は社歴が15年程あり、大先輩ですが、いつも私にいいハッパをかけてくれます。「もっとできるだろう?」とチャレンジしてきてくれたり、でもたまにこっそり「これどう思う?」と頼ってきてくれたり、そういう、いろいろな意味でのインスピレーションが社内にあります。 アイディアと想い、伝えたいことを抱えている人は、特に欧米のラッシュ社員に多いのかと思うかもしれませんが、日本のメンバーにも、「想いが強い」というか「変わった人」がいっぱいます(笑)。ですから、常にそういう刺激が絶えないし、日常的に「もっと、私たちに何ができる?」という話をする雰囲気が社内にはあります。 ーあとは、純粋にお金の使い方が格好いいと思いました。巨大でグローバルな、しかもスタイリッシュに社会問題を話し合う場づくりに、すごい経費をかけるという。
丸田 繰り返しますが、これは社内研修の一環です。私たちは広告を一切うたないので、その分原材料と人にお金をかけます。 ー広告はまったくうたない? 丸田 そこは昔から変わらない、LUSHのポリシーです。 ー人を繋げ、育て、社会意識をそれぞれ多様に喚起させ、ということを世界中の企業がやっていたら、それだけで今の世界がずいぶん変わりそうな気がします。 丸田 私もLUSHの中の人間ではありますが、客観的に見て「変わってるな」と思います。同時に、「すごいな」とも思います。 ーこのかたちはイギリスにおいても、珍しいですよね? 細野 そうですね。 丸田 そうだと思います。一つには社員を家族のように迎え入れるということがある気がします。「上場はしない」とずっと言ってきています。創立者も、一度LUSHに入ったら、その中で自分の可能性やキャリアを見つけてくれればいいということで、「どんどんチャレンジしなさい」ということを言います。 ー皆さんと創立者の方々は、近い関係なんでしょうか?
お話を伺った、株式会社ラッシュジャパンのブランドコミュニケーション・丸田千果さん(左)、バイヤー・細野隆さん(右)
丸田 創立者は、普通に「ハーイ!」と声をかける近い関係ですね。 細野 気さくですよね。そこら辺を普通に歩いてるし、声もかけてくれる。 ーお話を伺っていて、やはり一つの新しい企業のかたちなような気がします。
1階にあったメインステージ。
常にTEDトークのようなセッションが行われ、ここで「みんなのデータサイト」としての報告もさせていただいた
丸田 確かにユニークな会社かもしれません。でも、LUSHにできることってまだいっぱいあって、他の企業さんにできることもいっぱいあって、その中で「LUSHって変わってるから、いろいろできるよね」って思われるとしたら、そうではないと思います。 細野 今は大手も含め、どこも企業活動の中で環境への配慮、責任ある資源の使い方を掲げてるし、やり方の違いだけであって、このやり方だけが特に素晴らしいわけでもないし、他の企業さんが悪いわけでもないと思います。 丸田 私自身も一消費者であるので、消費者として、ラッシュ含め、その企業がどんな姿勢、気持ちで、どんな取り組みをしているのかは自ずと伝わってくることだと思います。 そして、それが本気じゃなかった時の信頼の失墜って、すごく早いと思います。だから、一企業だけれども個人として付き合うというか、何よりも目の前の人を大切にしていきたい。 ー「LUSH」の、そもそもの意味は何ですか?
丸田 何かの頭文字ではなく、「青々しい」とか「みずみずしい」という言葉本来の意味です。この名前、実は、お客様がつけてくれたものです。あとは、スラング的に「酔っぱらった女性」という意味もあって、そういう遊び心を創立者が気に入って決まりました。 それもLUSHの、お客様の声を大切にしながら「みんなでつくっていこうよ」という会社としての姿勢が表れている、私が好きなエピソードの一つです。
夜の「LUSH SUMMIT 2018」会場
エクスクルーシヴ・ロンドン取材、いかがだったでしょうか。 LUSHのような会社が増えていくことを願いつつ、来週月曜には新記事が公開です
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など https://www.facebook.com/dojo.screening Twitter @soilscreening
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