2017.10.22
場所は千葉の匝瑳(そうさ)市。 知らなければ読むことも難しいその土地で、日本の農業とエネルギーを一気に、躍動する未来へ導くポテンシャルを内包した取り組みが始まっている。 それが、「ソーラーシェアリング」。 そもそも農業と電力は、ともに自然の恵みを根源として、私たちの家庭に届けられている。そこに共通項があるのなら、作物と電力の共存を促し、同じ場所でつくり出そうという実践が「ソーラーシェアリング」と呼べるかもしれない。そしてそれは同時に、耕作放棄地や農家の後継者不足、天然資源が乏しいとされる日本のエネルギー事情を救う、起死回生の施策なのかもしれないのだ。 取り組みを率いるのは、キャッチフレーズに「自然をエネルギーに エネルギーを未来に」を掲げる千葉エコ・エネルギー株式会社。千葉大学の研究員の立場から現場に飛び込み、日本の未来を明るく照らすべく邁進する、馬上丈司代表に話を聞いた。
近づくとその大きさがよくわかる。日本最大級の地域主導型ソーラーシェアリング、匝瑳メガ・ソーラーシェアリング 第1発電所
匝瑳飯塚 Sola Share 1号機地鎮祭。
ここから、飯塚開畑地区のソーラーシェアリング・プロジェクトは大きく動き出した。写真中央が馬上氏
ーソーラーシェアリングといって、一般的にはまだまだご存知ない方が多いと思います。まず、どのようなものか。そしてなぜ始めたのか、教えてください。 馬上 ソーラーシェアリングは、水田や畑で農業と太陽光発電を両立させる仕組みです。これまでは農地を潰して、野立ての太陽光発電所が作られるばかりでした。しかしソーラーシェアリングの普及によって土地を農地として作物を生産しながら、その上に支柱を立てて太陽光発電を行い、これまでにない農地の活用が出来るようになりました。 取り組みの背景として、今の日本の農業が衰退著しく、全国約190万人の農業従事者の平均年齢は67歳、これに対して若手の新規就農者は毎年2万人にとどまっています。農林水産省の調査では、新規就農が進まない一番の理由として「所得の少なさ」が挙げられています。ソーラーシェアリングでは、太陽光発電事業によって安定した収入を農業者の方が得ることができ、それによって農業経営の安定化を図ることが出来ます。 また、農地を潰してしまう太陽光発電が増えると、自然エネルギーを作るために食料生産基盤を損なうという、わが国にとっての矛盾が生じてしまいます。 こういった問題を解消するために、私たちはソーラーシェアリングに取り組んでいます。 ーどれくらいの規模で発電をしていますか? 馬上 自社で取り組んでいるのは、今年の秋までに運転を開始しているものが約200kWpで、計画中のものが約1,300kWpあるほか、事業パートナーとの共同計画事業も複数あります。 千葉県匝瑳(そうさ)市では、地元農業者が主体となったメガ・ソーラーシェアリング(1,198kWp)にも出資しています。
匝瑳飯塚 Sola Share 1号機と、その下で繁茂するコイトザイライ大豆。
大豆は手がかからないので、広い土地で少人数での栽培に向いている
ーその電力量は、一般家庭の生活において考えると、どれくらいでしょうか?また、金額に換算するといくらくらいなのでしょうか? 馬上 メガ・ソーラーシェアリングまで含めれば、一般家庭約330世帯分の電力量で、金額に換算すると年間5,000万円以上になります。 ーなぜ「匝瑳市」なんでしょう? 馬上 匝瑳市の飯塚開畑地区というところに、国の事業として大規模に開墾された農地があります。この農地は山を崩し、谷を埋め立てて造成されたため地力が低く、畑としての生産性が上がらない中で地権者の高齢化も進み、このままではほとんどの農地が耕作放棄地となってしまうと懸念されていました。 そんな中で、地元の農業者の方々が中心となってソーラーシェアリングによる農業再生に取り組まれており、ご縁があって私たちもプロジェクトに協力させていただくことになったのが始まりです。
視察時の様子。手前の青いシャツが、馬上氏。農地として再生した、メガソーラーシェアリング下の畑
ーその、ソーラーシェアリングを実施されている”地力が低い”農地で、何を栽培していますか?うまくいっているのでしょうか。 馬上 飯塚開畑地区のソーラーシェアリング設備では、現在大豆や麦を中心とした穀物を栽培しています。地区内で最初に設置された設備は2014年に完成していて、3年にわたり作物の栽培が行われてきましたが、毎年の収穫量は設備のない畑と遜色ない水準になっています。品質も同様です。
成長中の大豆と、均一に落ちる太陽光パネルの影。
厳密には今も研究中ながら、ソーラーシェアリングのパネルは農作物の育成に影響を与えないとされる
ー今後、どのような作物をつくっていく計画でしょうか? 馬上 飯塚開畑地区のソーラーシェアリング設備での農業は、耕作放棄地を再生することに重点を置いていて、まずは大規模な面積で安定的に栽培できる大豆や麦といった穀物を引き続きつくっていきます。また、その中で有機JAS認証の取得も目指す取り組みを進めています。大豆は千葉県の在来種や地域に根付いた品種を栽培し、麦は小麦や大麦だけでなくビール麦をつくろうという話も出ているところです。農業の六次産業化ということが言われますが、少なくとも加工までは地元で手がけられるような作物をつくっていきたいと考えています。 ー耕作放棄地は全国的な問題です。また、例えば福島県では原発事故以降、特に耕作放棄地が増えたとも聞いています。ソーラーシェアリングはそういった問題に対しても、有効な対策といえますか? 馬上 福島県でも、南相馬市や飯舘村などソーラーシェアリングに熱心に取り組む方々のいる地域があります。 様々な理由で耕作放棄地が増えていますが、発電事業による収益を活用することで農地の保全が図られたり、新しい農業に取り組んだりすることができています。 飯塚地区のソーラーシェアリング・プロジェクトでは、1年間で約4.5haの耕作放棄地を畑に戻して農業を再開することができました。これは、従来とられてきた様々な耕作放棄地解消のための制度・施策では成し得なかった、ソーラーシェアリングだからこそ得られた成果だと思います。このような成果を目の当たりにすると、ソーラーシェリングが持つ農業振興への大きな可能性が感じられます。
ソーラーシェアリング・プロジェクトが進む、匝瑳市飯塚開畑地区の全景。山を削って切り拓かれた農地は農業者を必要としている
次回へ続く(全3回)
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など https://www.facebook.com/dojo.screening Twitter @soilscreening
あなたの気になるモノゴト、タドリストがタドって
記事にします。リクエストをお待ちしております!