2016.06.07
ベルリンを拠点に活動する世界的アーティスト、オラファー・エリアソンの作品「リトル・サン」から膨らんでいった、電力にまつわるお話。 現在、4月に始まった電力自由化に合わせて実際に電力を替えた家庭の数は、やっと1%を超えたところ。日本社会の歴史上初となる事例にすぐ反応できたのは、やはり表現を生業とする方が多いのかもしれないし、アートがそれを社会に定着させる力を内包しているのは、紛れもない事実かもしれません。 今回展開していくお話は、草野夫妻のルーツに触れるお話から、電力の自由化に見出されている可能性まで。
——では、お2人の足並みは揃われているとして、例えば草野(象)さんは職業柄お会いする人も多いかと思います。一般社会との関わりの中での「足並み」は、いかがでしょう? 草野千津子(以下、千) 「足並み」が揃っているわけではない、と思います。だから、例えばデモにもしょっちゅう行ったりもしてるんだけど、いつも温度差を感じて、がっかりして帰ってくることはよくあります。デモに行かない人たちは、「行っても何にも変わんねえよ」という感じなんですよね。でも私は違って、そこに行くことによって、自分自身が得ることもあるんです。「肌で感じること」を私は一番大事にしているので、そう考えると温度差はすごい感じますね。 草野象(以下、象) 僕は、デモには2回くらいしか行ってないんですが、普段仕事とかを介して触れ合う人はアクションしている人が多いと思うんです。それは「抗議する」ということだけじゃなくて「表現する」、「発言し続ける」、「考え続ける」ことを止めないという意味で。ただ、みんながやっぱり個性的なので、方法論も違うし、志向性も違います。 ——今の段階で「何が正しいか」ということは、誰もわからない。 象 でも「何が正しいか」ということは置いておいて、とにかく「行動しよう」、「表現しよう」という人は当然アーティストや写真家に多いし、そこで議論も起こってるし、そういうのを僕は「横目で見ている」という感じですね。 千 私はその中にどっぷり入っちゃっている感じです。 象 そういう意味では、僕よりもいろいろな現場の空気を、彼女は知っていますね。 ——それは、もともとの気質でしょうか、、? 千 それは、私の叔父の2人が障がいをもっていて。1人は片足義足で、もう1人は全盲。それで、昔から一緒に散歩とかをしていると、健常者の眼というものが、すごいんです。それは、例えばバスを乗る時に時間がかかってしまう時の空気というか、エレベーターでも「遅い」という。 そういう「壁」って実は健常者がつくっていて、その時に叔父2人は「すみません」って、本来なら謝る必要はないはずなのに。だから、弱いものに対して社会は常に、それがストレス発散なのか理由はわかりませんが、小さい時から自分の生活の中で感じてきたことでした。「なんだか、この日本の社会は変だな」って、そのことが大人になってわかるようになって。 ——ベースには、長い間漠然と、社会に対する釈然としない気持ちがあった。 千 ずっとありましたね。「何かがおかしい」って。 ——いろいろなことが起きて、その中で、お2人の足並みは自然に揃われた。 千 草野の場合は、両親が熱心に原発反対のデモに、、 象 年配の方はある意味過激ですよね(笑)。「ブレがない」というか。 ——お2人ともに、必然性がある。 象 僕の場合はでも、それは直接的な繋がりとは違うと思っています。 千 私は父を10年前、急性心筋梗塞で突然亡くしたので、それは今でもひきずっています。だから人の死というものは、目の前で倒れて亡くなると、それはまさに天国から地獄という感じで、それから「死」とかについても考えることになったかもしれません。 ——そういう中で、この、ある意味突然降って湧いたかのような「電力自由化」を、どのように受け止めていますか? 千 私は大賛成で、それは普段の買い物と同じで「選べる自由」ってあって当然と思うから。私は東電に関しては、どうしても納得できない部分がやっぱりあって、それなら「この電力自由化をおおいに使おうじゃないの」と。 でもまわりの人は、東電がどうのこうのと言う口ばかりで、実際に変えている人となるとほとんどいないんですよ。 ——現状では首都圏で0.8%、全国的には1.3%という数字を聞きます。 千 私は、「これはチャンスだ」と。「自分が納得できない電力会社を使うのはうんざりだ」と思ってきて、納得できる電力会社を使いたいって。 以前から私は、「みんな電力」を知っていたので。
象 僕より前に知っていたんです。 千 もともとすごい興味と関心はあって、でも「使えないよな」と思っていて、当時はtwitterをやっていてなぜか保坂(展人)世田谷区長にフォローされ(笑)、それで区長が出る国際フォーラムのイベントに行ってみたりとか、それで「みん電」さんのことも、2年くらい前から知っていて。 当時は詳しいことはよくわかっていなかったんですが、ただ「ここ、いいな」と思っていたので、「電力自由化になる」って聞いたら、もうみん電さんしか選択肢がなかった(笑)。 象 一応、他のところも調べてはみたんです。 千 大手の会社とか、いろんなところも調べてみたんですが、大きな会社さんは、いまいち全貌が見えないんですよね。私はその「見えない」ことが嫌で、それがみん電さんだと、見える感じがする。 ——それこそ、「顔が見える電力」をうたっています。 千 だから、有機栽培の美味しい作物で、「つくった農家さんの顔が見える」というのと同じような感覚なんです。 ——草野(象)さんは、電力自由化をどのように受け止めましたか? 象 僕の場合は、もうちょっと「面白さ」というか。「いろいろな選択肢がある」というのは彼女が言ったとおりなんですが、これから可能性があるエネルギーの「つくり方」、あるいは「使い方」みたいなことが面白んじゃないかなと。 これは今までも、今もそうなんですが、一定量の電力が確実に確保されていて、それが安定的に供給されている。そして「値段も安い方がいい」というのが一応のスタンダードというか、「皆さん、それでいいでしょう?」となっているじゃないですか。 でも例えば、太陽エネルギーとか風力とか、これから発展していくエネルギーを使う時に、「同じような受け止め方でいいのかな?」と思うわけです。一日のうち、「この時間は電気を使えません」みたいになっても、それはそれで「いいんじゃないのかな?」とか。それはもちろん場所や状況にもよるんですが、常に電力がなければ生きていけない生活を、そうじゃない生活に「シフトしていく」というのも「一つの進歩」なんじゃないかと。 そういう考え方が頭にチラッと浮かんだら、やっぱりエネルギーは多様な方法でつくれた方がいいし、それを選択する人も、自分が「これだったらいい」と思う方法を選べばいいし、さらに言うと、もし自分で電力、あるいはエネルギーをある程度自給自足できるんだったら、「その工夫も面白いな」って。 ——オフグリッド生活ということですね。 象 だから、その時に、リー“スクラッチ”ペリーさんの動画がかなりガツンときたというか(笑)。要するに、「人が一人生きていくんだったら、あのジャケット(solamakiウェア)があったら、やっていけるんじゃない?」って。
それは、坂口(恭平)君が言ってる「モバイルハウス」みたいな考え方に近いかもしれない。彼の場合は、「『土地』というグリッドから『住む』という行為を分離してみよう」という提案だと思うんです。僕らはじゃあ、「『電力網』というグリッドから、『エネルギーを使っておこなっている生活』を一度切り離すと、面白いんじゃないか?」と思ったんです。 たぶんそれは、グループの単位が小さければ小さいほど可能性が増してくる話なんじゃないかと思って。それは暮らし方とか、例えば他の人たちとのコミュニケーションといった結びつきが、ガラッと変わっていくんじゃないかと。 だから、エネルギーのことを考えると、今ちょっとこう「固着しちゃった」社会の在り方に、少しでも隙間が見えてくるんじゃないか。「そこが面白いな」と思って。 ——もともとなかったものだし。 千 だから家に、「もっと『リトル・サン』を買っておこうかな」みたいな(笑)。 象 電力が生まれたのって、そんなに大昔の話じゃないわけです。テクノロジーを肯定すると、三段論法的に「じゃあ、原子力もOKでしょう」みたいになるじゃないですか。 「人間が科学的な技術を発展させていった過程に出てきたエネルギーのつくり方が原子力なんだったら、それを否定するのは人類の進歩を否定することだ」ということを言う人もいるんだけど、「そうじゃない方向に洗練されたテクノロジーを発展させるのも人類の進歩だ」と僕は思っています。 だったら、「そっちの方にエネルギーを使いたいな」と思うんですよね。 次回、13日の更新で草野夫妻のお話は最終回となる、PEOPLEプラチナム連載「ある夫妻と電力の自由化」。 ENECT(エネクト)はこれからも、草野さんの仰る「面白さ」を意識しながら、それぞれが自ら考え、選択するきっかけを提案すべく、全方向への奔走を続けます。
写真:吉岡希鼓斗
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など https://www.facebook.com/dojo.screening Twitter @soilscreening
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