【初回】ACE × 華井和代|エシカルでフェアなバッテリーをつくる
ACEの皆さん、華井先生、そしてみんな電力・大石代表とスタッフによってトーク(勉強会)企画は配信された
もちろんその代表格は、ブロックチェーンを使って電気のトレーサビリティを実現し、エネルギーの作り手と使い手の新しい繋がりを創出する取り組み。そして最近はコロナ禍もあり、空気中にある菌を見える化し、紫外線を殺菌したり、入れ替えをして改善する「顔の見える空気=みんなエアー」までをも手がけ、話題となっている。
そういった取り組みの次に控えるのが、バッテリーだ。
今やスマートフォンは老若男女、誰もが使うもの。パソコンはもちろん、IT機器の中には希少鉱物がたくさん使われている。家の子ども用TVゲームやタブレット、増えてきた電気自動車にだって、鉱物は入っている。もしそれらが結果的に、鉱物産出国の子どもたちの不幸に繋がっているのなら、改善すべきポイントはそこにある。
だからみんでんは、子ども・若者が自らの意志で人生や社会を築ける社会の実現を目指し活動する認定NPO法人ACE・岩附由香代表と、コンゴの紛争資源問題と消費者の責任について研究をされている華井和代先生を招いて、公開の勉強会を開催した。
すべては知るところから。
全4回の最初の2回はまず、ある意味で、この問題の基礎知識のための授業です。
インドの人権活動家、カイラシュ・サティヤルティ氏が呼び掛け世界的なムーブメントになった、児童労働に反対するグローバルマーチへの参加を目的に、1997年に学生5人で始めた。右下が当時の岩附さん。
(*カイラシュ・サティヤルティ氏は、その後2014年にパキスタンのマララ・ユスフサイさんとともにノーベル平和賞を同時受賞。いまでもACEにとってメンター的な存在)
ACEはインドとガーナの計28村で、2360人の子どもを児童労働から解放、約13500人の教育を支援。世界で1億5200万人の「児童労働」にフォーカス。インドとガーナでプロジェクト運営。
「スマイルガーナプロジェクト」は、地域のリソースを活用して、能力を開発し、自立を促進する。
その中で、もし児童労働があっても問題が解決できる仕組みを機能させるプログラムの実績が認められて、ガーナ政府と「Child Labour Free Zone(児童労働のない地域)」認証制度の構築をはじめている。
きちんと取り組みさえすれば、実際に児童労働はなくせる確信を持っているし、そこに企業や消費者を巻き込んでいくことが重要。(岩附)
その児童労働に関する、3つの条約がある。
「子どもの権利条約」、「最低年齢条約」(働けるのは義務教育終了以降)、「最悪の形態の児童労働に関する条約」。
それらは日本も締結批准済みで、18歳未満の子どもの健康、精神、社会的発達を妨げる労働は禁止されている。
そういった労働は、一応2000年から減少傾向にはあった。(岩附)
原因は親の収入減、借金の増加で、学校が再開しても学校に戻らないケースが危惧される。
貧困が1%増えると、児童労働は0.7%増えるとの推計をUNICEFとILOによる共同報告書が紹介しており、これまで減少傾向にあった児童労働が増加に転じる状況に。(岩附)
価格の抑制、コスト削減、「安いものを買いたい」という消費者意識が作用し、それが結果として子どもの学校へのアクセスを難しくし、行けたとしても不十分な設備、教員不足という問題が残る。(岩附)
児童労働はサプライチェーンの上で発生する。つまりそこでは、人権問題が企業に問われている。
ACEは、SDGsの8.7にある「児童労働、強制労働、現代の奴隷制、人身取引等の撤廃」を目的に、大企業や多国籍企業の持続可能な取り組みの報告の奨励をしている。
特に原料部分に児童労働は多く見受けられ、国際的な流れの中でESG投資も拡大し、中でも児童問題は重要視されているため、むしろ企業にとってはリスクになりうる領域。(岩附)
岩附さん曰く、「生産と消費。企業や政府が買うものが、どれだけサステナブルにできるかが問われている」。
世界的な生産量シェアも大きく、4万人の子どもが児童労働に関わっているとされる。
コバルトとは、スマホのような、誰もが使う電子機器の原材料。まさに人権に配慮した調達が必須な領域である。(岩附)
サプライチェーンは世界中に展開しているため、調査もグローバルな規模で行われる。(華井)
問題が深刻なのは「小規模手掘り鉱」の方。
企業は手掘り鉱には関与しない。取引所に運ばれてきた鉱石を買う。
本来は鉱業法で手掘り採掘地域が決められているが、実際は鉱脈があるところならどこでも掘る。国立公園の中で採掘が行われていることもある。
違法採掘が多いため、鉱夫の立場が弱く、役人に賄賂を要求されることもある。危険だし、ケガや病気の補償もない。(華井)
そのことによって、よりSDGsに貢献できる。(岩附)
問題が出てくるのは農業で比率が多く、原料の部分の課題感が大きい。
現場での問題解決に企業、消費者を巻き込んでいくのがACEのやり方であり、ビジネスモデル。
「私たちは、安心して使えるエシカルバッテリーをつくらねばならない」。(岩附)
企業は調査結果を米証券取引委員会に報告するとともにwebで情報開示する。それをNGO等が確認して、ランキングなどを作成して公開する。
その情報をもとに、消費者が製品を選択したり、投資家がESG投資の観点からどの株を買うかを判断したりすることで、企業の行動変化を促すことになる。(華井)
一方で金鉱山は数が多く、まだ4割しか紛争フリーではない。
ただし、暴力件数は2010年にいったん減った後、規制前よりもむしろ増えている。規制によって紛争が解決したとは言えない。
調達調査の完遂も難しく、規制実施から5年が経っても、まだ56%の米企業しか原産地を特定できていない。(華井)
岩附 由香
認定NPO法人ACE代表。1997年大学院在籍時にACEを創業。
上智大学文学部、大阪大学大学院国際公共政策研究科修了後、NGO職員、会社員、国際機関職員、フリー通訳等を経て、現在はACEの活動に注力。
人権・労働面の国際規格SA8000社会監査人コース修了、CSRに関する知見を持ち、これまで大手上場企業のステークホルダーエンゲージメントに参画。
児童労働ネットワーク事務局長、エシカル推進協議会理事。
2019 年「G20 市民社会プラットフォーム」共同代表、2019 年 C20(Civil20)議長
華井 和代
東京大学 未来ビジョン研究センター 講師/NPO法人RITA-Congo共同代表。
筑波大学人文学類卒(歴史学)、同大学院教育研究科修士課程修了(教育学修士)。
成城学園中学校高等学校での教師を経て、東京大学公共政策大学院専門職学位課程修了(国際公共政策学修士)、同大学院新領域創成科学研究科博士課程修了(国際協力学博士)。東京大学公共政策大学院特任助教を経て2018年4月より現職。コンゴの紛争資源問題と日本の消費者市民社会のつながりを研究。同時に、元高校教師の経験を生かして平和教育教材を開発・実践している。
主著は『資源問題の正義―コンゴの紛争資源問題と消費者の責任』(東信堂、2016年)。
(撮影:今村拓馬)
知るほどに深刻なスマホと児童労働の関係。次回の公開記事では、そういった問題に世界がどう動いているか、
日本からはなかなか知り得ないコンゴという国の現実と、頼もしく感じるムーヴメントの機能と効果、結果に迫ります