【第1回】千年、未来を繋いできたキャラバン
読みもの|5.17 Wed

  映画『Caravan to the Future』は大変な作品だ。
 1000年も前からサハラ砂漠で続く、トゥアレグ族の4ヶ月に渡る「塩キャラバン」に、フランス人と日本人の両親を持つ国際ジャーナリスト・デコート豊崎アリサが同行。多くの示唆をくれる、一本の映画に昇華させた。
 その苛酷さは言うまでもない。しかしアリサ監督は当たり前のように、彼らとキャラバンの自給自足の在り方にある、現代の私たちが失いつつある、底抜けの魅力について語ってくれた。
 渋谷アップリンクでの上映後、携帯用ソーラーパネルで砂漠での撮影を可能にした監督との、対談の記録である。

 

arisa

サハラ砂漠を出て、サヘル地域を南下する塩キャラバン
©alissa descotes-toyosaki

ー本作は、ソーラーパネルで発電した電力で撮影したとのこと。1000年以上続く塩のキャラバンと、先端技術のソーラー発電の組み合わせが面白いと思います。
アリサ 映画は2003年に撮ったものですが、あの頃はまさか一人で撮るとは思いませんでした。映画を撮る経験もなかったですし、もっと普通の撮影チームと一緒に行くつもりだったんです。結局企画書も通らず、予算がなくて、それで「やめるか、一人で撮るか」となって(笑)。そもそもは98年に初めてキャラバンに同行して、その経験があって「これは面白いからドキュメンタリーにしたい」というのが、発端でした。
 じゃあ一人で撮るとして、ラクダに乗ってカメラを持って、そこまでイメージすると「どうやって充電するの?」って。これが本当にネックで、解決法がしばらくわからなかったんです。
 パリにいる頃、たまたまTVでベネディクト・アレンという、BBCで番組を持ってる冒険家を観て。彼の番組はとても面白くて、例えばナミビア砂漠を2、3ヶ月一人で横断して、自分で自分を撮影してるんです。最初は「他にクルーがいるなんて、冒険家じゃない」って思ってたんだけど、最後のクレジットは全部彼の名前で。
 私はそれですごく感激して、直感的に「連絡とるしかない」って(笑)。「どうやって撮ったんですか?私もこういう映画を撮りたい」と言って、ロンドンまで行って実際に会ったんです。そうしたら彼も、BBCとは予算も違うけど、あなたの話を聞いていると、作品を観てみたいと。「撮影はソーラーパネルでできるから、是非いってらっしゃい」と、勇気づけてくれました。

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ソーラーパネルをラクダの上で充電しながら砂漠をゆくアシスタント、バルダラン
©alissa descotes-toyosaki

ーBBCの冒険家さんからの知恵だった。
アリサ それでソーラーパネルを購入して、12ボルトのバッテリーも買って。柔らかいパネルをラクダの上に引っ掛けて、厳密にはトゥアレグのアシスタントが一人いて、その子が充電を担当してくれて。パネルは小さかったけど、砂漠の太陽が強いから、いっぱいにしては、夜になったら充電するというのを繰り返して。
ーエジプトでラクダに乗ったことがあるんですが、揺れるし、おしりの皮もむけて大変で、、
アリサ コツがあって、まず自分で乗らないと、乗り心地がよくないんですよ。観光で引っ張られたりすると、みんなおしりが痛くなるんです。コツは首にあって、足を首につけて安定させるの。そこが、誰かが引っ張ってるとできなくなるので、どうしても不自然な乗り方になっちゃう。首はラクダのアクセルなので、慣れるとすごく楽しいですよ(笑)。

 

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夕方の4時頃、砂漠の強烈な太陽がやっと下がる。そんな時間を楽しむキャラバンの子供達
©alissa descotes-toyosaki

ーラクダに乗れたからといって、この旅の過酷さは変わらないですよね?
アリサ 一回行っていたのでどれだけ辛いかはわかっていたけど、無事に帰れたし、楽しかったから「これは映像に残さないと」って。
 キャラバンは今も続いています。そして去年の9月、12年ぶりに彼らに会いました。2003年に別れた時、「完成したら映画を観せる」という約束をしていたので、12年もかかっちゃったんですが(笑)。
 再会の時はおかしかったよね。だって彼らには電話もないから、事前に「行く」って伝えるとかそういうこともない。12年ぶりでもいきなり会いに行くしかないし、でもすぐわかってくれて。夜だったから、声を聞いて「え、アリサ?」って。

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60歳以上のおじさん「アムラール」は水が足りなくなって何回も死にそうになったが、キャラバンをずっとやり続ける
©alissa descotes-toyosaki

 それでそのまま翌日、シーツを敷いて野外シネマみたいのをやって映画を観せました。彼らは映画というものをそもそも観たこともなく、そこに彼ら自身は映ってるし、大笑いして盛り上がって。そしてその次の日、「今のキャラバンはどうなっているの?」という会議をしたんです。
ーなんとなく、農業でいう「後見人不足」みたいなことになっている気がします。
アリサ 続いてるは続いているんですが、規模は小さくなっています。映画が完成したのは去年ですが、タイトルはわざと『Caravan to the Future』としたんです。『The Last Caravan』とかじゃなく、未来に繋がるキャラバンであって欲しくて。

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昨年末2回のみのプレミア上映に続き、この4月に1週間、渋谷UPLINKにて、トーク付で上映された

 これは1000年以上続いてきたわけじゃないですか。だから、そんなに簡単に消えることはないんです。私が最初にキャラバンについて知った80年代のナショナルジオグラフィックの記事で、当時すでに「ラスト・キャラバン」と呼ばれていました。でも、「ずっと続いてるじゃん?」みたいな。まったく当たり前のように。
 例えば、消費社会はどこか世界の果てに入っていくと、あるポイントで突然変化するという現象があります。それが近年よく起きていて、そう考えると、急にキャラバンも変わってしまうんじゃないかと思うこともあります。
 若者は確かに減っています。映画の中に出てくるティーンエイジャーは、再開したら28歳になってたし、彼らはやっぱり「携帯買いたい」、「バイク欲しい」という風になっていました。

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砂漠の岩塩を売るオアシスの女性。遊牧民にとっては家畜を浄化する貴重な塩である
©alissa descotes-toyosaki

ーー度は消費社会に憧れるし、経験しないと良し悪しもわからない。
アリサ でも、塩キャラバンをやめて他の仕事があるかというと、ないんですよ。サハラ砂漠では、仕事よりも自給自足を実現するのが一番安定していて、フランスの原発が使っていた有名なウラン鉱山ですら安定はない。他にあるとしたら、密入国の仕事とか。
ー仕事の選択肢が密入国、ウラン鉱山、遊牧民、、
アリサ 本当にそうなんです。あとは農業があちこちで始まっていますが、遊牧民がいきなりに農民になるというのも難しい。実際に若者たちは2、3年前から農業をやろうと試みていて、それは誰かの畑で雇われて日当をもらうアルバイトなんだけど、そういう仕事の形態には全然納得いっていなくて。
 そんなタイミングで彼らは映画を観て、「うーん、やっぱり格好いいな」ってなって(笑)。それは私の目的として、すごくよかったし、嬉しかった。

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お父さんと息子がキャラバンを導く。子供は10歳から同行しながらお父さんから砂漠のあらゆる知恵を覚える
©alissa descotes-toyosaki

ー映画が本当に、未来への架け橋になった。
アリサ 彼らは外からの視点で自分たちを見たことがないから、大きな影響があったみたいで「やっぱり、やり続けたい」って言い出して。でも、去年私が受けた印象は、これはしっかり支援をして、次世代にしっかり受け継がれていかないと、消えてしまうこともある。
 そこでまず、この塩キャラバンをユネスコの世界遺産に登録しようと思っていて。そうやって支援プロジェクトを立ち上げているんですが、彼らがお金をちゃんと稼げて、そのお金で若者を雇えるようになればって。今より、ちょっとだけもキャラバンが現代化すれば、続けられると思うんです。

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5月23日(火)は渋谷UPLINK、25日(木)は豊田市・橋の下映画祭で、トークとライブ付で上映される

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Alissa Descotes-Toyosaki

1970年、パリ生まれ。
日本人の母とフランス人の父を持ち、二つの文化の間を旅しながら育ったデコート・豊崎アリサは、ジャーナリストという職を自らの生き方として定めることとなった。
2006年にトゥアレグ族の遊牧生活を支援するためにサハラ・エリキ協会を設立。以降、通訳またはキャラバンの一員として旅の日記を綴っている。
彼女のジャーナリストとしての活動は2011年の東日本大震災を機に本格化。現在はパリ、東京、ニジェールという三つの拠点を行き来しながら、激動する現代と人類の生き残りに焦点を合わせ、ニジェールのウラン鉱山などよりスケールの大きいルポルタージュに挑み、フランスや日本に発信している(GEO MAGAZINE、DAYS JAPANなど)。

 

(取材:平井有太)
2017.04.13 thu.
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