初代「アートパラ深川」大賞受賞、西川泰弘さんインタビュー
読みもの|12.21 Tue

 2021年10月、第2回目となる「アートパラ深川 〜おしゃべりな芸術祭」が開催されました。

 昨年の初回と今回、コロナ禍をものともせずそれぞれ7万人、9万人を超える集客を実現させた市民芸術祭の主役は、障害を持つ方々がつくり出すアート作品たち。江東区の深川エリア=門前仲町〜清澄白河〜森下で、市民の人情と、昨今珍しいくらいな横の繋がりによって運営される本アート展は「100年続く芸術祭」となるべく、その道を邁進中です。

 そんなアートパラ深川の記念すべき初代大賞受賞者は、西川泰弘さん(61歳 工房集所属)。工房集とは埼玉県川口市にあり、アトリエやギャラリーを併設した障害者福祉施設です。

西川さんにとって絵を描くこととはなにか、うかがいました。

(西川さん撮影:柴田和史)

西川 話するのは、好きです。絵を描くことも、表現だから楽しいです。

ーもともと表現することはお好きだったんですか?

西川 好きでした。

 何かをつくるとか、作業をするということは、もともと苦手でした。

 でも、自分の思っていることを活字にしたり、身体で表現することは好きで、絵も、自分の思った通りに描くことができるようになって、好きになりました。素直に表現することは一番楽しいことだし、それが仕事になったら楽しいと思っています。

ーご自分で描きたい絵は、最初から描けたんでしょうか?

西川 一時的に描けなくなった時はあったけど、スタッフと話すことで自分の描くイメージが復活できて、今は自分の想いを自由に表現できています。

遊び感覚で、絵の具で色を混ぜたりとか、きれいに塗るのは好きだから、何も悩むことはありませんでした。

ーいまは何を描いていらっしゃるんですか?

西川 「花」だったり「模様」だったり、最近では「スターライト」のようなモチーフとか、2色の絵や、シルクスクリーンのように下の絵を透かして見せるような表現だったり、立体的で奥行きのある絵を描いたりしています。

ーそれは頭にイメージがあるんでしょうか?

西川 僕自身、練りに練って描いています。

ー違うテーマでも、どの絵にも西川「節」と呼べるものがあるように感じます。

西川 あれはイルミネーションで、「こんな感じの絵を描いてみたい」と思ったんです。点々はライトの光で、点々点々を描くことは、単純作業ですが、自分自身としてあれを描くことでリラックスというか、落ち着く気がするんです。また逆に、元気が出たりします。

ー以前のインタビューで「絵を描くことで救われた」というお言葉もありますね。

西川 自分はどうしようもなくて、「生きてる資格がない」と思っていたのが、そういう自分でも絵を描くことで、取材されたり、絵がワインのラベルになったり、「こんな僕でも認めてもらえるんだ」、「こんないいことって起きるんだ」ということを知って、「頑張ろう」と思えたんです。一歩後退、一歩前進みたいな感覚で、そういう中で救われたんです。

ー「生きる資格はない」と思ってらしたんですか?

西川 自分の気持ちがいっぱいになってしまって。

苦しくなっちゃって、それで人に迷惑をかけてしまうことで、「また、やってしまった」って。その繰り返しが多くて、人に嫌われたりとか、精神病院に入って暴行を受けて袋叩きにあったり、閉じ込められたり、苦しい想いがずっとありました。

 そうして自分のことが見えてきて、「こんな僕が生きてていいのかな」とか、「何のために僕はいるんだろう」みたいに悩んで、お母さんお父さんともケンカして泣かして、僕自身も泣いて。

 ここに来てからも、リストカットをした時にすごく怒られたことがあって。それで、「頑張らないといけないのかな」「こんな僕も生きていかないといけないのかな」と思ったんです。

ー聞いているだけでこちらも苦しくなります。。絵はおいくつの時に描き始めたんですか?

西川 小学生の時ですね。でもそれは、「顔を描きなさい」みたいな感じだったので、あまり上手くできませんでした。

 ここ(工房集)に来てから、

「型にはめない」というか、自分の想いを素直に表現するということができるようになりました。

ー工房集がそれをさせてくれた?

西川 そうです。その時にイルミネーションが好きだから、今の絵になりました。 一時描けなくなったこともあったけど、それも乗り越えました。

自分のパターンがマンネリ化して、魅力がなくなった時があったんです。ボヤけちゃって、ただ描いているだけとか、もうやめちゃってもよかったんだけど、スタッフが「いろいろなモチーフを使って描きなさい」と言ってきて。それで、いろいろな工夫をして描いて、新しい自分の表現を見つけられたことがまた嬉しくて。

ここはすごく素晴らしいところです。

ー今まで、ご自身の作品をいろいろなところに出してきて、たくさんの反響があるかと思います。

西川 嬉しい感想としては「すごいですね」、「好きです」、「ファンです」ということを言われます。

 嫌な感想はなくて、みんなが褒めてくれるから、絵を描くことで認められるというのは「こういうことなのかな」って思っています。

ー西川さんの言う「イルミネーション」は、それぞれ皆さんには、別のものに見えているような気がします。

西川 平井さんは何を感じますか?

ー私が何に見えたか、、それはベタですが「生命」というか、細胞に見えました。人間の身体をつくっている細胞が、一つ一つ動いているような感覚がありました。

 それは正しい見え方でしょうか?

西川 でもそういう感想を言っていただけて、ありがたいです。そういう風に見てくれることに、感謝します。

ー深川には大きな、みんなが胸を張れるお祭りがあります。住んでいる方々がそれぞれバラバラな性格なのに、皆さんが一緒になって一つのことをつくりあげる、そういうことが得意なエリアなんだと思います。その感覚と、細かい手作業の繰り返しが大きな、きれいな作品になる西川さんの仰っていることと、重なる気がしました。

ご自分以外で、ピンとくるアーティストや作品はありますか?

西川 「みんな頑張ってるな」「みんな、絵が好きだから描いているんだな。仲間だな」って思います。みんなが、「友だちなんだな」って思います。

ー今、イルミネーション以外に描きたいものはありますか?

西川 描きたいものは特になくて、とにかく描いていれば、いいことがいっぱいあると思って、描き続けることに希望を持っています。

ー昨年NHKの取材で、「大賞を受賞して僕の生活は変わるのかな」と仰っていました。実際には、どうでしたか?

西川 「これからいろいろなことが起きるんじゃないか」という、ワクワク感があります。僕の作品がもっと評価されたり、たくさんの場所で展示されることが楽しみです。

 他に、「ラスト」というのがあります。あれは結構迫力があるんです。

ー作品を見た人に何を感じて欲しいですか。絵が社会にできることって、何だと思いますか?

西川 何かを伝えるというより、僕の絵を見た人たち、いろいろな人たちと友だちになれたらいいなと思っています。

 それが芸能人でも、アナウンサーでも、有名人でも誰でもいいから。そのためにこれからも個展をいっぱいやりたいです。

#持続可能な社会
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記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など