【最終回】みんでん鼎談|ブロックチェーンのアツい本質
読みもの|8.17 Mon

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  本年7月に入って、2つのリリースが立て続けに出されたみんな電力のブロックチェーン。
 一つ目は、ブロックチェーンによる「電力取引とトレーサビリティシステムに関する特許を取得」であり、二つ目は、その処理速度が60倍となり、同システムの活用は今後、電気以外に土やバッテリーなど、いくつもの取り組みが控えているという内容だ。
 Bitcoinなど仮想通貨の広がりから徐々に認知が広がり、サトシ・ナカモトという日本人が創始者という、世界的な都市伝説に多少なり親近感を覚えるも、じゃあ私たちはブロックチェーンについてどれだけわかっているだろう?
 むしろ世界でこそ投票や納税にまでその広がりとポテンシャルを見せながら、日本ではまだまだ社会的認知の低いブロックチェーン。
 みんな電力でその技術とエネルギーという、世界においても先駆的なコラボレーションを実現させたお三方に集まっていただいた本記事も、ついに最終回。コンサルの立場からその可能性を感じて身を投じた、森本さんへの質問から始まります。
ーエンジニアだからことできることを知って、コンサルから転職された。

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森本 「エンジニアリング」においては、相当妥当な世界観で、何を言ってもそれが正しければ相手が世界の誰であれ話をしてくれます。その上面白いプロジェクトにジョインできるし、個人的には「今技術をやらないって、変な選択なんじゃないか」という風に考えていました。
ーエンジニアの方がより核心に迫れるし、汎用性もある。
森本 例えばヴィタリックという、Ethereum(イーサリアム)の創業者と普通にチャットができたりもします。全然どこの誰かわからない僕のような人間でも、面白い質問をして、それが妥当で答える価値があると思われたら、すごい人と普通に繋がれます。それは日本のビジネスサイドにいると絶対ありえない話で、そこは楽しいと思いました。
 みんな電力とブロックチェーンの関係性で言うと、「もっといろいろ使いようはあるな」とは思いつつ、電力の世界を中から知ってみると、業界にうまく適合させた、いい仕組みなんだなということも思います。
飛峪(とびさこ) エンジニアの価値は、国外では違うんですね。

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森本 全然違います(笑)。
 今、技術は世界中のどこで何をやってきた人間であれ「それさえ持っていれば」という、超平等な競争の時代だと思っています。しかも日本は世界のIT業界で、アジアにおいてさえも優先順位を下げられつつあります。
 例えば、APIを日本では公開しないけど「ジャカルタで公開します」、「韓国で公開します」みたいな調子で「もう、ジャカルタより下か!」ということは普通に起きています。日本は、エンジニアリングの力をもっと海外に発信しないといけないんです。
 そういう意味で、こういうブロックチェーンで先進的な取り組みをやっている会社で、もっともっと海外に発信できるようなプロダクトにするところに自分が貢献できたら、それはワクワクすることです。
ーお二人の目線からもみんな電力は先進的な企業なようで、嬉しく感じます。

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飛峪 そこは厳密には繊細な表現で、「先進的なことに関われるきっかけとなりうるお仕事があるのかな」という感じでしょうか(笑)。
森本 場所は日本という国だし、電力業界の腰の重たさと共存しながらですが、「そこに新しいモノを入れていこう」という気概があることが素晴らしいと思います。
ーどんどん拡張していく勢いのブロックチェーンの行き手を阻むのは何でしょう?

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森本 むしろ障壁だらけな気がします。まだまだ始まりたてだし、ブロックチェーンが完全な解なのかと言えば、まだ懐疑的なところもあります。
 ただ、いろいろなチェーンがそれぞれに特性を持っていて、そのいいところどりをしていく「クロスチェーン」という技術が出てきたり、様々なかたちでブロックチェーンの世界観をそれぞれが体現して新しい世界に実装させたりとか、人々の思惑に伴ってたくさんのことが起きています。
 だから、「ブロックチェーンは完成している素晴らしいもの。あとは広めるだけ」ではなくて、ブロックチェーンごと変わり続けているんです。
飛峪 サイクルとしては2018年に仮想通貨バブルが崩壊し、その後例えばある大手家電メーカーさんがいわゆるPoCをがんがんやったり、伊藤忠さんもプレスリリースを出していました。
 当時私が家電メーカーの代表の方から聞いた話では、「日本企業はPoC疲れを起こしている」ということでした。
 ブロックチェーンはAIみたいに投資価値があるかもしれないから、「とりあえず予算500億円つけるから2年で結果を」みたいなことが結構あったと言います。
 その結果、皆さんが口を揃えて言っていたのは、「スケーラビリティやインターオペラビリティの欠如」、一言で言えば「遅過ぎる」ということで「(ブロックチェーンは)使えない」。2018年末頃はだいたいそういう結論が出てしまいました。
 ただ世界を見渡すと、開発は延々と続いている。
 そして、その中で気づき、直そうとして、時に劇的に改善したり、進化が常に起きている。壁が出てきては乗り越え、それを繰り返す流れだし、まだまだそれが続いていくんだろうと思います。
 それが直近の状況ですので、18年末頃に触れていた方に声かけると、「あんまり使えないよね。次が出るまで待とうぜ」という空気があと半年、一年は漂うと思います。
 そしてだからこそ、みんな電力にはすごいチャンスがあるのではないでしょうか。皆が「待ち」のスタンスの間に、みんな電力がブロックチェーンを着実に続けているのは、企業優位性が高いと思います。
ーみんでんが一番当初から掲げているテーマに「貧困の解決」があります。ただここまで、今後ブロックチェーンを知る人知らない人に格差が生まれてしまうとの指摘もありました。広く市井の人々に寄与するブロックチェーンの使い方は?

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飛峪 ブロックチェーンによって、「自分から何もしない人」と「自ら動く人」との格差が広がってしまうかもしれないということは言いました。
 例えばベーシックインカムはいろいろと論争を起こしていますが、勝手な予測としては、よほど豊かな国が小規模に、より市民の生産性を上げるために導入するのであれば機能するかもしれませんが、いきなりアフリカの貧困国に導入しても、何の解決にもならないと思います。
 ブロックチェーンは、新しいお金の流れのインフラになりうるでしょう。一つの側面として寄付や募金として、ユニセフなどを通さず、一気に仮想通貨で現地に流通させられるということはある。でも「人々の普段の生活を潤わすために、天から突然恩恵が降ってくる」ということではないと思うんです。
 ブロックチェーンはどれだけ弱い立場の人でも、歳も関係なく、貧乏な地域でも、端末さえあれば世界の人と交渉ができ、その後一度貧困の差は広がるかもしれないけれども、そこに芽が出ます。芽さえ出れば、チャンスがなかった人たちが国の圧政や不平等から離れて潤える、平等なチャンスに触れる機会が増えます。
 たとえ10人に一人でも潤っていければ、その人の例えば飲食など経済活動によって、近くの人たちにも恩恵が伝播していきます。ブロックチェーンは間違いなく、それこそ銀行口座をつくりたくてもつくれない存在にも、そういう部分でパワーとなり、自ら普及し、個人の自立を後押しします。

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森本 僕も個人的には、貧困の解決に寄与するんじゃないかと思っています。頭の使い方次第で何でもできるというか、実際に今、貧乏でありながらパソコンを使う機会があってスマホを持ってるくらいの層は、実は多くないでしょうか。
 今、新しい潮流がどんどん出てきていて、それはブロックチェーンだけでもなく、それらが複雑系になってたくさんのチャンスが出ては消えまた新しく出てきて、そういった時期が今後しばらくは続くでしょう。
 僕は、チャンスがいっぱい出てくることの方が大事だなと思っています。「ずっと沈まない船はどこにある?」、「どこに掴まれば頭を使わなくても生きていける?」じゃなくて、潰れもするけれど、同時にチャンスも出続けるという状況に、ブロックチェーンの変化と浸透がかなり寄与すると思います。
 「次に繋がるものをちゃんと育てる」とか、「世の中を自分の眼で見る眼を育ててあげる」ということが大事です。今の世の中は、いったん貧乏くじを引いた人間がなかなか立ち上がれず、既得権益者は甘い汁を吸い続けるようなところがあって、それが次々に出てくるチャンスによって、ひっくり返せるようになってきているわけです。
 どう開き直って、どう行動に移せるか。
 「藁をも掴む」という言葉がありますが、藁が実際に掴めるのにそれさえもしない人が結構多い気がしていて、「何をやってでも生きる」というハングリーさは、アジアでも日本以外の国々が強い気がします。
 ブロックチェーンも変化して、今までと全然違う、これまでまったくお金にならなかったものがすごくなるという現実がたくさん出てきて、「どれに自分の人生をベットするか」という選択肢は広がってきています。もう、あとはそれをどう掴むか。ブロックチェーンなんか、今ならまだ3ヶ月頑張って学べば、その後最低限の給料もらえるようにはなりますから。

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飛峪 これからは、全然知らなくてもとにかく藁を掴んでみたら、それがブロックチェーンだったということが増えていくんじゃないかと思います。または、意識も何もしなくとも、それがインフラとして機能していく社会が目の前だと思います。
ーブロックチェーンを取材が、こんな内容になるとは予想していませんでした(笑)。

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飛峪 非中央集権の話は熱いんです(笑)。もちろん、たまに目ん玉がドルマークになってる方も確かにいますが、でも根底にはすごい熱があります。
森本 物事を変えるには、強引にやればいいという話ではありません。そこをどう溶かし、次はコンフリクトや事件がそこかしこで起きて、それを経て政府も折れないといけなくなるんです。
ーブロックチェーンの技術的な話ですが、処理速度が60倍になったんですね?

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森本 それ、実は100倍です。
ーえ?
飛峪 今日の最新情報です。
鈴木 実は。
森本 系列2はもう180倍で、バグも0です。

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鈴木 リリースが出せて、それまで控えていたブロックチェーンの書き込みをやってみたら、早速100倍になりました。
 速さは確かに重要な要素です。そして、需要家が使った電気の「量」には今まで価値はありませんでした。でも、そこから計算される電気代には価値があったのかもしれない。
 今回電力トラッキングで可視化したのは、電気を使ったその「量」であり、そこにその電気を「誰」が発電したかを紐付けしたからこそ、SDGsとかESG投資といった全世界的な流れの中で、データそのものに付加価値が加わりました。
 それがどんなスキームであれ実行することで、今まで価値のなかったものにどう価値を持たせるか。そこが「速さ」のような性能と同じくらいか、もしかしたらもっと重要なテーマになるのかなと思います。

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飛峪 ただ100倍、1000倍の世界ではなくて、大切なのは「次はこれができるようになる」、「次はここと繋いでいこう」という、まさにインターオペラビリティです。それは「相互運用性」とも呼ばれますが、この100倍を皮切りに、(速さの追求だけでなく)あらゆる人々と繋いで繋いで、横に広がっていくフェーズに入ったのが、今システムチームが置かれている状況です。
 この次は何か?
 速度だけじゃない何か、それは「乞うご期待」という(笑)。
ーみんでんにはすでに電気だけではない、土や空気、バッテリーなどなど、あらゆるものにブロックチェーンを適応していく構想があります。
鈴木 それにしたって、もしかすると当事者さえ気がついていなかった価値を掘り起こし、それを誰にでもわかるようなかたちに整え、そこで新しい価値が生まれ、ブロックチェーンによってさらにスケールする。そんな取り組みが結果として、これまでの「中央」や既得権益から富を取り戻していく、そういう流れかなと思います。
ー飛峪さんは今後もブロックチェーンの伝道師として、各所でご活躍されていく?

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写真は飛峪氏(左端)がブロックチェーンハッカソンイベント「Decrypt Tokyo 2019」優勝時のもの。

同氏は賞金でVRゲーム機(Oculus Quest)を購入しVRとブロックチェーンの可能性について研究しているとかなんとか

飛峪 私はもちろんブロックチェーンと歩み続けていきます。そしてみんでんは、今後5年、10年かけてブロックチェーンを拡張していくと思いますので、今後もその流れの中で、みんでんとブロックチェーンの歩みを見守りたいと思います。
 私は、こちらで話を伺った「種プロジェクト」の話が忘れられません。
 あれはすごい歴史的にも重要な観点のプロジェクトで、本当なら財団を立ててでもやるべき事業だと思います。種の歴史的価値、農作業も含めた文化を集約して、ブロックチェーンでそれらを受け継ぎ育てていくプロジェクトだと理解しています。それをお手伝いできる機会があれば、「ボランティアでも何でもさせていただきます」ということは話させていただきました(笑)。
 今後もそんな風に、ブロックチェーンを通してみんな電力と関わることができたら嬉しいなと思っています。

(注釈 ※ 「種プロジェクト」のほか、みんな電力ブロックチェーンチームは、電力以外にも「食・住・空気」にフォーカスした様々なブロックチェーンプロジェクトを多数企画中。乞うご期待!)

とびさこ写真

飛峪(とびさこ) 龍一

1974年大阪生。Grid World合同会社代表。
小学生の頃からプログラミングに親しみ、アセンブラで書いたゲームソフトが雑誌掲載された事が自慢。専門学校で情報処理とコンピューターサイエンスを学び、社会に出てエンジニア/プロジェクトマネジメントを多数牽引。
2016年に暗号通貨と出会い、ビットコイン投資を歴てブロックチェーン技術に興味を持つ。海外ブロックチェーンホワイトペーパーの紹介記事を執筆し雑誌掲載複数。
後にブロックチェーン専門企業でエンジニア兼マネージャーとして開発従事、ブロックチェーン教材開発、ブロックチェーン大学校の講師担当、海外ブロックチェーン実証実験参加、ビットコイン取引所アプリ開発参加等を経て、みんな電力プロジェクトに参画。
みんな電力ブロックチェーンチームと共にスケーラビリティー問題解決に従事する。
ブロックチェーンハッカソン「Decrypt Tokyo 2019」優勝

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森本 詢

1990年東京生、日本大学第三高校、京都大学農学部卒業。
2013年から2018年までコンサルタントとして国内の企業の組織開発、事業開発の支援に従事。インダストリー4.0のインパクトの大きさに危機感を持ち、グローバルな開発者コミュニティの東京ブランチ立ち上げに参画。
コミュニティの技術者との会話の中でサイファーパンクのメーリングリストのことを知り、技術者の描いた世界観が、40年後に現実のものになってきている事実に衝撃を受けてブロックチェーンの世界に興味を持ち、ブロックチェーンエンジニアにジョブチェンジ。
現在はみんな電力のブロックチェーンチームで開発業務に従事している。

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鈴木 雄介

1985年静岡生、静岡県立農林大学校卒業。
園芸店・生花店勤務を経て12年前にシステムエンジニアへジョブチェンジ。3年前に、当時関わっていたシステム案件を通し再生可能エネルギーへ興味を持ち、みんな電力へJoin。
現在はシステム案件の立ち上げ支援やシステム部メンバーの後方支援を行う。

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最後の写真は、この取材の企画からブッキング、調整まで辛抱強く携わり、あたたかく見守ってくれた鈴木さんの写真で〆。
勝手にとっつきにくい思いがちなブロックチェーン、そしてシステムチームへの門戸を開いてくれたこと、深謝いたします。
次回記事もお楽しみに

 

(取材:平井有太)
2020.07.31 fri.
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