Chim↑Pom作品《道》(2022年)をタドり、共に育てる
読みもの|3.31 Thu

六本木駅を出て森美術館へと向かう途中から、ワクワク感が掻き立てられる

 六本木ヒルズ森タワーの最上層にある森美術館で、結成17年を迎えるアーティストコレクティブChim↑Pom(チンポム)初の回顧展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が開催中だ。そこに協賛企業として、UPDATER/みんな電力は名を連ねている。実はChim↑Pomと私たちには、大切な共通項がある。

 それはChim↑PomもUPDATER/みんな電力も、社会課題に正面から向き合い、自分たちにしかできない表現方法で対峙しているということ。時にそれは、水面下で見えなかったものを可視化したり、社会の気づきを促したり、それこそ問題を具体的にアップデートさせ、解決する機能を持ってきた。

2016年、千葉県は袖ヶ浦にあるエコロジアさんの発電所が、世界初の試みに手を挙げてくれた

 そもそもを辿れば、両者の縁は2016年、電力自由化の年まで遡る。Chim↑Pomがキュレーションを務めたアート展「ビオクラシー」にて、作品として売り出された「会場へ電力供給する権利」をadidas Originalsが購入。結果、エネルギー界において世界初、ネーミングライツ作品「アディダス発電所」が実現したのだ。

 そんな背景がありつつ、今回UPDATER/みんな電力が注目したChim↑Pom作品は《道》。代表の大石曰く「僕たちがやっていることは、電気をつくっている人と使う人の間に『道』をつくること。それは空気や土壌といった新規事業においても、ブロックチェーン技術をつかって、一生懸命『顔が見える』関係をつくっているわけだから」。

 「道」にまつわる話を、Chim↑Pom”元”リーダー・卯城竜太さんに聞いた。

UPDATERの面々に、《道》(2022年)について話してくださる卯城竜太さん(写真 一番右)

卯城 道は誰でも通行をして、そこから何かが発生するような場所です。そういう感じでいろいろなことが起きればいいなと思っていて、お客さんが参加したっていい、そこを今回いろいろな人たちがキュレーションをしているわけですが、昨日はそこで俳句の句会が行われていました。今も、劇団の人たちが、自分たちの劇の稽古をしています。

Chim↑Pomが3.11後の福島を舞台に仕掛けた作品が、《Don’t Follow the Wind》(2015年-)

 今年の3.11には福島でイベントがあって、解体されたお家の跡にできた空き地で、津波があった黙祷の時間に防災無線を使った町内放送が流れるんです。それをそのままコチラに転送して、「ここに来た人も一緒に黙祷できたらいいな」という。そこではアーティストの友人が、「もしも福島に現代美術館があったら」という設定で、毎年イベントをやっているんです。

 他にも、モデルの友だちが「ウクライナに祈りたい」ということで、ウクライナの方向を向いて座って祈っていたら、お客さんも少しずつそこに参加したりとかしています。

ー《道》の作品はもう4、5年やっていますか?

卯城竜太さん

卯城 これが3本目ですね。

ー1本はChim↑Pomが運営する、2016年末にはみんな電力と一緒に、当時前例がなかった電力のネーミングライツを実現させてもらった高円寺のキタコレビル、もう1本は台湾の美術館で大きなChim↑Pom展をやった時ですね?

エリイさん。マンホールは、《道》(2022年)にもある
Photo: Kenji Morita
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

卯城 1本目は一応大家さんもいる、高円寺の賃貸物件なんですが、建物の門とかも壊しちゃってそこに道をつくって。それを外の公道とつなげるかたちで、誰でも建物に入れるようにアスファルトを敷いて「365日24時間、誰でも敷地に立ち入れる」という。そこにルールはまったく決めずに、つくるとしても「何かがあってから決めればいいや」って。


Photo: Yuki Maeda
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

 台湾の時は国立美術館なのですごく大きい建物で、エントランスから公道まで庭を突っ切って約200メートルの道をつくりました。その時は逆に言うと、国立美術館と公道は両方とも公共圏なのに、ルールが全然違うわけです。それは、「外ではタバコも吸えるしお酒も呑めるけど、館内では絶対ダメ」とか、それこそ美術館では結構過激なものも見せているけど、それは公道で見せられないとか。

 だからそこで「この道はどっちだ?」ということになって、その道に独自のルールやレギュレーションをつくりました。美術館と交渉しながらオリジナルのルールをつくって、路上でブロックパーティをやったり、どんどんみんなが落書きをしていったり、そういうプロジェクトでした。

《道》の路上では劇団員の練習やウクライナへの祈りほか、さまざまなことが同時進行で起きている

ー展示の重要な一部となっていますが、メンバーのエリイさんの結婚式も、新宿の「道」でしていましたね。

卯城 例えば皇族の方は、路上でパレードするじゃないですか。だから、ということは「道」の位が一番高いというか(笑)。しかもそれは僕たちだって、デモ申請すればタダで使えるので。

《道》に感心する大石代表

ー今回打ち合わせを重ねる中で、UPDATER/みんな電力代表の大石が一番反応したのも《道》でした。私たちは電力をつくる人と使う人、今はさらに空気や土でも「『顔の見える』関係という「道」をつくってるんだ」という認識で事業に携わっています。

卯城 面白い。

ー曰く、「最近どんどん『道』から昭和の風景がなくなってますよね」と。大石はもともと野球少年で野球が大好きなんですが、昔よく路上でやっていた「手打ち野球ってできないかな」というアイディアを出してきました。

卯城 なるほど、いいですね、、!

 それはありがたい話で、ぜひぜひという感じです。あとはお客さんが入ってきた時に危なくないかとか、プラクティカルなところを考えられたらいいだけなはずなので、面白い提案だと思います。それがしかも、「みんな電力 presents」になっているのが、それなのに「なんで野球??」って感じで面白いです。

ぜひ、QRコードを読んでみてください

 今回の趣旨として、この《道》は一義的には美術館とChim↑Pomのものなんだけれども、僕らはいろいろな人に使ってもらいたい。だから、ただイベントをするのでは「イベントオーガナイザー」になってしまうだけなんです。

 でも、ここは「道」であって、そこには公共物が「誰によってどういう風に運営されるべきか」という大きなテーマがあります。それは、突き詰めていくと「世界は誰のモノ?」という話なんですけれども。

 だから、ここでは「運営者」みたいな立場で、いろいろな人たちに関わって欲しいと思っているんです。

ーChim↑Pomさんからも誰か、メンバーが野球に参加してもらえたら嬉しいです。

終始暗かった道端も、スポーツ紙の”三行広告”を見た方からの電話で、奥のChim↑Pom作品《性欲電気変換装置エロキテル6号機》(2022年)が光る

卯城 もちろんです(笑)。

 今みんでんさんがとても面白いと思うのは、それこそ電気だけじゃなくて、空気とか土とかいろいろな取り組みをはじめられいます。それらはもともとある種「素材」として地球に最初から備わっているものなのに、その見方を変えているというか。そこには何と言うか、一つの「地球環境を運営している」感覚があると思うんです。

 だから、別にそれが環境の話じゃなくても、今回はその感覚で、ここに備わっている「道」を育てる、つまり「運営してもらえたらいい」と思っています。勝手に新しいルールを決めちゃったり、たぶんそこには、僕らにはないやり方があるんじゃないかと、楽しみにしています。

《性欲電気変換装置エロキテル6号機》(部分)

ビオクラシー展(2016年)については以下URLをクリック!
https://enect.jp/pioneer/biocracy-1/

#Chim↑Pom #Happy Spring #チンポム #森美術館 #道
SHARE: LINE Facebook
URL
URLをコピーしました

記事を作った人たち

タドリスト
平井有太
エネルギーのポータルサイト「ENECT」編集長。1975年東京生、School of Visual Arts卒。96〜01年NY在住、2012〜15年福島市在住。家事と生活の現場から見えるSDGs実践家。あらゆる生命を軸に社会を促す「BIOCRACY(ビオクラシー)」提唱。著書に『虚人と巨人』(辰巳出版)など