【前編】映画『コスタリカの奇跡』監督に聞く
ワールドカップに出場していたから名前くらいは聞いたことはあるかもしれないが、場所までわかる人は少数だろうし、ましてや1948年に常備軍を解体し、非武装を制度化した画期的国家であることを知る人はごく稀だと思う。
アメリカと行動することを是とする日本に住む我々にもにわかに信じ難い、実在する非武装の在り方。また、それを1948年に実施したホセ・フィゲーレス(後に大統領)の娘、高瀬香絵さんのインタビューでも言及されている。
再生可能エネルギーは、その根っこの部分で平和や本来の民主主義と確かな共通項を持つ。
その仮定を確信に変えるため、来日していたマシュー・エディー監督に独占インタビューを敢行した。監督はTBSサンデーモーニングの取材も受け、「風をよむ」にも登場した。
クリスティーナの父ホセは、国際法に対しての彼女の情熱の源泉であると言えます。彼女はそれを受け継ぎ、国連と、気候変動を抑制しようという動きの中でそれを推進しています。世界的な環境保護の動き、パリ協定の制定など、彼女が果たした役割は多大なものです。
パリ協定制定後、クリスティーナは国連の事務総長選に出馬しました。選挙本番まで数週間の時点でトップ5に入ってはいましたが、最終的に勝ち目はなさそうと判断して、辞退しました。でも、トップ5にいたというのはすごいことです。彼女は引き続き、気候変動に関して働きかけていくでしょう。
もちろん過去には、国際社会が失敗した例もあります。私の視点からすれば、イラク戦争はその象徴でした。世界中の市民が戦争に反対するデモを行い、しかし国連は戦争を止められませんでした。アメリカは何にせよ戦争を始め、国連にはそれを止める力も説得力もなかったのです。
しかしコスタリカのケースが私たちに伝えてくれるのは、国際法もその使い方とタイミングによっては、信頼に足るものになるということだと思います。実際にニカラグアとの国境で起きたことは、国際裁判、国際法によって抑制されました。アメリカの圧力をかいくぐり、サンディニスタとの絶妙な交渉を成立させ、国際法を指標として行動、信頼、誠実に対応することで、国際法が信頼性と共により影響力をもって機能することを証明したのです。
かたや私の母国アメリカでは、大統領が国際法に言及すること自体がとても稀です。話すことがないということは、つまり意識すらしていないということです。
その理由に、アメリカとコスタリカの国としての規模の違いを引き合いに出す方もいます。しかしそこでもし、大国も国際法に倣って行動していれば、世界はもっといいシステムを構築できていたでしょう。
彼が軍隊をなくそうとしたのは理想主義的かつ、現実主義的な理由からでした。日本だって、少なくとも、アメリカが教育に比べ、天文学的な予算を軍事費にかけている状況よりはまともでしょう。
アメリカの軍事費は今年、8500億ドルにものぼります。それでも、テレビを観ていれば精神的、そして身体的に傷を負った兵士にチャリティを募るCMが流れています。8500億ドルもの金額を軍事費として投入し、まだ足りていないわけです。これは、狂った状況です。
かたやコスタリカでは、作品でも少し触れましたが、水力を主軸として、再生可能エネルギーが急成長しています。統計の一つでは、年間で200日間を再エネだけで賄えたといいます。もちろん移動や輸送手段などまだまだ改善の余地はありますが、これは国の施策として真っ当で、軍隊を破棄していることに加え、すごいことです。
そこから私は独自のリサーチを始め、それでわかったのは、コスタリカの大学生の91%が1948年の時点で「軍隊をなくすことは素晴らしい判断である」と同意し、その合意を覆しうるあらゆるものに反対していた事実でした。
アメリカの学生を対象に同じような調査もしましたが、アメリカは巨大な軍隊があることが社会の前提になっており、暴力や非暴力というテーマに対してまったく違う立場が見受けられます。2国間の比較だけで語れることではありませんが、国のリーダーや教育が非武装、非暴力を祝い、奨励する社会で育つことで、人間はまったく違うアイディアを持つようになるのです。
私はコスタリカで何度も、ランダムに道端の人々たちにインタビューをしてきました。「軍隊を持たないということについて、どう思いますか?私はアメリカから来て、それはどうにも想像し難い状況です」と問いかけると、多くの人が口を揃え「素晴らしいことです。私たちはそのおかげで教育と医療、環境にお金をかけることができます」と答えてくれました。
実際にコスタリカに行っても、彼らが何を勝ち取ったのかはわかりにくいかもしれません。それを明確にするためには、ニカラグアやホンジュラスを訪問することを勧めます。それらはコスタリカに隣接する、文化的にとても似ている国で、しかし経済的、社会システム的にとても違う国でもあります。
コスタリカは決して裕福な国ではありません。石油が出るわけでもありませんが、しかし特に大学は、とても高い水準の教育を維持しています。公立校、医大はとてもハイレベルです。
彼らが成功した一つ大きな要因は、社会を巻き込む力です。彼らのところへはメキシコやアメリカはもちろん、ヨーロッパ全土からも支援や人々が集まりました。それを可能にしたのは、彼らが平和主義だったからです。もし彼らが好戦的で武装していたら、私だっても彼らのところへは行かなかったでしょう。
サパティスタは武装ゲリラという風に理解されてもいますが、それは国との関係が激化したほんの短い時期だけのことです。彼らはそれ以外は、とても平和的で開放的な組織を形成していました。また、とてもフェミニスト的な側面も強く持っていました。女性がリーダーとして活躍し、それも平和運動を進める上での、重要な要素だったと思います。
実は南北のアメリカ大陸には、基本的に平和主義が強くあります。カナダは国連の決定を遵守しますし、多くの若者たちは国連の平和軍に参加したいと言います。アメリカで若者に平和軍の話をしても、その存在すら知りません(笑)。
南米にもウルグアイのような、いい参考となる国があります。その中にあって、コスタリカは常に健康、教育、クオリティ・オブ・ライフの観点で常にトップ3に入ります。また、人口に大きな中流階級の層があります。
「非武装」に惹かれて観た映画から、期せずして、次々に見つかるENECTのコンテンツとの共通項。
後編ではさらに「再生可能エネルギー」、「平和」、「本来の民主主義」が共有するかもしれないものに迫ります。
『コスタリカの奇跡』上映は随時各地でありますが、DVDでご覧になりたい方は → コチラ