ミツバチから生まれた銀座のソーシャルビジネス
読みもの|10.19 Tue

銀座でミツバチを飼い、銀座の蜂蜜をつくり、銀座から社会を変えてゆく。
そんな、誰も考えなかったことを実現した「銀座ミツバチプロジェクト」。
2006年の活動開始から16年、蜂蜜づくりという枠をはるかに超え、いまやソーシャルビジネスへと発展したプロジェクトの“現在と未来”について副理事長の田中淳夫さんにお話をうかがってきました。

田中淳夫さん

今も屋上でミツバチのために汗を流す田中さん

特定非営利活動法人・銀座ミツバチプロジェクト副理事長|株式会社紙パルプ会館・専務取締役|農業生産法人・銀座ミツバチ代表取締役前社長

2006年に岩手の養蜂家、藤原誠太氏と出会い銀座の紙パルプ会館の屋上ではじめた養蜂が「銀座ミツバチプロジェクト」へと発展。
国内主要都市でおこなわれている都市養蜂のさきがけとなる。

最高級にランクされる「銀座はちみつ」

ーまず、16年目の蜂蜜づくりはどうでしたか

ことしは銀座エリアと銀座以外の養蜂場で採蜜された東京エリアの蜂蜜を合わせると約2トンも採れました。全国の蜂蜜生産量が2,800トンなので、ここだけで0.07%の収穫量になります。

ミツバチも銀座の住民

ミツバチたちの活動期間は主に3~8月で、飛べるのは約3km四方くらいですが、そこには皇居、浜離宮、日比谷公園などとても豊かな蜜源があるんですね。それ以外にも東京という街は蜜源がけっこう豊富なんです。皇居周辺の桜、街路樹として植えられているユリノキ、マロニエ、エンジュなどから蜜を集めています。咲く花の時期によって採れる蜂蜜の味わいが違いますし、それぞれ品質も素晴らしいものです。

ミツバチは環境汚染にすごくデリケートな環境指標生物なんです。ちょっとした環境の変化にもすぐにダメージを受ける。だからこの16年の間、銀座で蜂蜜が採れているということは、イメージとは違ってこの界隈の環境は安全性が高いんですね。

東京駅の目の前、丸の内のビル屋上での養蜂活動

ーいまや銀座ミツバチプロジェクトさんの蜂蜜はひっぱりだこだとか

最初は「えっ、銀座の蜂蜜?」という反応でした。でも品の高さを認められて、銀座の名だたるお店のパティシエやシェフ、松屋銀座店さんなどとのコラボ商品が次々に実現していきました。ご存じのように銀座は第一級の食のプロが集まる街です。また、お客様の方も、良し悪しを厳しく吟味できる舌を持っています。そんなハードルの高い銀座で、私たちの蜂蜜は蜂蜜専門店でも最高級の部類にランクされています。

銀座の蜂蜜を使ったスイーツも大好評。

古くから銀座というところは、良いものを求める人と、それに応える職人が腕を競い合う技の街でした。良いものは残り、そうでないものは消える街なんです。そんな銀座で16年も続けてこられたのは、私たちの養蜂活動に「価値がある」と認められたからかもしれません。

ただ、大量生産はできないので、私たちの蜂蜜を使った商品は、ほとんどが限定品になります。毎年、シーズンになるのを心待ちにされているお客様もいらっしゃると聞いています。

ーオリジナル商品もつくられているそうですね

銀座界隈から集められたものは「銀座はちみつ」、さらに東京都内にある養蜂場で採蜜されたものは「東京蜂蜜」として商品化しています。 商品づくりのための作業には中央区の福祉作業所、クローバーズ・ピア日本橋さんの協力を得て、障害を持つ方々に瓶詰め作業などをお願いしています。間伐材を活用したパッケージは住友林業関係の福祉作業所の方々の協力で制作しています。どちらもお互いに支え合うとても大切なパートナーです。

銀座で史上初の農家が誕生!

銀座ミツバチプロジェクトのオリジナル商品

ー銀座で農業生産法人「銀座ミツバチ」を設立されていますね

中央区では環境対策として屋上緑化を推進しているのですが、これはミツバチにとってもうれしいことです。でも緑化せよと言われたから芝生や木を植えましたでは続かないと考えたんです。時間が経てば耕作放棄地になると(笑)。それなら植えたきりにならず利用できる野菜や果実などの方が効果的だと思ったんです。収穫できた農産物をうまく活かすためには農業生産法人になった方がいろいろと都合がいいとわかったので銀座史上初の「農家」になりました。

これが持続性の高い緑化につながっただけでなく、活動の可能性を大きく広げるビジネスマッチングの場になったんです。

ミツバチが喜ぶ菜の花を屋上で栽培。

ー屋上緑化がビジネスマッチングの場に?

一例としてお話しますと、定期的に開催していた「ファームエイド銀座」というマルシェでできたご縁を通じて、地方の生産者さんから野菜などの苗を調達して作物を栽培。収穫の際にはその地方の市長さんにも来ていただき、活動を応援してくれている銀座のクラブのママさんたちにあえて着物姿で収穫作業をしてもらったんです。そうするとそのニュースが地方紙などで報じられて話題になる。そんな接点ができると、今度は銀座でその地方の物産フェアが開催される。ときにはその地方の物産と銀座蜂蜜のコラボ商品もできたり連鎖反応的にモノゴトが動きはじめるんです。

銀座のママの作業風景

大切なことは、ミツバチを通じて人と人がつながる場をつくること、都市と地方の交流の場になること、そして銀座と地方が一緒になって新しい価値を生みだすことなんです。

大分県とのコラボ、カボス収穫祭のワンシーン。

 私たちの財産は、たくさんの仲間

ー銀座ミツバチプロジェクトとは、どんな組織なのでしょうか?

ミツバチプロジェクトは組織ではありません。皆同じ方向を向いた仲間です。“銀座の屋上で養蜂がはじまった”。それがメディアなどを通じて伝わって、立ち上げのわずか2年後に「自分たちの街でもできないか」と相談されるようになりました。東京では中延商店街、自由が丘、多摩センター、赤坂TBS、渋谷東急、江古田と続き、やがて札幌、名古屋、京都、大阪と、数年で主要都市に広がり、現在では全国約100カ所でミツバチプロジェクトが活動しています。養蜂をやる動機も実にさまざまで、たとえば、愛知では愛知商業高校の女子高生たちが地元の商店街を元気にしようと、地域の課題に向き合いながらミツバチを飼いはじめたケースもあります。

銀座の屋上で「銀座ミツバチプロジェクト」とボランティアの皆さん。

ー多くの人の心をつかんだ理由はどこにあるのでしょうか

気候変動に対する将来への不安は、人々の心にじわじわとプレッシャーを与えていると思います。ミツバチが生きられない環境になったら自分たちも危うくなる。ミツバチプロジェクトに興味を持った人たちは、おそらくそんな危機感を持っていて、このプロジェクトのめざすものが「社会にとって正しい」と受け止めたんだと思います。正しいことは人の心を掴みますし、広がる力を持っているんですね。

机上のやり取りではなく、地域に根ざしフィールドで汗を流す仲間がたくさんいれば、何かやろうとするとき必ず力になるはずです。これこそが私たちの財産なんだと思います。

 ミツバチを通じたSDGsへの取り組み

ー子供たちへの食育や緑化の推進など、さまざまな活動をされていますね

ミツバチは蜜を集めるだけでなく植物にとって重要な受粉という役目を担っています。おかげで農作物が実をつけ、自然の生態系も保たれているわけですが、ミツバチの数は世界的に減少傾向にあるんですね。いなくなったら私たち人間も生きていけない。それを知ればミツバチが元気でいられる環境をどう守っていくかを考えなければならない。

菜の花の栽培を通して福島との交流も積極的におこなっています。 

ミツバチの寿命はおよそ1カ月で、1匹が生涯集められる蜂蜜はわずかスプーン1杯くらいです。養蜂を通じて、小さな生き物の一生に触れるだけでも食べ物への意識が変わると思うんです。

ミツバチを知ることで食の大切さも知る。

そんな気づきのきっかけになればと見学会※や子供たちへの環境教育※も積極的におこなってきました。実際にミツバチを見て触れてもらうと、言葉だけの環境保護やサスティナビリティじゃなく、その命のつながりと大切さがすごくリアルに感じられると思うんです。

私たち自身もこれからの街のあるべき姿とか、食や環境の課題とか、いろいろなことに気づかされました。ひとりでも多くの方に同じように感じてもらえたらと活動を続けています。

※コロナ禍の影響で現在は実施していません。

ー再エネへの取り組みにも積極的ですね

地方とつながり、そしてミツバチと接しているといろいろな課題に気づくんです。豊かだった里山が荒れ、耕作放棄地が増えていくこととか。過剰な農薬散布で生き物の数が激減しているとか。

そんな課題に少しでも向き合いたいとの思いから福島市の荒井ビーガーデンと会津美里町でソーラー発電所事業をおこなっています。

荒井ビーガーデンの皆さん。

荒井ビーガーデンは2010年から農地として利用していたものを2018年にソーラーシェアリング化しました。畑に作物を植える作業や草刈りなど発電所を維持するための作業には、地元の地域を守る協議会の皆さんに参加してもらっています。つくった電気は「みんな電力」さんを通じて銀座の海外ブランド企業にも販売され活動資金に充てられています。

ソーラーシェアリング化された農地。

この取り組みが縁で、福島の飯館電力と会津電力、市民電力・徳島地域エネルギー、宝塚すみれ発電など、いくつもの団体に仲間になっていただきました。徳島ではソーラーパネルの下で無農薬のお米をつくりながら養蜂もおこなうことになり、兵庫県宝塚のソーラー発電所もこのモデルを採用することになりました。再エネも、無農薬農業も、そして養蜂も、サスティナブルという同じ方向を向いていますから相性が良いんです。

新たなグリーンインフラで劇的に変わる銀座周辺

ー最後に、これからの活動についてお聞かせください

東京オリンピックを終えて銀座界隈の開発が進んでいます。なかでも銀銀座・日本橋周辺の首都高を地下にする計画が進行していて、日本橋に覆いかぶさっていた首都高がなくなり、かつての日本橋の風景が蘇るんです。

これは銀座にとっても大きな影響があります。首都高の地下化に伴い、銀座の西側の数寄屋橋に通る首都高KK線のスペースが、そのまま公園として緑地に生まれ変わるんです。さらに銀座の東側、京橋から銀座築地に抜ける半地下の首都高も耐震補強のために蓋がけされる予定で、そこにも緑地が生まれます。つまり銀座を囲む3kmものスペースに広大な緑地が出現することになります。

築地川アメニティ完成イメージ図

ーミツバチにとっても銀座にとってもワクワクするお話ですね!

ミツバチたちの絶好の蜜源になることはもちろんですが、この広大な緑地を活かして全国各地の農産物を銀座で育てたいと考えています。苗の植えつけや収穫の際はマルシェを開催し、種や苗の供給でご縁のある全国各地の特産品の紹介や文化的な催事など、多彩なイベントもおこない銀座と地方がつながって盛り上げていきたいんです。

東京の新たなグリーンインフラの可能性は、まさに無限に広がっています。これからが銀座ミツバチプロジェクトの力を発揮するチャンスだと思います。

画像提供/銀座ミツバチプロジェクト

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記事を作った人たち

タドリスト
淀哲治
鎌倉在住。田舎暮らしを夢見る、料理好き、旅好きのコピーライター。広告代理店等でクルマや時計の広告制作に携わり、現在はフリーランス。広告屋なのに広告のない街並みやNHK-BSが大好きな仕事熱心じゃないオジサン。