ヘアドネーションをタドル!Vol.2 ーウィッグをもらった人編ー
ヘアドネーションをして最終的にたどり着くのはウィッグを使用する人たち。
今回は、ヘアドネーションによって作られたウィッグを使用したことがある、佐伯可南さんにウィッグの購入方法から、受け取った時の感情まで、お話を伺った。
ウィッグを受け取った人はどんな思いでいるのか。喜びだけでなく、ウィッグを使うことへの複雑な気持ちやウィッグを作るために協力してくれた人たちへの感謝の気持ちなど…。複雑な気持ちを抱えていた。
目次
「燃えたり、カビが生えたり…」実はケアが大変なウィッグ
―― 今日はよろしくお願いいたします。
佐伯可南と申します。よろしくお願いいたします。
―― 佐伯さんは、ウィッグを使っていたことがあるのですよね?
はい。6~7年前くらいに2年間ほどウィッグをかぶっていた時期がありました。今は地毛で生活しています。
―― ウィッグはどのように受け取ったのですか?
ウィッグは、行きつけの美容室から購入しました。
基本的なウィッグの購入方法は、病院でもらえるパンフレットや大手のウィッグメーカー、美容室などに自分から連絡してオーダーすることが多いです。
私も使っていたウィッグにたどり着くまで5社ほど回りました。病院がおすすめしてくれたウィッグも、大手メーカーのウィッグも試着しましたが、結局、値段とデザインを重視して、自分に似合う髪型を一番よくわかってくれている行きつけの美容院に頼みました。
また、私は髪が抜ける前の髪型に近づけたかったので、美容師さんに似合わせカットしてもらいました。髪が抜けてしまう前の私を知ってくれている美容室から買ったので、カラーやカットはすべてお任せできたのはとてもよかったです。
―― 値段も重視されたということですが、どのくらいかかるものなのですか?
値段はどれくらいウィッグにこだわるかによってピンキリです。安いのだと5万円くらいで買えますが、付け心地や髪質などは限られています。
頭の形などもサイズを測って、髪質から色、付け心地まですべてフルオーダーだと40万円くらいしていたと思います。人毛が多ければ多いほどウィッグは高くなる傾向があります。それから、価格が高いものはアフターケアがしっかりしているところが多かったですね。
―― お手入れはどのようなことをするのですか?
ウィッグは熱に弱いので、極力ドライヤーを使わないで乾燥させることが推奨されています。かぶっていないときは風通しの良いところでよく乾燥させることが大切でした。
ウィッグって本当に熱に弱くて(笑)私、冬に石油ストーブの前で寝っ転がって過ごすのが好きなんですが、ウィッグをかぶって寝転んだら燃えてしまったことがあって。今となっては笑い話ですが、当時はとてもショックでした。
私のウィッグは人毛と人工の毛が混ざったものだったので、たぶん、熱に特に弱い人工の毛の部分から燃えてしまったのだと思います。それくらいウィッグは熱に弱いので、扱いは大変でした。
―― 汗などはかいても大丈夫なのですか?
ウィッグ自体は大丈夫だと思いますが、私は夏にウィッグを付けると耐えられないくらいの暑さでかなり苦痛でした。
これもさっきのウィッグの値段と関係しているのですが、高ければ高いほど、メッシュ素材が高性能で、汗をかいても不快にならないように作られているんです。
また、人毛の割合が高いと、値段は高くなりますが、つけた感覚がなくて見た目も付け心地も自然なのです。
「ウィッグは相棒」仕事や外出を楽しむ勇気をくれた
―― ウィッグの他に、髪の毛を縫い付けた帽子も使っていたとか?
はい。ウィッグって消耗品なので、できるだけ負担を減らすために、仕事がない日などは帽子をかぶっていました。
でも、帽子をかぶっていても、「あ、この人髪ないな」ってわかるんですよね。もみあげが出てないとか襟足がないとかそういうことでやっぱりわかってしまう。なので、部分的なウィッグを購入して、前髪、おくれ毛、襟足を自分で縫い付けてかぶっていました。
―― フルウィッグではない髪の毛もそんな使い道があるのですね。
そうなんです。だから、少量でも髪を提供してくれる方がいるのはとてもありがたいんです。
―― 生活していて他に困ったことはありましたか?
帽子屋さんに行って、帽子を入手するのがとても大変でした。なぜなら、帽子屋さんって試着室がないから。
髪がなくなった後も、おしゃれな帽子がかぶりたくて、帽子屋さんに行ったんですが、試着はすべて店内にそのまま置いてある鏡の前でするしかなかったんです。当時の私にはそこで試着する勇気はありませんでした。結局、どれも買えなくて、家に帰って泣いたのを覚えています。
帽子屋さんにも試着室があったら、髪に悩みがある人も気軽に試着できるだろうに、と思いますね。
―― ウィッグは佐伯さんにとってどんなものでしたか?
受け取ったときは正直、「うれしい!」と手放しで喜んだわけではありませんでした。「ああ、私は誰かのお世話にならないと外に出られないのだな」と思いましたし、「いつまで自分の髪が生えてこないのだろう?」とも思いました。
でも、ウィッグが当時の私を救ってくれたのは事実で。ウィッグがなかったら、あれほど早く仕事復帰できなかったと思いますし、病気になる前と同じように外に出ることはできなかったと思います。もう、相棒でしたね。(笑)「出かけるときに携帯や財布は忘れても、こいつ(ウィッグ)だけは忘れない!」って感じで。
今は地毛なので、ウィッグは必要ないですが、今でもお守りのような存在で家に置いています。
想うことはたくさんある。でもどこに向けて発信すれば?
―― 今はご自分の髪で生活しているということですが、何か思うことはありますか?
今は、やっぱりウィッグを作るために髪を提供してくれた人とか、作ってくれた人とかに「ありがとう」って言いたいと思います。
ウィッグを使っていた当時は「自分がウィッグを使っている」っていうことを声に出すことは勇気のいることだったけど、どこかで「感謝を伝えられたら」って思っていました。でも、そういうところは今はなくて。
もちろん、ウィッグを使っている人の気持ちとかもあると思うので、実名を出してとは思いませんが、匿名でも感謝を伝えられるような場所がこれからできたらいいなと思いますね。
それから、ウィッグって、髪がない人たちにとってのものだと思われがちですが、そうじゃないんです。誰しもが髪がなくなるかもしれない可能性と一緒に生きている。だから、今はウィッグと縁がない人も、1つの情報として知ることができたらいいなと思います。
―― ウィッグに対していろいろ想いはあるけれど、それをどこに発信すればいいかわからない、もしくは、発信する場所がないんですね。
そうですね。私自身、このインタビューを受けるまでぼんやりと「ありがとうって思ってるけど誰に言えばいいのかな?」と思ってるだけでしたし、工場でウィッグを作っている人がどれほどの手間と時間をかけて1つのウィッグを作成してるのかもいまだによくわからない部分も多いです。
むしろ、知りたくなりました(笑)
これはウィッグに限ったことではないですが、作る人と使う人がもっとつながれたら、と思います。
まとめ
「ウィッグにありがとう、と今でも言ったりする。でも、本当なら、髪の毛を寄付してくれた人たちに感謝を伝えたい。」そんな心の内を明かしてくれた佐伯さん。
頭髪の悩みを持つ人にとっては、外に出たり、人に合ったりするために背中を押してくれるお守りのような存在であるウィッグ。だが、髪の毛そのものが貴重であることと、加工技術の難しさで、簡単には手を出せない金額であるのも事実だ。
その点、ヘアドネーションは、髪を無償で提供することで髪の仕入れ値を安く抑え、ウィッグの値段を下げることにもつながるのだろうが、それを肌で実感することはウィッグを受け取った人自身であっても難しいということが今回のインタビューでは明らかになった。
次回は、寄付された髪を集める団体代表に、日本のヘアドネーションの実態と、社会へのインパクトについてインタビュー。乞うご期待。