【最終回】ムハマド・ユヌス × 大石英司|世界を治す具体策
読みもの|9.28 Mon

  ムハマド・ユヌスさんの言葉が私たちにスッと入ってくるのは、企業としてのみんな電力の在り方と要所要所でシンクロするからだろうか。そこにはみんでん代表・大石さんがユヌスさんから受けた薫陶があるだろうし、それをユヌスさんに伝えると、すぐ未来の協業相手に自らのメッセージが伝わっている感触を、喜ばれてらっしゃった。
 みんな電力は当初から、「”ソーシャル”エネルギーカンパニー」を名乗っている。
 「ソーシャル」の言葉はSNSやESGの「S」であり、ユヌスさんが世界に広げた概念でもある。そこにはどんな想いが込められているか。
 ユヌスさんが世界各所で見ている希望の萌芽について聞きながら、しかし、このまま行けば間違いなく地球が終わってしまう危機感を肝に銘じながら、勇気づけられ、学ばせていただいた対話。
 これはユヌスさんとみんな電力が共に歩み出した、最初の一歩である。
ーグラミンのネットワーク以外で、世界のどのようなところで、新しい考えの萌芽は見受けられますか?

49186300738_a37ac9cba5_o

Photo: Yunus Centre

ユヌス まず一つは、すでに世界で32カ国、86の大学がユヌス・ソーシャルビジネス・センターを設立してくれています。そしてこの数は毎月増え続けています。
 もう一つは、多くの国がソーシャルビジネスに共感を示してくれています。フランスもそのうちの一つの国です。オリンピックは、東京はコロナウィルスの影響で残念なことになってしまいましたが、2024年にはパリが控えています。
 私たちは現在フランスとコラボレーションをして、パリのオリンピック全体のテーマをソーシャルビジネスとして構築しています。これは世界に、巨大なインパクトを与えるでしょう。事業規模7億ユーロの、壮大なプロジェクトとなります。
 他にもたくさんのヘルスケア関連、製薬会社もソーシャルビジネスに興味を持っています。彼らはワクチンの開発によって裕福な国からの巨額の利益を期待しています。私たちは現在、それら裕福な国々、製薬会社に、ワクチンが世界中の人々に行き渡るように働きかけています。
 ワクチンはもちろん誰にでも買える価格に設定されますが、それでもワクチン代を支払えない貧しい層には無料で届け、裕福な層からはその分を補填するだけの金額をもらえばよいのです。そしてその時、企業は法外な利益をとらないようにすべきです。
 私たちはコロナウィルスとパンデミックに関して、「ワクチンは公共の財産として扱われるべきである」と協議しています。また、ワクチンに関するあらゆる情報は、誰もが使えるオープンソースであるべきです。このことについて私たちは宣言を出し、宣誓書にはゴルバチョフ元書記長、ジョージ・クルーニー、U2のボノなど著名人135名にサインをもらい、「ワクチンはグローバルな公共財産である」と記しました。
 そうしてはじめて、どこでも誰でもワクチンをつくれるようになります。ワクチンが誰の手にも届くようになる、まさにソーシャルビジネスが生まれるわけです。これはグローバルなムーヴメントです。
ー素晴らしいコンセプトと実践です。ただ、「ソーシャル」という言葉によって崩壊した旧ソ連や中国、キューバの社会主義を想起させることはありませんか?

49187003447_eb468f0c84_o

Photo: Yunus Centre

ユヌス 私が「ソーシャル」という言葉を使う時、それはある一つのビジネスのかたちについて語っています。これが「ソーショナリズム(社会主義)」となると、国がシステムを主導する立場となります。そうなると国がビジネスについても主導することとなりますが、ソーシャルビジネスに国の介入はありません。これは「私たちが、どのようにビジネスを実践するか」という話なのです。
 ソーシャルビジネスは独立しながら成立し、目的は人を助けることにあります。それは個人や企業の営利目的では存在しない、利益を出さない、社会問題を解決することに貢献するビジネスなのです。これはあなたや私やどんな個人であれ、国家であれ、国際的なNGOであれできることです。そしてもちろん大きな利益を出す企業を経営しながらでも、それと平行して、ソーシャルビジネスは成立します。
 フランスのダノン、日本のユニクロなどなど、世界のたくさんの大企業が、それぞれの主軸となる事業とは別に、ソーシャルビジネスをはじめています。
 ソーシャルビジネスは新しい社会をつくる手法として、世界に広がりつつあります。
 今私たちが取り組んでいるのは、ソーシャルビジネス銀行です。銀行はこれまで、自らの利益のため、とにかくその最大化を目的とした取り組みを繰り返してきました。しかしそうではない、自分たちの利益を求めず、これまでの社会システムでは銀行に相手にされなかった層に向けた、彼らでも参加できるソーシャルビジネス銀行のシステムを構築しています。
 ソーシャルビジネス用の投資ファンドも設立します。そして繰り返しますが、あらゆる存在は起業家なのです。仮に対象が貧困層であっても、その自己実現支援のため、資金を提供できるようにします。さらにはソーシャルビジネスVCファンドも、つくります。それができれば、私たちはあらゆる起業家たちのパートナーとなれます。資金提供を受けたものが運営し、ビジネスを成功させ、私たちは利益を求めず、貸した資金の回収さえできればよいのです。
 ソーシャルビジネスは利益を求めることに目的がありません。だから、それがどんな方々であれ起業する手助けができれば、さらに次のステージへと行くことができます。この手法はあらゆる事業、領域で機能させられます。
 すでに毎年6/27、28には「ソーシャルビジネス・デイ」が制定されています。毎回場所を変えながら、今年はミュンヘンで開催されました。
ーすでに起きている世界の事例を聞いて勇気づけられる想いです。新しい社会システムの構築に、現在一番の課題となっているものは、何でしょう?

49186813001_904d08a1b2_o

Photo: Yunus Centre

ユヌス 最大のチャレンジは、現状のまま社会を進めていくと、地球そのものが終わってしまうという理解を人々を浸透させることです。このままでは子どもたちの未来はありません。だからこそそれに気づいた彼らは路上に出て、声を出しています。さらにその子どもたち、私たちの孫には、より厳しい現実が待っています。
 今、できてしまったこの負のサイクルを逆行させる時がきています。まず私たちがそれを実践し、子どもたちに今よりも安全な環境を託さなければなりません。そしてその子どもたちも同じことを実践することで、さらに新しい世代に、まだいくぶんか改善された環境が残せるようになるでしょう。
 これは私たちの責任なのです。
 「してはいけないこと」、「すべきこと」を明確に、私たちの成長のプロセス、教育のプロセス、政策決定のプロセスに組み込んでいかなければいけません。すべてを融合させ、どのように世界の人々のマインドを促していくか、それが最大の挑戦です。
 私たちはそれを実践する力をすでに持ち、それが必要であることの理解まではできています。今、それを断固として実践する決断が必要なのです。そうしなければ、人類も地球も滅亡してしまうでしょう。

ユヌス会談取り出し 7.key

約1ヶ月に渡る、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌスさんと大石さんの対話の記録、いかがだったでしょうか。
引き続き、ユヌスさん率いるグラミングループとみんな電力のかつてない協業、お楽しみに、注目ください、、!

★毎月の電気代から寄付できる『グラミンでんき』はコチラ★
↓↓↓↓↓
https://minden.co.jp/personal/grameen/

 

(通訳:鈴木敬子/構成:平井有太)
2020.07.28 tue.
SHARE: LINE Facebook
URL
URLをコピーしました